第266話 ふたりの来客

 エルフの森から戻って一週間。

 

「アルヴィン様、これはどこに置けばいいですか?」

「…………」

「アルヴィン様?」

「! あ、ああ、もらうよ」

「は、はい……」


 あれから、考え事をする時間が増えた。

 それも、店のことじゃなく……あのエルフの森の一件以降、急速に進むとされる魔王軍討伐の動きについてだ。

 森を救ったことで、俺たちは多くのエルフ族から感謝されることとなった。そのこともあって、当初の目的であるエルフ族との同盟はすんなり進みそうだ、とベリオス様は胸を撫で下ろしていた。


 ……だが、これが騎士団を経由し、王国内に広く知れ渡るようになった。

 その結果、


「聞いたぜ、店主。なんでもあのエルフの森で大活躍だったらしいじゃねぇか」

「オーレンライト家の当主も絶賛だって聞いたぞ」

「この店ももっと繁盛するな!」


 来店する常連客たちは俺たちのことを聞き、中にはわざわざ店を訪れてその成果を賞賛してくれた。

 いつも来てくれる常連さんたちの間で、そういう噂が流れるのは別に構わない。だが、これらの噂は……招かれざる客たちを呼ぶことにもなる。


「あれ? なんか大きな馬車が店の前にとまったわよ?」


 不思議そうに、レクシーが呟いた。

 ……どうやら、その招かれざる客が来たようだ。


 馬車から下りてきたふたりの人物は、まっすぐに店へ向かって歩いてくる。

 そして――


「失礼するよ」

「店主のアルヴィンはいるか?」


 店内に入ってきたのは――エルドゥーク王国騎士団のジェバルト騎士団長と、リシャール第二王子の側近を務める女騎士のハリエッタだった。


「あなたたちは……」


 真っ先に警戒を示したのはフラヴィアだった。

 きっと、これまで口にすることはなかったが、フラヴィアも俺と同じような懸念を抱いていたのだろう――内心、いつか、ジェバルト騎士団長たち、王国関係者がここを訪ねてくる、と。


「元気そうで何よりだよ、アルヴィンくん」

「ジェバルト騎士団長……今日はどういったご用件で?」

「あなたを迎えに来たのよ。……不本意だけど」


 ジェバルト騎士団長よりも先に、ハリエッタがそう告げた。

 ……なんだか、怒っているみたいだけど……彼女にとってはあまり喜ばしい誘いではないらしい。


 だが、その態度が逆に、俺を迎え入れようとしている人物の正体を教えてくれた。


「俺を呼んでいるのは――リシャール第二王子ですね」

「その通りだよ」

「王子自らがあなたを指名したのよ。光栄に思いなさい」


 光栄、ねぇ。

 俺としてはありがた迷惑って方がしっくりくる表現だが……向こうとしてはむしろありがたいと思えって感覚なんだろうな。


「当然、来てくれるよね?」

「……分かりました。うかがいます」


 一応、こちらの意思を尋ねてはくれたが、その眼光は「有無を言わさず連れて行く」という輝きを放っていた。


 ……まあ、いいか。

 リシャール王子の狙いは不透明だが……恐らく、騎士団に加入して魔王討伐に尽力せよとか、そんな類だろう。

 この際、ハッキリと断ってしまおうか。

 そう思い、俺はふたりについていくことにした。


「アルヴィン様……」


 シェルニの声に反応して振り返ると――そこにはシェルニだけでなく、フラヴィア、レクシー、ザラ、ケーニルが心配そうにこちらを見つめていた。


「大丈夫だよ。行ってくる」


 みんなにそう告げて、俺は店を出た。

 リシャール第二王子に、俺の気持ちを伝えるために。

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