第179話 新たな魔剣の力
荒野の農場に現れたモンスター。
その正体は――
「デザートボアか……」
砂色をした巨大な牙つきのブタ。
それが全部で五頭――鼻息も荒く、こちらを見つめていた。
「獰猛な性格で知られるデザートボアが五頭……厄介な相手ですわね」
「言うほど厄介かな?」
冷静に分析するフラヴィアと余裕のレクシー。
ふたりの言う通り、これまで戦ってきた相手と比べると、物足りなさはある――が、油断は大敵。どこで足元をすくわれるか、分かったものじゃないからな。
「さて、どうしますか、アルヴィンさん」
「……新しい魔剣の力を試すにはちょうどいい相手かな?」
「わたくしもまったく同じことを思っていましたわ」
「なら――ここは俺に任せてもらおう」
そう言って一歩前に出ると、魔剣を鞘から引き抜き、魔力を込める。
いつも戦っていた時となんら変わらない動作――が、やはり新しくなったというだけあって、魔力が全体に行き渡るスピードや増幅量もハンパではない。いい仕事をしてくれたよ、メアリーさん。
「お、おぉ……これが――」
「新しい魔剣の力……」
ゴクリ、と唾を飲んだのはスヴェンさんとドルー。
ふたりがパワーアップした魔剣を見るのは初めてだったな。
他のみんなはメアリーさんの工房で一度目にしているが、実戦でこいつを使うのは俺にとってもこれが初めてだ。
「……よし!」
俺は新しい魔剣を手に、一歩を踏み出す。
デザートボアは農場を絶好の餌場と認定したらしく、その前に立ちはだかる俺を敵と判断して一斉に襲い掛かって来た。
「「「「「ぶおおおおおおおおお!!!!」」」」」
低い雄叫びが曇天の空に轟く。
あれだけの巨体が一斉にこちらへ向かってくると、さすがにその足音は地響きのように聞こえる。
――だが、負ける気はまったくしない。
これまで以上に強力となった魔剣を手にしていると、自然とそんな自信が溢れてくるのだ。
「《焔剣》――フレイム・ブレイド!」
これまでに何度も使ってきた炎魔法。
その威力は劇的に増加していた。
俺の周囲に立ち上る五本の炎柱。
それらはまるで生きているようにうねると、真っ直ぐデザートボアへと向かっていき、ヤツらの巨体を丸呑みにした。あとに残ったのは、デザートボア五頭分の灰だけだ。
「こ、これが、新しい魔剣の力……」
「す、凄まじい威力ですわ……!」
「今までも十分とんでもなかったけど……これはさらにヤバいわね」
「私と戦った時よりもずっと凄い……」
シェルニ、フラヴィア、レクシー、ケーニルの四人は力なく呟く。ザラに至っては何も言えず、ちょっと涙目になっていた。
俺は手にした魔剣へ視線を移す。
改めて、こいつの凄さを実感すると共に、「使い方を誤ってはいけない」という思いも湧き上がってくる。
そういえば、師匠から魔剣を譲り受ける時、同じようなことを言われたっけ。
『魔剣とは強力な力を有する反面、使う者の精神を蝕む可能性も秘めている』――と。
ただ、師匠は同時に『そうしたリスクもおまえなら跳ねのけられるはずだ』とも言っていた。
その期待に、応えなくちゃな。
……ちょっと、他の属性を試してみたいという気持ちも浮かんできたが、今はそれよりも農場についてだ。
「えぇっと……とりあえず、問題は片付いたみたいですね」
「あ、ああ……」
スヴェンさんもドルーもポカンと口を半開きにしていた。
新しい魔剣――これなら、誰が相手でも負ける気がしないな。
その手応えが得られたのが、さっきの戦闘の収穫ってところか。
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