第203話 女騎士ハリエッタ

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 タイタスを倒した直後、エルドゥーク王国の騎士団が部屋へとなだれ込んできた。

 その騎士たちを束ねていたのは、俺と同年代の若い女騎士だった。

 まさか……この人がリーダーなのか?

 騎士の中には彼女よりも年上と思われる者もいるが、制服の襟についたあのバッチは部隊長の証し――驚いたな。


「魔剣使いの商人アルヴィン……想定していたイメージとはだいぶ異なるわね」


 腕を組み、ハリエッタと名乗る女騎士はそんなことを言う。

 一方、彼女の部下と思われる騎士たちはタイタスを取り囲んでいた。

 本命はあっちか。


「貴様が元救世主パーティーのタイタスを倒したのか?」

「そうだ」

「無傷で、か?」


 俺が即答すると、ハリエッタはそう返してくる。どうやら、俺が倒したという報告を疑っているようだ。いろいろと説明するより、俺の力の根源である魔剣を見せた方が早いだろうと思い、しまいかけていた魔剣をハリエッタの前へと差し出す。


「こいつの力で、タイタスを倒した」

「! こ、これが噂に聞く魔剣か……」

 

 先ほどまで強気の態度だったハリエッタだが、魔剣の放つ魔力に気圧されたのか、一瞬たじろいだ。

 戦闘を終えたばかりの魔剣からは、魔力の残滓が漂っている。

 それを目の当たりにしただけだが、ハリエッタは俺がタイタスを倒したと信じてくれたようだ。

 魔剣から放たれている魔力量や質が決め手となったみたいだな。


「次は俺が質問してもいいかな?」

「な、なんだ?」

「騎士団はなぜ今になってタイタスを捕まえようと?」

「ヤツは救世主パーティーが解散となって以降、ここで悪事を働いている情報は入っていた。その事実を掴むため内偵調査を進め、今日現場に踏み込む流れになっていたのだ」


 つまり、俺たちが乗り込まなくても捕まっていたということか。

 ……それにしては、タイミングができすぎている気がしないでもないが。

 あと、もうひとつ確認しておきたい。


「先ほど、救世主パーティーは解散したと言っていましたが、タイタス以外の他のメンバーはどこへ行ったんだ?」

「知らん。……だが、今のところ、悪さをしているのはこのタイタスという男のみのようだ」


 ……妙だな。

 あれだけ救世主パーティーに肩入れしていたエルドゥーク王国が、こうもあっさり掌返しをするなんて。何かもっと、因縁めいたものがあると思ったんだけど……例えば、


「じゃあ、彼らを支えていたベシデル枢機卿は?」

「失脚した。今の彼はなんの力もない、ただの年寄りだ」


 これまたあっさりとしているな。

 あの人は王家にも顔が利くし、求心力もあったはず。

 それでも切り捨てられたような格好になっている――恐らく、相当な権力が動いているようだな。


 ――まあ、俺には関係ないけど。


「じゃあ、俺たちはこれで失礼する」

「待ちなさい」


 もしかしたらと予感はしていたが、やっぱり呼び止められた。


「このまますんなり帰れると思っているのか?」

「逆に聞くが、すんなり帰れない理由は?」

「決まっている。じっくりと事情を――」

「アルヴィンさん!」


 俺たちに迫るハリエッタの足が止まる。

 そのまま振り返り、俺の名を叫んだ少女の顔を確認すると、


「! フラヴィア・オーレンライト……? それにザラ・レイネスまで……」


 表情が引きつる。

 視線の先には御三家のうちふたつの家の令嬢がいたからだ。

 フラヴィアの横に立つシェルニも、ローグスク王国のお姫様なのだが、どうやら知らないらしい。


「突然エルドゥークの騎士たちがカジノへ入っていくのが見えたので追ってみたら――あなたたちの目的はなんですの!」


 強い口調で迫るフラヴィア。

 さすがに、御三家令嬢が相手では俺と同じような応対はできないと思ったようで、ハリエッタは逃げるように他の騎士たちのところへ向かった。


「なんなんですの、あの態度は! 厳重に抗議しますわ!」


 フラヴィアはハリエッタの振る舞いに怒っていたが……俺としては謎多き騎士団の動きに少し戸惑いを覚えた。


 彼らをまとめているのはあの曲者――ジェバルト騎士団長だ。


 今回も、何か裏があったのだろうか。

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