第170話 一方その頃、シェルニたちは……
アルヴィンたちが深い霧の中で一角狼と戦闘を繰り広げていた頃。
シェルニ、フラヴィア、レクシーの三人は魔剣復活の材料になる銀魔鉱石を求めて、ローグスク王国へ向けて馬車を走らせていた。
かなり離れた位置にあるため、移動時間は往復で四日を予定していた。
ローグスク王国へ到着すると、大歓迎で迎え入れられた。
父親であるローグスク国王にいたっては、公務を放り出してまでシェルニを出迎えるほどだった。
早速、三人は事情を説明。
娘のシェルニを救い、今もお世話になっているアルヴィンの一大事ということもあり、ローグスク国王はすぐさまありったけの銀魔鉱石を用意すると約束してくれた。
その銀魔鉱石収集に少し時間がかかるため、三人は準備が整うまでの間、城内でお茶を飲みながらまったり過ごすことに。
「手入れの行き届いた立派なお庭ですわね」
「ホントねぇ。なんだか、見ているだけで心が豊かになっていく気がするわ」
「あら、随分と女性らしいことが言えるようになりましたわね」
「まあ、誰かさんに厳しく仕込まれたからね」
フラヴィアとレクシーのやりとりを見て、シェルニは「ふふふ」と小さく笑う。
記憶を失くし、奴隷商に売り飛ばされた時には、もう二度と笑うことなんてできないだろうと思っていたが、こうして仲間との楽しい時間を過ごせるようになったのは本当に奇跡だと感じている。
その奇跡を叶えてくれたのが――アルヴィンだ。
「…………」
「? どうかしたの、シェルニ」
「お加減が優れませんの?」
「あ、いえ、そういうわけではなくて……」
なんだか言いにくそうにしているシェルニ。
そこへ、フラヴィアとレクシーがフォローをかける。
「何か困ったことがあるなら、わたくしたちに相談してください」
「あたしもフラヴィアも、シェルニのことを本当の妹みたいに思っているんだから、遠慮はいらないよ?」
「! あ、ありがとうございます。それでは――」
シェルニはコホンと咳払いを挟んでから、
「おふたりはアルヴィン様のことをどう思っていますか?」
とんでもない話題をふっかけた。
シェルニからその手の話題が出たことなどこれまで一度もなかったため、ふたりは面食らってなかなか言葉が出てこない。
気まずい沈黙を破ったのはフラヴィアだった。
「ア、アルヴィンさんは商人としても剣士としても素晴らしく、尊敬に値しますわ」
「そ、そうだよね! いやぁ、ホント凄いよ、アルヴィンは!」
誤魔化すふたり。
いつもの調子なら、これで丸め込める――が、
「いえ、そうではなくて、ひとりの男性としてどう思っているか聞きたくて」
「「!?」」
フラヴィアとレクシーは驚いた。
これほどまでにシェルニが踏み込んだ発言をしたことなど今までなかったのだ。
こうなってくると、誤魔化すわけにもいかない。
シェルニが真剣な以上、自分たちも真剣に答えなくてはいけないだろう。
「……わたくしは、ひとりの殿方としてアルヴィンさんを慕っていますよ」
「! フ、フラヴィア!?」
フラヴィアはハッキリと自分の想いを口にする。
これまで、「きっとそうなんだろうな」という漠然とした感覚でしか好意を測れなかったが、キッパリと想いを告げたことで明るみとなった。
――が、このままでは終わらない。
「ですが、その想いはシェルニさんも同じでなくて?」
すぐさま反撃に出るフラヴィア。
これは想定していなかったようで、シェルニは戸惑っていたが、
「……はい」
ついに認めた。
「ふふふ、わたくしたちよりも付き合いは長いですし、記憶を失くしてからずっと一緒にいたとなると……当然流れですわね」
「うぅ……」
「それで、シェルニさん。このことを聞いて、どうするつもりでしたの?」
一転して攻勢に出るフラヴィア。
それを受けて、
「しょ、正直なところ、自分でもよく分からないんです」
シェルニはありのままに答える。
「ただ、凄く気になって……どうにもできない気持ちになって……」
「それでいいんですのよ。焦る必要はありませんわ」
そう言って、フラヴィアは紅茶で満たされたカップに手を伸ばす。
「ありがとうございます、フラヴィアさん」
「あら、わたくしはただ質問に答えて質問を返しただけですわ」
笑い合うシェルニとフラヴィア。
一方、レクシーは完全に置いていかれた格好になった。
「ちょ、ちょっと! あたしも会話に混ぜてよ!」
「では、レクシーさんのアルヴィンさんへ対する想いをお聞きしましょうか」
「へっ!?」
「あ、それ私も聞きたいです!」
「ちょっ!?」
火に油を注いでしまう形となったレクシーは、この後、フラヴィアとシェルニに散々いじられるのであった。
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