第143話 追いつめられる救世主
アルヴィンがシェルニの成長を見届けていた少し前のこと。
エルドゥーク王都は活気づいていた。
理由は救世主ガナードにある。
彼の活躍により、魔族六将のふたり目も打ち破ることができた――という話が広まっていたからだ。
砂塵のデザンタと深緑のレティルは両方ともアルヴィンによって倒された。
しかし、そのうちの一方、砂塵のデザンタに関してはアルヴィンが正式にガナードへ討伐の栄誉を譲った。だが、レティルに関しては違う。
あの場には、エルドゥーク王国の騎士団長を務めるジェバルトも立ち合っていた。
なので、レティル討伐に関しては王国側もアルヴィンの活躍を知っているはずだったのだ。
それにも関わらず、国民たちの間ではどちらもガナードが倒したと誤った情報が広まっていたのだった。
◇◇◇
「どういうことですが、ベシデル枢機卿!」
ガナードはベシデルの執務室へ怒鳴り込んだ。
「騒がしいな、ガナード」
「なぜ俺がふたり目の魔族六将を倒したことになっているのですか!」
ガナードの怒りの原因はそこだった。
なぜなら、ベシデル枢機卿が公式に発表した魔族六将討伐における報告では、ダビンク周辺に出現した深緑のレティルを討伐したのはアルヴィンではなくガナードになっていたからだ。
これに、王都は歓喜に包まれた。
デザンタに続き、レティルも撃破したガナードの実力は本物だった。地につきかけていた評価は再び上昇し、誰もがガナードに期待を寄せた。
いつものガナードであれば、ベシデルの判断をむしろそれを好都合と解釈し、調子に乗ってふんぞり返るだろう。
だが、未だに聖剣の力を発揮できないどころか、日を追うごとに弱まってさえいる気がする。このままでは、聖剣の力はやがてなくなり、ただの剣と変わらなくなる――とはいえ、今もたいした力があるわけではないので、聖剣の効果はほとんど期待できない。
なので、今の状態では魔族六将どころか少し強めのモンスター相手だって苦戦は免れない。とてもじゃないが、魔族六将とは戦えた状態じゃない。
しかし、ベシデルの報告により、国民からの期待は高まる一方だ。
「やったのは君の元仲間だろう。だったら君の手柄にしても問題なかろう」
「ですが、もしアルヴィンのヤツが真実を語ったら!」
「誰が信じると思う? デザンタを倒した聖剣を持つ救世主と、その救世主に見限られてパーティーを追い出された商人……民が信じる相手は一目瞭然だ。ジェバルト騎士団長にもそう言い含めてある」
「そ、それは……」
ガナードは言い返せなかった。
アルヴィンを見限って追放したのは確かに自分だ。
しかし、デザンタの件で手柄を譲られ、今回はレティルの件でもアルヴィンに助けられた形になる。
「分かったのなら下がれ。国民は次を期待している。」
「つ、次……?」
「先日、王国の魔法兵団の調査結果が発表された。それによると、再び大規模な次元のゆがみが確認できたという」
「次元のゆがみ……まさか!?」
「そうだ。次の魔族六将が送り込まれてきた可能性が高い。近々、国から正式に君へ討伐任務が与えられるだろう」
ベシデルの言葉に、ガナードは震えた。
なぜなら、
「さすがにふたりもやられたからなぁ、次の敵は相当用心してくるだろう。もしかしたら……あの聖騎士ロッドでも敵わなかったという氷雨のシューヴァルが出張って来るかもしれん」
ガナードの顔が青ざめる。
そう。
敵は商人のアルヴィンよりも、救世主である自分を狙ってくる。
「次も頼むぞ、救世主ガナードよ」
ポン、とガナードの肩を叩き、軽い感じでそう告げてから部屋を出たベシデル。
残されたガナードは茫然と立ち尽くす。
魔族六将が本気で自分を殺しに来る。
その真実を呑み込むまで、ガナードはその場を一歩も動けなかった。
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