第225話 偽りのブランド

「この私をブロムスク家の当主であるカーム・ブロムスクの妻と知ってこんな偽物を売りつけたというの!!!!」


 コメカミに血管を浮かべながらブロムスク夫人は怒りをぶちまける。

 このままにしておいたらぶっ倒れそうだな。

 

 それにしても……ブロムスク家か……聞いたことがないな。辺境領地を治めている田舎貴族ってところか。他人様の領地にあるギルドでの振る舞いを見る限り、思慮の浅さが見て取れるな。 


「責任者は誰なの!!」


 ついには責任者を出せと言いだした。

 すると、


「俺に用があるそうですね?」


 店の奥から、ひと際大柄の男性が出てくる。

 ご要望通り、責任者であるザイケルさんがやってきた。

 その威圧感に、さっきまで喚いていたブロムスク夫人の口は一瞬でキュっと締まり、二の句が継げなくなっていた。

しかし、すぐに怒りが再燃。

 ザイケルさんへ食ってかかった。


「鑑定魔法を扱える者に調べさせたら、ここで購入したというバッグは偽物だって言うのよ!」


 やはり、偽のバッグを掴まされたのか。

 よく見ると、ブロムスク夫人の持っているのは、今巷で人気のブランドが手掛けたバッグだった。

 その人気から、偽物の多く出回っていると聞く。

 ……しかし、妙だな。


「ブロムスク夫人」

「何かしら!」

「そちらのバッグですがね……うちじゃ扱っていない商品ですな」

「なっ!?」


 そうなのだ。

 あのブランドは直営店以外だと世界にも数店舗でしか取り扱っていない。そうした基礎情報すらなく、適当にここで仕入れたと語る行商人から購入したのだろう。


 ――という情報を、ザイケルさんはブロムスク夫人に懇切丁寧に説明をしていく。

 それでも、最初は納得いかないという表情を浮かべていたブロムスク夫人。

 だが、ここで最強の助っ人がやってくる。


「失礼いたしますわ。アルヴィンさんはいらっしゃいます?」


 同じく貴族でありながら、こちらは御三家に数えられるオーレンライト家の令嬢フラヴィアだ。


「いいタイミングにゃ!」

「ホント……狙いすましたように来るなぁ」

「? なんのことですの? ――あら?」


 フラヴィアの視界がブロムスク夫人を捉える。

 同時に、ブロムスク夫人もギルドに入って来たのが御三家令嬢であるフラヴィアだと気づいて、


「フ、フフ、フラヴィアお嬢様!?!?」


 目玉がこぼれ落ちそうなほど驚いていた。


「ブロムスク夫人? こんなところで何をしていますの?」

「あ、あああ、あのあの」


 さっきの勢いはどこへ行ったのやら。

突然のフラヴィア登場に慌てふためいた末に縮こまるブロムスク夫人。

 ザイケルさんみたいな偉丈夫には突っかかっていけるが、さすがにフラヴィアには無理だったか。


「と、というか、なぜフラヴィアお嬢様がこんなところに!?」

「クエストの達成報告に来たのですが」

「??????」


 ブロムスク夫人……今度はパニック状態に陥ったぞ。


 無理もないか。

 俺たちはもう慣れちゃったけど、御三家令嬢であるフラヴィア・オーレンライトが冒険者稼業しているなんて信じられないよなぁ。


 ともかく、ザイケルさんに加えてフラヴィアが急遽参戦。

 夫人を落ち着かせると、再度事情を聴きだすことに。


 さすがにフラヴィアが「こちらの方は信用できる方ですわ」とフォローすると、ようやく夫人もザイケルさんの言葉に耳を傾けるようになった。

 その結果、


「なら……あの男に騙されたということですね」

「あの男……?」


 どうやら、それが偽物を売り歩いているらしい。

 一体、何者なんだ?

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