第13話 帰還
※本日は18:00頃にもう1話投稿予定!
俺たちがギガンドスの討伐を終えて町へ戻ってきた時には、もう日が沈む時間帯となっていた。
戻ってきてそうそう、なんだか視線を感じる。
町の人たちがチラチラとこちらを見ているよう気がするんだが……気のせいだろうか。
ともかく、まずはギルドへ行って、ザイケルさんが戻ってきているかどうか確認をしておこう。
シェルニを連れてギルドへ行くと、
「アルヴィン!!」
いきなり大声で名前を呼ばれた。
その声の主こそ、俺が今一番会いたかった人物だ。
「ザイケルさん、戻られたんですね」
「おうよ! 大変だったみたいだな!」
「えっ? ……もう知っていたんですか?」
「他の誰でもない、おまえさんのことだからな」
カウンターには、このギルドを統括するギルドマスター・ザイケルさんの姿があった。リサと同じ猫の獣人族であるため、その頭には可愛らしい猫耳がついているが、オーバーオールからのぞく肉体はまるで彫刻のように鍛え上げられており、そこにはこれまでの激闘を物語る傷跡がいくつか残っていた。
「それにしてもひでぇ話だ。アルヴィンほど有能な商人はそうそういないぜ?」
「そうにゃ! 滅多に人を気に入らないパパがこんなにべた褒めしているのに、救世主は何を考えているにゃ!」
「まったくもってその通りだ!!」
憤慨する猫耳親子。
そこまで思ってくれているのは、純粋にありがたい。
「ん? そっちの子は誰だ? 救世主パーティーにはいなかったよな?」
「あ、わ、私、シェルニと言います」
屈強な大男であるザイケルさんを前にしても、きちんと自己紹介できたシェルニ。えらいぞ。……なんだか、父親になった気分だな。それほど年は離れていないはずなのに。これも前世の記憶がよみがえった影響か?
ともかく、まずはシェルニの今後について話をしなくてはいけない。
そんなわけで、さらに詳しい事情をザイケルさんへ説明する――と、
「分かった。うちで雇おう」
即決。
相談しておいてなんだが……早すぎないか?
「おまえからの紹介っていうなら信頼できる」
言いきられてしまった。
信頼をしてくれるのはありがたいんだけどね。
「よかったな、シェルニ。今日からここが君の仕事場だ」
「…………」
肩をポンと叩いてそう告げたが――どうにもシェルニの表情が冴えない。今でこそ普通に俺と話ができているが、つい先日まで、リサと話をするのさえ困難だった子だ。いきなり目の前にムキムキの猫耳おじさんが現れたら、ちょっと警戒するかな。
――そう思っていたが、どうやら本心は違ったようだ。
「あ、あの」
少し声を震わせながらも、強い眼差しでシェルニは告げた。
「わ、私――アルヴィン様と一緒にいたいです。私をあなたのパーティーに加えてもらえないでしょうか?」
潤んだ瞳で俺を見上げるシェルニ。
俺としては、想定していないシェルニからの提案――いや、俺個人としては喜ばしい申し出だ。
俺の持つ魔剣は攻撃主体なので、正直、シェルニのようなサポート特化タイプとはめちゃくちゃ相性がいい。
「にゃっ!? アルヴィン! どうするのにゃ!?」
興奮しまくって俺の体をグラグラ揺らすリサ。
これ以上されたらグロッキーになりそうなので素直に答えよう。
「その申し出は凄くありがたいが……本当に――」
「はい! アルヴィン様と一緒がいいです!」
食い気味に念押しされた。
いつの間にか聞き耳を立てていた周囲からも歓声があがる。
「……すみません、ザイケルさん。そういうことなので」
「皆まで言うな。アルヴィン……その子を幸せにしてやれよ」
「はい」
まるで娘を嫁にやる父親みたいだなぁ……本当の娘の方は、「よかったにゃ」と言って泣いているけど。
ともかく、こうして俺とシェルニはパーティーを組むことになった。
しかし、俺の目的は冒険者として生活をしていくことではない。その辺はすでにシェルニに伝えていたので、本人も「分かっています」と納得してくれたようだ。
シェルニの件が落ち着いたら、今度は俺の用件だ。
「ザイケルさん、実は空き家を紹介してもらいたいのですが」
「空き家?」
怪訝な表情のザイケルさんに、俺はこの町で商売を始めたい旨を伝えた。
「商売か……いいじゃないか! 正直、おまえはそっちの方が向いていると思うぞ。もちろん、魔剣士としてのおまえも一流だが、商人としては超一流になれる資質を持っていると断言できる!!」
フン、と鼻を鳴らして頼もしく言い切ってくれる。
俺としても、ザイケルさんからお墨付きをもらえるなら自信になるし、ありがたい限りだ。
「そういえば、アルヴィン……救世主どもが新しいメンバーをふたりも入れたって知っているか?」
「! ふたりもですか……?」
それはちょっと驚いたな。
新メンバーを入れるとは思っていたけど、ふたりとは。
「俺もどんなヤツか、詳しい情報は知らないが……あまりいい噂は聞かねぇんだ。しかもあいつら、北の森のゴブリン狩りに失敗して逃げ帰ってきたらしいし」
「北の森のゴブリンを相手に?」
確か、あそこの森のゴブリンは知能が高く、罠を張ってクエストに挑む者たちを追い返していると聞いたな。それに失敗したということは……俺の代わりに入った情報担当者はそうした事前の情報を仕入れてなかったのか?
「しっかし、ゴブリン相手に敗走したって噂はだいぶあいつらの株を下げたよな」
「まあ……でも、ちょっと信じられないですね」
「やむにやまれぬ事情があったっていうなら別だが……」
ザイケルさんの仕入れてきた情報だから、信憑性は高そうだが……Sランクの討伐クエストさえあっさりこなせたガナードたちがゴブリン相手に負けたというのはにわかに信じられない。
……実際に現場を見ていないので、どれだけ考えても無駄か。それに、ガナードのことを思い出して悩むなんてマネしたくないし。
とりあえず、ザイケルさんはいい物件を明日の朝までにピックアップしておくと約束してくれたので今日はこのままシェルニと共にディンゴさんの宿屋へと戻ることに。
となると……今夜も飲み明かすことになるかもしれないな。
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