第43話 紹介
ドルーがうちの店にやってきた翌日。
氷のダンジョンがどのような場所なのか、ある程度察しがついたレクシーは単独で潜ると言って朝早くから出かけていった。
俺としては今日もジュース売りから始まり、昨日ゲットしたアイテムを売りさばくための準備をしなければならない。
だがその前に、最優先でしなければいけないことがある。それを果たすために、俺はドルーとシェルニを連れてギルドへと向かった。
ギルドは朝から盛況だった。
北区が開放されたことで、あちら側の門が自由に行き来できるようになれば、そこから近い場所にあるダンジョンにも潜れるようになったため、冒険者たちにとっては仕事場が増え、大変喜ばしい状況となったらしい。
さらに、北区に新しく出店する店を募集しており、そこに名乗りを挙げた商人たちも大勢訪れていた。
そんな中、ザイケルさんにドルーの件を話そうとしたが……うーむ、やはりというか、忙しそうにしているな。
「どうしたにゃ、アルヴィン」
話しかけるタイミングを見計らっていたら、娘の方がやってきた。
「受付の仕事はいいのか、リサ」
「むぅ~、なんだか困っている感じだから助けてあげようと思ったのに!」
頬を膨らませて抗議するリサ。
どうやら、本当に善意だったようだ。
「すまない。実はザイケルさんに用があって」
「パパに? ……にゃ?」
そこで、リサは俺とシェルニの他に第三の人物がいることに気づく。頭までスッポリとおさまるローブに身を包んだ大男。獣人族である父ザイケルにも劣らない、立派な体躯をしているが、自身も獣人族であるためか、リサは「人間ではない気配」を感じ取ったようだ。
「アルヴィン……この人は?」
「ああ……実はうちの新入りなんだけど……」
「なんで顔を隠しているにゃ?」
素朴な疑問をぶつけられる。そりゃそうだよな。
「……なあ、リサ」
「にゃ?」
「驚かないでくれよ?」
「? よく分からないけど分かったにゃ」
忠告してから、俺はドルーへ目配せをする。
それを受け取ったドルーは、顔を隠しているフードへ手をかけると、それをゆっくりと取り払った。
「初めまして、リサ殿」
「は、初めま――」
そこまで言って、リサの動きが急停止。
しばらくの沈黙の後、
「にゃああああああああああ!?!?」
力いっぱい叫んだ。
忠告したんだけどなぁ……やっぱり無理だったか。
ただ、リサの叫び声で、ザイケルさんがこちらに気づいた。結果オーライってことにしておくか。
「一体何事――ぬおっ!?」
いきなりモンスターが現れたことで、さすがのザイケルさんも動揺している様子。そこでようやく、俺はドルーをザイケルさんに紹介する。
「モ、モンスターを手懐けたのか……」
「いや、手懐けたというか……仲良くなったんですよ」
モンスターであるが、一緒に働いていくからには人間と同じ扱いをしていきたい。それは、獣人やエルフと同じく、人間とパーティーを組んで、商売をして、一緒に暮らしていく――ドルーにはそれができると俺は思っている。
「ザイケルさん、彼をこのままこの町に置いておくことを許していただきたい」
「…………」
ザイケルさんは沈黙。
しばらくして、
「分かったよ。他ならぬおまえが推しているんだ。ただし、何かあった時は――」
「責任は俺が取ります」
間髪入れずに答える。
これで、ザイケルさんも納得してくれた。さらに、その場にいた冒険者や商人たちの反応にも変化が現れ始めた。ドルーの丁寧で柔らかな物腰を見て、徐々に話しかけていく人数が増えていったのである。
最初は戸惑った様子のドルーだったが、念願だったたくさんの人々との交流が叶ったことで、次第にその表情は明るくなっていった。
「これなら問題なさそうだな」
「はい♪」
俺とシェルニはホッと胸を撫で下ろす。
さて、新しい仲間も増えたことだし……頑張って商売しますか。
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