第256話 炎を操る魔剣

 エルフの森で起きている異常事態。

 その裏に魔力の気配を感じた俺たちは、さらに少数に人員を割いて実態調査に乗り出した。

 森の中へ入るのは俺とレクシーとヒルダの三人。

 

「一体……何が起きているっていうの……?」

「それを知るためにも、まずはあの火災が起きている場所を目指しましょう」


 ヒルダの言う通り、まずは火が出ている場所を目指した方がいい。可能ならば消火活動を行い、これ以上燃え広がらないようにしなくては。


 目的地を定めた俺たちは、早速その場所へと急いだ。

 すると、


「急いで泉から水を持ってこい!」

「女は子どもを連れて森の奥へ逃げろ!」


 悲痛な叫び声が聞こえてきた。

 どうやら、エルフたちは火を消すために動いているようだが……圧倒的に人が少ない。あれでは進行を遅らせるだけで、消火までには至らないだろう。


「ダメだ……間に合わないぞ」

「私たちも手伝いましょう!」

「そうだな」


 今にも飛び出していきそうなヒルダをなだめつつ、俺は魔剣に魔力を込めた。


「《焔剣》――フレイム・ブレイド!」


 魔力を炎に変えると、俺は燃え盛る炎に向かって魔剣を掲げる。

 本来なら消火活動のために水属性へと変えるところだが……ここまで巨大になってしまってはそれも難しい。なので、俺はこの炎を操ることにした。


 メアリーさんによって強化された今の魔剣であれば、それも可能。

 エルフの森を食い尽くさんとする炎は、俺の魔力に吸い寄せられる――それはやがて魔剣へと収束し、すべての炎を消し去ることに成功した。


「さすがね、アルヴィン」


 レクシーにとっては見慣れた光景でも、


「す、凄い……まるで剣が炎を食べているようだわ……」


 初見のヒルダはめちゃくちゃ驚いていた。

 それはヒルダだけではない。


「な、なんだ、さっきの現象は!」

「あそこにいる男がやったみたいだが……」

「!? ヒルダ!? ヒルダじゃないか!?」


 突然炎が消えて騒然となるエルフたち。

 さらに、その原因である俺と一緒にいるのが、この森出身であるヒルダだと知り、さらにざわめきが大きくなる。


「みなさん、落ち着いてください」


 ヒルダは動揺する仲間たちを落ち着かせると、事情を説明していった。

 すると、ここにいるエルフたちは全員が人間との共闘に対して賛成意見を持つ者であるということが発覚。

 

「じゃあ、もしかして……さっき火をつけたのは――」

「人間との共闘に反対する者たちの仕業です」


 レクシーの言葉に、若い男性エルフが力なく答えた。

 ついに強硬手段に打って出たわけだ……。


「それにしたって……森に火を放つなんて考えられないわ……」


 ヒルダは愕然としていた。

 いくら意見が違うとはいえ、このような野蛮な行為に及ぶとは予想もしていなかったようだ。実際、俺が駆けつけなければどうなっていたか……あまり想像したくはないが、一歩間違ったら大惨事になっていたのは事実である。



 エルフの内紛。

 だが、その裏には必ず魔族の存在があるはず。

 俺たちは逃げ惑っていたエルフたちを落ち着かせると、真実を見極めるため、さらに森の奥へと向かって進んでいった。

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