第69話 偽りの騎士団

 魔族が拠点としている砦の近くに突如現れた騎士団。

 だが、彼らの行動は騎士団と呼ぶにはあまりにお粗末であり、とてもじゃないが訓練を受けた騎士とは思えない。


 そこで、俺たちはその場から離れ、彼らから詳しい事情を聞くことにした。

 騎士団の代表として話をしてくれたのはスヴェンさんという男だった。彼は唯一、あの地中鮫に立ち向かった騎士だ。

 そのスヴェンさんから驚くべき情報がもたらされた。


「実は、ここにいる者たちすべて――正規の騎士ではないのです」

「えっ?」


 スヴェンさんの話によれば、ここに集められたのは騎士どころかまともに戦ったことのない農夫や商人といった者たちだという。スヴェンさん自身も、騎士団に所属こそしているが、前線での経験がなく、普段は王都の正門で持ち込みの検査をする仕事をしているのだという。


 それがなぜ、このような危険な場所へと配属されたのか。

 そして、他の者たちはなぜ騎士の格好をさせられ、この場に派遣されてきたのか。


 理由を尋ねたが、どうにも答えづらいのか、口が重い。 

 だが、スヴェンさんはゆっくりと口を開き、真実を語ってくれた。


「エルドゥーク王国の意向だ」

「? 王国の?」

「ああ……ベシデル枢機卿の名は知っているか?」

「あの、ラナート教の……」


 そこでなぜベシデル枢機卿の話が出るのか、この時の俺はまったく分からなかった。

 彼は確かに権力を持っている。 

 ガナードが神に選ばれた救世主だと認定し、その仲間としてタイタスとフェリオのふたりを選出した。当初、魔王討伐はこの三人を中心に行わせるつもりで、俺が加入したのは元聖騎士である師匠の意向からだった。


 だが、そのベシデル枢機卿――力があるとはいえ、騎士団の行動に介入できるほどのものではなかったはず。


「俺たちのような、戦闘素人を前線に立たせ、少しでも相手の戦力を減らしてから本隊を突入させるつもりなのだ」

「そ、そんな……」

 これにはシェルニをはじめ、メンバー全員が顔をひきつらせた。

 そりゃそうだろうな。

 言い方は悪いけど、それってつまり……スヴェンさんたちを捨て駒として利用しているようなものだ。

 百歩譲って、スヴェンさんが百戦錬磨のベテラン騎士っていうなら、まだ状況を打開できるかもしれない。

しかし、彼は前線での経験がない中堅騎士。そんな人に、戦闘経験がろくにない素人ばかりを集めて生み出した隊をまとめ上げろと言うのはもはや無茶を通り越して無謀としか言いようがない。


 ……これは完全な俺の推測になるが、ガナードを救世主とし、討伐クエストを順調にこなしていった頃から、劇的とまではいかないものの、確かにベシデル枢機卿の評価は上がっていた。

 しかし、ガナードたち救世主パーティーについては、最近あまりいい噂を聞かない。

 北の森のゴブリン討伐クエストで敗走して以降、結果がついてこないという印象を受ける。俺の代わりに入った新しいメンバーとうまくいっていないのだろうか。……まあ、俺がいてもうまくいっていたとは言いづらい関係だったが。


 そういった具合で、ガナードたちの評価が下落し始めた今、これまで持ち上げられていたベシデル枢機卿も立場も危ぶまれる。

 なので、今回の砦攻略には万全を期する必要があったのだろうが……だからといって今回のような作戦――とも呼べない悪辣な手段は看過できない。


 ともかく、事情を知った以上、スヴェンさんたちをこのままにしておくわけにはいかなかった。


「……スヴェンさんたちはここにいてください」

「? ど、どういうことだ?」

「あの砦は――俺が攻略します」


 それが一番いい。

 ただ、ベシデル枢機卿絡みの案件だから、下手したらガナードたちと鉢合わせになる可能性もあるが……そうは言っていられない。もし、このまま何もせずスヴェンさんたちを帰したら、彼らの立場も危ういからな。


 そんな時、


「『俺』ではなく、『俺たち』の間違いであろう?」


 そう言って、俺の肩をポンと叩いたのはドルーだった。

 後ろにいるシェルニ、フラヴィア、レクシーもヤル気満々って顔している。


「行きましょう、アルヴィン様!」

「とっとと砦を攻略して、日が暮れるまでには戻りますわよ」

「砦ともなればお宝が眠っている可能性も高いからね!」

「みんな……」


 ダンジョンとはまったく違う危険地帯にも関わらず、誰ひとりとして臆した様子は見られない。

 本当に……凄い面子が揃ったものだ。


「じゃあ、行くか。魔族たちの砦へ」

「「「「おおー!」」」」


 こうして、俺たちの砦攻略クエストは始まった。

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