第227話 再び北区へ

 次の日。


 ブロムスク夫人に偽物のブランドバッグを売り渡した詐欺商人が潜んでいる噂を検証するため、俺たちは町中の運河にかかる橋を渡ってダビンクの北区へと足を踏み入れた。

 

 かつて、ここでは違法とされている奴隷商が行われていた。

 ザイケルさんも以前からずっとマークをしているが、組織は尻尾を見せず、闇に紛れて商売をしていた。


 しかし、その奴隷商を取り仕切っていた男――エルドゥーク王国魔法兵団に所属していたマーデン・ロデルトンを倒したことで、消滅。

 今も改装作業の真っ只中であった。


「ここに来るのも久しぶりですね」

「確か、シェルニさんの記憶を取り戻すきっかけになったネックレスがあったんですよね?」

「ああ。今となっては、その建物のすでに解体されているようだけど」

 

 共に北区を訪ねたのはシェルニとザラのふたり。さらにザイケルさんとネモを加えた四人と共に情報を追っていく。

 シェルニに関しては、過去のこともあるのでレクシーあたりを誘おうとしたが、本人の強い希望で参加することとなった。


「……大丈夫か、シェルニ?」

「はい! 何も問題ないですよ!」


 笑顔で応えるシェルニ。

 ……どうやら、本当に平気のようだ。


「だいぶ賑やかになってきましたねぇ」

「とはいえ、まだまだ半分以上はまだ手つかずの状態だ。店だって、外部から入って来られる北門周辺に限られているしな」

「でも、ゆくゆくはさらに数を増やしていきたいと?」

「当然だ」


 ネモとザイケルさんが商売の話に夢中となっている間、俺はレクシーとザラを連れて運河沿いを見て回った。

 赤いレンガ造りの倉庫が並ぶこの辺りも、以前は薄気味悪い気配が漂っていた。

しかし、それも今では運河で運ぶ品を保管するなど、倉庫本来の役目をしっかりと果たしている。


「以前とはまるで雰囲気が違いますね」

「本当に……まったく別の町にいる感覚さえあるよ」


 それほど、ザイケルさんが力を入れている再建計画が進んでいるということだ。

 季節もあるのだろうが、吹く風も暖かく、外へ出るには打ってつけの気候だ。


 ――しかし、かつてここを根城にしていた奴隷商の残党が、今度は詐欺行為を組織ぐるみで行っているという。


 北区は広い。

 それに、奴隷商が横行していた際、連中は奴隷を捕えておいたり、オークションの会場とするため、この町の地下にいくつもの隠し部屋を造っていたという噂がある。


 噂が真実なら、それを片っ端から当たっていくうちにヤツらへたどり着けるはず。

 

「ブロムスク夫人が騙されて買ったブランド……ママもたくさん持っているから、もしかしたら偽物を買わされているかも」

「それは心配ですね……」


 ザラとシェルニは、運河を眺めながらそんな話をしている。

 その時、ふとある人物の顔が脳裏をよぎった。


「ブランド……」


 そういえば……昔の知り合いにも無類のブランド好きがいた。

 腕の立つ魔法使いで、人一倍プライドの高い女性。

 そして――カジノで儲けようとしたタイタスとも知り合いだ。


「まさか……な」


 脳裏に浮かんだ疑念を振り払うように、俺は首を左右へ振った。

 それでも……完全には消えなかった。

 もしかして、今回の詐欺事件の首謀者は――

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