第314話 魔界にサヨナラ
魔界と人間界を支配しようと目論んだシューヴァルの野望は潰えた。
それを知った連合騎士団から歓声が沸き上がる。
その事実を喜び合いつつ、人間界へ戻るために次元転移魔法が使用されることになった――が、これが大変だった。
まず、圧倒的な魔法使い不足に悩まされる。
本来ならばリシャール王子が持っていた聖剣の力を借りるところだが、その聖剣はシューヴァルとともに消滅してしまったため、フラヴィアとシェルニを中心にして魔法を扱える者たちと共同で行われることとなった。
「これは大仕事になりそうだな」
「えぇ、そうですね」
魔王軍側に加勢し、第三勢力として敵対した新救世主パーティーの面々は、全員が廃人のように枯れ果てていた。
唯一、ジェバルト騎士団長だけはまだ正気を保てているようだが、リシャール王子とリュドミーラは虚ろな表情で空を眺めている。さらに、魔人族になりかけていたハリエッタは未だに意識が戻らなかった。
中には魔界へ置いて行こうという意見もあったが、彼らにはきちんと罪を償ってもらわなくてはならない。
世界に平和をもたらそうと、リシャール王子たちを信じてついてきた兵士たちの気持ちを考えたら、理解できなくもないが――それでも、彼らには生きて人間界へ戻ってきてもらう。
そして、しかるべき場所で罪を確定させる。
これは、ブライス王子の意向でもあった。
「やはり……甘い決断だったろうか」
全員に説明を終えてからしばらく経って、王子は俺のもとを訪ねるとそう呟いた。弟であるリシャール王子への対応――苦慮する面はあったと思うが、俺はブライス王子の考えを支持している。
「いいえ。そうは思いません。王子……俺はあなたこそ、王位を継ぐ者であると信じています」
「君にそう言ってもらえると心強いよ、アルヴィン」
ブライス王子の顔は、かつて俺の店で働いていた頃に比べると見違えるようにたくましいものとなっていた。あの頃は、まだどこか幼さが残っているような感じだったが、今は歴戦の勇士といって過言ではないほど精悍だ。
彼に任せておけば、エルドゥーク王国も安泰だろう。
近くにはヒルダもいることだし。
すると、王子はこちらへと視線を向けて、
「君は……戻ったらどうするんだ?」
そう告げた。
なぜ、ブライス王子がそんなことを聞くのか――理由についてはハッキリと分からないが、少なくとも、俺が人間界へ戻ってやることといえば、ひとつしかない。
「また店を開きますよ。――俺は商人ですから」
「ふっ、そうだったな」
どこか寂しそうにも聞こえるブライス王子の声。
「ブライス王子……」
「いいんだ。変なことを聞いたな。君の店か……また訪ねたいのだが、いいかな?」
「是非。いつでも歓迎しますよ」
「ありがとう。感謝する」
俺はブライス王子と固く握手を交わす。
きっと、この戦いが終われば、俺たちはそれぞれ別の道を行く。
けど、王子が言ってくれたように、関係自体はこれまでと変わることはないだろう。
それを確信したところで、シェルニとフラヴィアが俺たちを呼びにやってきた。
いよいよ、転移魔法陣を使って人間界へと戻る時が来たのだ。
「魔界ともお別れか……」
振り返ると、そこにはボロボロになった魔王城があった。
あの中に、ガルガレムもいる。
ケーニルは人間界へ移り住まないかと提案したが、彼はその誘いを断って魔界に残ることを決意した。
この先、もう会うことはない――はずなのに、なぜかまた会えると思ってしまう。
本当に変わった魔人族だったな。
「アルヴィン様? どうかしましたか?」
「なんでもないよ」
俺はシェルニとともにみんなのもとへと向かう。
さあ、帰ろう――人間界へ。
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※最終回まで残り2話!
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