第8話 月下の戦い
※次回は明日の夜6:00頃に投稿予定!
店の外へ出た俺とハミルは、剣を構えて対峙する。
店の窓からはギルドの職員や、フラヴィアの誘いに乗らなかった冒険者がジッと見つめている。一方、向こうはフラヴィアとその周りを囲むオーレンライトの親衛隊に属する大勢の騎士たちの姿があった。さらに、フラヴィアの誘いに乗った冒険者たちは、馬車へ荷物を詰め込む作業を中断し、俺とハミルの戦いに視線を送っていた。
「逃げださずに勝負を受けたことは褒めてやる」
「そりゃどうも」
自信満々のハミル。
負けるなんて微塵も思っていないだろうな。
……だったら、最初からこいつを解放しておこうか。
「いくぞ!」
俺が剣を抜いたと同時に、ハミルが仕掛けてきた。
速い。
それが、初撃の印象だった。
伊達に親衛隊長の地位を与えられているわけじゃないか。
「おおおおおおおおおおおお!!!!」
豪雨のように降り注ぐ斬撃。
それを、俺はすべて捌いていく。これは魔剣を使うとか使わないとか、それ以前の問題だ。確かにこのハミルという男の攻撃は速い。ただ、言い換えれば、速いだけなんだ。
「はあっ!」
「ぐっ!?」
ハミルの連撃の隙を突き、俺はヤツの連撃を弾き返した。
それにしても、さすがは親衛隊長だ。
さっきのリチャードってヤツと同じように、剣を吹っ飛ばすつもりだったが、手放さずしっかり握られている。
「ちぃ! 駆け出しの冒険者のくせに、なかなかやるじゃないか! だが、お遊びはここまでだ!」
ハミルは剣を構え直す。
遊びは終わり、か。
だったら――俺も魔剣本来の力で相手をしてやる。
そう決めた俺は、魔剣に魔力を注いでいく。
「さて……どいつを試すか」
俺は牽制とばかりに、魔力の質を微妙に変化させ、さまざまな属性を小出しに見せていく。すると、ハミルの顔色がみるみる変わっていった。
「な、なんなんだ、その剣は!?」
「魔剣だよ。話くらい聞いたことがあるだろ?」
「!? バカな! 魔剣だとぉ!?」
目を血走らせ、これまでよりもひと際大きな声で叫ぶハミル。
なんだ、魔剣だとは知らずに突っかかってきていたのか。
「あり得ない! 聖騎士の中でもごく一部の者しか扱えないとされるあの魔剣を、貴様のような素人冒険者がどうして!?」
「そう言われてもなぁ……魔剣の扱い方は、その聖騎士から教わったから、使えるんじゃないかな」
「……何?」
今度は静かに驚いているハミル。忙しいヤツだな。
「だから、この剣の扱い方はロッド・フローレンスって聖騎士から教わったんだって」
「ロッド・フローレンスだと!?」
うん?
なんだ、師匠を知っているのか。
「信じられるものか!」
「なら――」
魔剣使いであることを頑なに認めないハミルを納得させるため、俺は魔剣を高々と夜空へ掲げた。すると、黒い剣の周りから、紫色の魔力がオーラとなって溢れ出る。発光石の埋め込まれた町の街灯の下、魔剣より放たれた魔力が俺の全身を包み込む。
ハミルは愕然とし、小さく呟いた。
「まさか、本当に……魔族六将のひとり、《氷雨のシューヴァル》を倒したという、あのロッド・フローレンスが師匠だというのか……?」
魂が抜け落ちた状態のハミル。
どうやら信じてくれたようだが……というか、師匠を知っているのか。聖騎士っていうのは前に聞いていたけど、ここまで衝撃を与える人物だとは思ってもみなかったな。それから、訂正しておくと、師匠は氷雨のシューヴァルを倒していない。窮地にまで追い込んだらしいが、結局引き分けたと聞いている。
まあ、ともかく、信じてくれたのなら、勝負を再開といこう。
「それじゃあ、ハミル――続きをしようか」
「ひっ!?」
少し睨みを利かせると、ハミルはペタンとその場に尻もちをついてしまい、戦意を喪失してしまった。
これ以上は、もう歯向かってくることはないだろうと判断し、俺は魔剣への魔力供給をやめて鞘へと戻した。
すると、どこからともなくパチパチと拍手の音が。
「素晴らしいですわ」
オーレンライト家のフラヴィアお嬢様だった。
「親衛隊屈指の剣士であったハミルを歯牙にもかけぬその腕前……お見事ですわね」
「……急に何のつもりだ?」
「ただ賞賛を送っているだけですわ」
賞賛?
……よく言う。
さっきまでゴミを眺めるような目でこっちを見ていたくせに。
「その強さを認め、あなたをわたくしの親衛隊へ入隊させてあげますわ」
「はあ?」
いきなり何を言いだすんだ、このお嬢様は。あまりに突拍子もない発言をしたものだから、周りの騎士たちもめちゃくちゃ驚いているぞ。
「い、いけません、お嬢様!」
それに抗議をしたのはハミルだった。
「こんな、どこの誰かも分からぬ馬の骨を親衛隊に加えるなど!?」
「その馬の骨に手も足も出なかったのはどこの誰だったかしら? おまけに、腰を抜かすなんてみっともない格好まで晒して……王国騎士団の副団長を務める御父上が知ったらさぞ悲しまれるでしょうね」
「っ!?」
ハミルの父親って、エルドゥーク王国騎士団の副団長だったのか……だから態度が人一倍デカかったのか。そりゃあ、さっきの失態は知られたくないよなぁ。ただ、さっきのリチャードってヤツよりかは後ろ盾が強力みたいだから、俺に負けたくらいじゃクビにはならないだろう。
「いかがかしら? 給金は望むがままですし、望むのであれば家や使用人も用意いたしますわよ?」
「随分な厚遇だな」
「聖騎士でもごく一部しか扱えないとされる魔剣を使う騎士……それに、その実力は今この目でハッキリと見ましたもの。先ほどの条件は妥当なものと思えますが?」
それについてはお嬢様の言う通りだ。
というか、正直言って破格といっていい。
さっきハミルが言っていたが、素性のハッキリしない俺のような男に、御三家の一角を担うオーレンライト家の御令嬢を守る親衛隊の座を用意する――本来ならば、尻尾を振ってその座に腰を下ろすのだろうけど、
「それでも、俺は親衛隊には入らないよ」
俺は断る。
「なぜですの!?」
「あんたを守ろうなんて気はこれっぽっちもないからだ。それと、あんたが冒険者たちにやらせようとしているクエストとやらも、受ける気はない」
フラヴィアは俺が断ると思っていなかったらしく、俯き、プルプルと小刻みに震えている。相当頭に来たようだ。
「このわたくしの誘いを断って……どうなるか分かっているんですの?」
ついにはお得意の権力を振りかざしてきた。
「どうなるかって……そっちの勇敢な親衛隊が俺を取り押さえるのか?」
「当然ですわ! さあ、やりなさい!」
「だったら、俺も手加減はできないな」
俺は周囲の騎士たちを一瞥し、鞘へと手をかける。すると、それに反応して騎士たちも剣を構えた。――が、誰ひとりとして、俺に襲いかかってくる者はいない。
「!? あ、あなたたち! さっさとその男を捕まえなさい!」
フラヴィアはそう命じるが、誰も動かない。
そりゃそうだろう。
この中で一番腕の立つハミルが負けたんだからな。
しかし、騎士たちの忠誠心があればひとりくらい斬りかかってきそうなものだが……よっぽど信頼されていないんだな、このお嬢様は。
「っ~~!!」
誰も動きださないことに苛立ちが頂点となったフラヴィアは、「この屈辱は決して忘れませんわ!」と吐き捨てて、ギルドを出ていった。
「最後までやかましいヤツだったな。……オーレンライトといえば、名門魔導士の一族として有名だが……あの子も魔導士なのか?」
剣を鞘に収め、重苦しく息を吐く。
……まいったな。
どう考えても、厄介事が転がり込んできそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます