第171話 魔剣強化

 シェルニたちが戻ってきたのは、メアリーさんのところを出発して二日後の夜だった。

 

「こ、こんなに大量の銀魔鉱石を……」

「お父様が張り切ってしまって……」


 馬車の荷台にはギッチギチに詰め込まれた銀魔鉱石+アイテムの数々。これにはさすがのメアリーさんも驚きを隠せなかった。

 よく見たら、それに合わせて馬車も強化されているし、馬の数も増えている。


「これは凄いな……この辺りでは見かけない種類の馬だ」


 以前の馬はほっそりとした体形であったが、こちらは骨太でいかにも力強いって感じがする。


「大量の荷物を運搬する時は、こっちの馬の方がいいかもな」

「でしたら、お店の裏庭に厩舎でも造ります?」

「いいアイディアだ、フラヴィア」


 とりあえず、戻ってからの最初の仕事は馬小屋建築に決まったな。

 それから、ローグスク王がシェルニに持たせたたくさんのアイテムだけど、チェックしたところ、どれも希少価値が高いレア物ばかり。

 さらに同封されていた手紙には、雄渾な筆致でこう書かれていた。



『娘をよろしくお願いいたします』


 

「…………」


 ……なんだろう。

 この場にいるわけじゃないのに、ローグスク王の圧を感じる。

 

 気を取り直して、銀魔鉱石をチェックしていたメアリーさんのもとへ向かうと、顎に手を添えて「むぅ」と難しい顔をしながら唸っている。


「品質に何か問題が?」

「逆じゃ。何もない――いや、それどころか、どれも一級品ばかりじゃ。これをすべて売り払えば数年は遊んで暮らせるぞ」

「そ、そんなにですか!?」

「うむ。それにあのレアアイテムの数々……おまえさん、どこでこんな強力なコネクションを?」

「それはシェルニが――」

「雇用関係だけで国王がここまで気を遣うかねぇ……そもそも、一国の姫をただの商人に預けるということ事態が異例じゃないか」


 今さらそこに気づいたんですか、メアリーさん。

 いや、もしかしたら、シェルニがローグスクのお姫様だって信じてなかった?


「あんたまさか……この子と婚約しているとかじゃないだろうね?

「そ、そんなわけないでしょ!」

「そうですわ、メアリーさん。婚約しているのはわたくしの方ですわ」

「なんと! オーレンライト家の方だったかい!」

「フラヴィア!?」

「ふふふ、冗談ですわ」


 優雅に笑ってやり過ごすフラヴィア。

だが、その後ろではレクシーが「あの目は冗談じゃなかったなぁ……」と呟いていた。

 ……まさか、ね。


 まあ、ともかく、これで必要なものはすべてそろった。

 

「早速明日から取りかかるよ」

「ありがとうございます」

「しかも――元通りにするだけじゃ芸がない! 以前よりもパワーアップといこうじゃないか」

「パ、パワーアップって……そんなことできるんですか!?」

「これだけの銀魔鉱石があれば可能じゃ」


そう語るメアリーさんの瞳はキラキラと輝いていた。

どうやら、シェルニたちの持ち帰った銀魔鉱石の山が、メアリーさんの職人魂に火をつけてしまったらしい。


「あの魔剣がさらにパワーアップするなんて……」

「楽しみ!」


 ザラとケーニルもパワーアップに大喜び――だが、ひとりフラヴィアだけが渋い表情を浮かべていた。


「どうした、フラヴィア」

「いえ、その……パワーアップ自体は大変喜ばしいことなのですが……」


 その口ぶりからするに、どうやら心配事があるようだ。


「わたくしとしては、その事実を王国騎士団が聞きつけた場合、これまで以上にアルヴィンさんを戦場へ送り込もうとするのではないかと……」


 なるほどね。

 確かにその可能性はある。

 現状、救世主ガナードは不甲斐ない結果が続いているようだし、ジェバルト騎士団長はすぐ近くでアイアレン戦を見ていたから、魔剣の力を理解している。

 ……って、そういえば、結局ガナードってどうなったんだ?

 ダビンクへ戻ったら、その辺の情報収集もしないとな。


 ――っと、それよりも、まずはフラヴィアの不安を取り除いてやらないと。


「大丈夫だよ、フラヴィア。どんなヤツが相手だろうと、みんながいれば乗り越えられるさ」

「で、でも……」

「騎士団だって騎士団のプライドってものがある。そう何度も素人である俺に頼るのは許されないだろう。彼らはそのうち自分たちで解決策を見つけるさ」

「だといいのですが……」


 正直、気休めに近い言葉だ。

 フラヴィアは賢い子だから、きっとそれは分かっているだろう。


 ……これはフラヴィアだけの問題じゃない。

 みんなのためにも、魔剣の強化はもちろんだが、俺自身がもっと強くならなくちゃいけないな。

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