第169話 霧の中の戦い
※あけましておめでとうございます!(遅)
本年もよろしくお願いいたします!
現れたのは全身が灰色の毛で覆われた牛。
歪に曲がった太い角……あんなので体当たりされたらひとたまりもない。
「お目当ての敵ではないみたいですけど……向こうはヤル気満々みたいですね」
「よし、じゃあここは私に任せてもらおうかな」
拳をガンガンと突き合わせて、ケーニルが一歩前に出た。
「ぶもおおおおおおおおお!」
血気盛んな巨大牛型モンスターは、鼻息も荒く突っ込んでくる。
一歩一歩踏み込むたびに、激しく地面が揺れ動いた。
――が、ケーニルに退く気配は微塵もない。
慌てることなく、一度大きく息を吐いてから、牛型モンスターの眉間に向かって拳を突きだす。
「せいっ!!!!」
気合のこもった一声と共に。「ドゴォ!」という鈍い音が響き渡る。
直後、あれだけ勢いのあったモンスターの動きがピタッと停止。そして、そのまま真横に倒れた。口から泡を吹き、気絶してしまったようだ。
「た、たった一撃……」
「相変わらず見事な打撃だな」
特にザラはその豪快な戦いぶりに開いた口が塞がらないくらいの衝撃を受けたようだ。
「す、凄いです、ケーニルさん!」
「えへへ~、ありがとう、ザラ」
ザラは瞳を輝かせてケーニルを見つめる。
それはまさに憧憬の眼差しだ。
恐らくその理由は、両者の戦い方の違いにあると俺は推測する。
ケーニルは相手との距離を詰めて戦うインファイトを得意としている。一方、ザラは精霊たちの力を借りて戦う。
実力的にはザラも引けを取らないとは思うが、本人からすると自分はあまり動かないので、派手さのケーニルの戦い方に憧れを抱くというのは理解できる。
「私もいつか、ケーニルさんみたいに戦ってみたいです」
「「「「!?」」」」
この発言に対し、真っ先に反応したのはザラが連れている四人の精霊たち。
そりゃあ……ザラが自分の力で戦えるようになったら存在意義がねぇ。
――と思ったが、本来精霊とは人間に付き従うものではないので別に問題ないように思える。それでも彼女たちが嫌がっているのは、単純にザラから離れたくないのだろう。精霊とここまで良好な関係を築ける人間はそうはいない。これもすべてはザラの才能――いや、人間性が成せることだろう。
「さて、それじゃあ先に進むか」
「「はーい♪」」
とても危険地帯を歩いているとは思えないテンションだな。
まあ、辛気臭いよりかは全然いいか。
しばらく歩いていると、霧が出始める。
「! ふたりとも、ここからは警戒を強めていくぞ」
「? なぜですか?」
「一角狼は霧の中でも行動できる特殊な視力を持っている。獲物がこちらに気づかないように近づいて仕留めるのがヤツらの狩りの仕方だ」
「なるほど!」
ターゲットとは遭遇しやすいが、その分、こちらが襲われる可能性も高くなってくる。
俺たちは神経を研ぎ澄まし、わずかな物音も逃さないように注意しながら前進。
すると、一瞬、目の前で何かが動いた気がした。
「!? ケーニル!」
「任せて!」
俺は異変を知らせるが、すでにケーニルはそれを呼んで動いていた。
「はあっ!」
霧で視界が悪い中、ケーニルは強烈な蹴りを繰りだす。
その一撃は霧の中に紛れていた敵の腹部を的確に捉えていた。
直後、何かが激しく木の幹にぶつかる音がし、それから「キャンキャン」という鳴き声が。
「よし! 仕留めたぞ!」
「待って! まだいるよ!」
ケーニルの言葉に、俺はハッとして振り返る。
そこにいたのはザラ。
その背後に忍び寄る三つの影が。
しまった。
さっきのヤツはおとりだ。
ヤツらは三人の中でもっとも力がなさそうなザラに狙いを絞っていたんだ。
しかも、ザラは敵の存在にまだ気づいていない。
「ザラっ!」
「えっ?」
間に合わないか――と、思った次の瞬間、三つの影は一斉に吹っ飛んだ。
一匹は炎に焼かれ、一匹はカチカチに凍りつき、一匹はどこからともなく降って来た巨岩に押し潰された。
そして、突如突風が吹き荒れ、視界を遮っていた霧はあっという間に消え去ってしまった。
「や、やるじゃないか……」
霧がなくなり、視界が広まって最初に映ったのは、ドヤ顔をしている四人の精霊たちだった。
「みんなありがとう~♪」
救われたことに気づいたザラが精霊たちを抱きしめる。
「凄いね、精霊たちの力!」
「ああ。おかげで角の回収も楽になる」
ケーニルの格闘術とザラの精霊たちの力で、無事に一角狼の角は回収することができたのだった。
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