第44話 冒険の前に
リザードマン・ドルーの存在はあっという間にダビンクの町で話題となった。
外見こそ厳ついが、口調は紳士そのもので、物腰も柔らかかったため、すぐに町の人たちと馴染むことができた。この町が商業都市という位置づけで、他の都市よりも多くの種族が混在しているという点も、早く馴染めた要因となったようだ。
そんなわけで、三日も経つ頃には町の人たちと世間話をするくらいには仲良くなれていた。
今も、店頭でラヴェリのジュースを売り込んでいる。
「ドルーさん、楽しそうですね」
「ああ。まさかこんなに早く馴染むとは思っていなかったけどね」
順応力が高いというかなんというか……まあ、この町の人たちは割とどんな種族でも受け入れるからなぁ。
「アルヴィン殿! 今日の分のジュースは売り切れたぞ!」
「お疲れ様、ドルー。じゃあ、お昼ご飯を食べながら一休みしよう」
「午後からはダンジョンに潜るんですよね?」
「その予定だ」
商品の補充をするため、今日はダンジョンに潜って調達をしに行く。これまで、クエストをこなす時には、情報屋のネモ、お嬢様のフラヴィア、そしてワイルドエルフのレクシーとパーティーを組んできた。
ただ、今回はドルーと一緒に潜る。
ドルーに聞くと、ダンジョンでの戦闘経験はないという。ただ、模擬戦という形で手合わせをしてみたが、ドルーの戦闘スキルは相当なものだった。
人間とは根本的に身体能力が違うというアドバンテージを抜いても、ドルーの力はかなりのものだ。これならば、ダンジョンでも頼りになる存在となるだろう。
シェルニが作ってくれた昼食を食べ終わると、整理しておいたアイテムや武器を手にして店を出た。
すると、ちょうどそのタイミングで来客が。
「アルヴィン、ちょっといいか」
「ザイケルさん?」
北区の整備中にやってきたザイケルさんだった。
「出かける最中で申し訳ないが、ちょっと伝えておきたいことがあってな」
「伝えておきたいこと?」
わざわざ多忙なザイケルさんが、俺の店に直接訪ねてきてまで伝えたいことってなんだろう?
「実は、北区にある門の向こうにあるダンジョンだが……どうもそれに絡んだ情報がまったくないんだ」
「えっ? そうなんですか?」
「長らくあそこは使われていなかったからな。北門周辺も、タチの悪い連中がたむろしていて真っ当な冒険者たちは足を運ばなかったし」
……なるほど、そういうことか。
「そのダンジョン調査を依頼したいってことですね」
「おおっ! さすがに察しが良いな!」
やっぱりか。
……そういうことなら、今日の目的地は決定だ。
俺の考えが読み取れたのか、シェルニとドルーはこちらを見つめており、目が合うと静かに頷いた。
「ザイケルさん」
「うん?」
「今から早速そのダンジョンへ向かいますよ」
「い、今からか!?」
「どのみちダンジョンには行く予定でしたし、個人的にも、そこがどんなダンジョンであるのか興味がありますからね」
「助かるよ。ああ、そうそう。今回の調査については、報告まで終えた段階でちゃんとギャラは払うからな」
そう言って、ザイケルさんは俺たちひとりひとりの手を取ってお礼の言葉を述べていった。そして、「冒険の役に立ててくれ」と、薬草などのアイテムをくれた。ギャラにプラスしてアイテムまで……いくら新しいダンジョン調査だからって、これは異例な太っ腹ぶりだぞ。
「情報のまったくないダンジョンだ。くれぐれも無茶はするなよ」
「分かっていますよ。なあ、ふたりとも」
「はい!」
「アルヴィン殿が無茶をしそうになったら、シェルニ殿と共になんとしてでも阻止してみせよう。じゃから、安心してくだされ」
「ははは! こりゃいい! どんな凶悪なモンスターよりも効果がある!」
高笑いをしながらそんなことを言うザイケルさん。確かに、どんな厄介なモンスターが相手でも立ち向かおうとするけど、シェルニとドルーにお願いされたら、大人しく引き下がるかもな。
「さて、それじゃあ行きますか――新しいダンジョンに」
「なんだか楽しみになってきました!」
「吾輩もじゃ!」
意気揚々と歩きだすふたり。
元気だなぁと思いつつ、俺もその後を追うようにして足を踏み出した。
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