第201話 再戦

 かつて救世主パーティーに名を連ねた戦士タイタス。

 だが、今となってはカジノを経営し、小悪党をまとめる犯罪者へと成り下がった。


 そのタイタスは、世界に大きな影響を与えているトーレス商会の会長であるクラーク・トーレスを操り、組織を掌握。このカジノも、トーレス商会の力を悪用して作りあげたものだった。


 俺が魔剣を持っていないって分かっているからなのだと思うが――


「来い」


 ひと言そう呟くと、一瞬の閃光ののち――俺の手には魔剣が握られていた。


「何っ!?」 

「何も考えずに預けるわけがないだろう?」


 魔剣はどんな場所にあっても呼び出せる。

 メアリーさんが追加してくれた、新しい力だ。


「……魔剣を抜けよ、アルヴィン」


 当てが外れて落胆しているのかと思いきや、未だ自信満々のタイタス。

 ダンジョンでの戦闘――あの時、俺の魔剣の力は見せたはずだ。

 だというのに、タイタスの顔は自信に満ち溢れていた。

 負けることなど微塵も想定していない。

 そんな顔つきだ。


「どうした? 怖気づいたか?」

「……分かった」


 俺は魔剣を抜く。

 メアリーさんの手によって強化された、新しい魔剣だ。


 俺が構えると、タイタスも拳を握る――と、両手を覆うガントレットが青白く発光を始めた。


「! それは……」

「はははっ! 俺があの時のままだと思ったか!」


 なるほど……自信の源はこれか。

 タイタスの聖拳ことガントレットは強化されていた。


 しかもあれは――


「魔力を無効化できる激レア魔鉱石……」

「ほう? よく知っていたな。さすがは商人というわけか」


 採掘可能な鉱山が極端に少なく、そもそも流通自体を禁じている国がほとんどだ。つまり、表の市場ではまず出回らないという代物で、俺も実物は見たことがない。


 だが、タイタスはそれを新たなガントレットに取り入れている。

 非合法な手段で入手したのだろう。


「こいつのおかげで、並大抵の魔法は俺に通じない」

「みたいだね」

「それでいて! 俺には鍛え上げたパワーがある! 格闘戦でこの俺に勝てる者など、この世にはひとりとしていない! たとえ相手が魔族六将でもな!」


 そんな力を手に入れたのなら、今すぐ戻って救世主パーティーを再結成させたらいいのに……どうやら、その新たな力は我欲を満たすために使うつもりらしい。


「タイタス……その力をもっと有効活用することができれば、今みたいな立場にならなかったはずだ」

「うるせぇ! 俺は俺のやり方で世界を牛耳ってやる! もう誰にも邪魔はさせねぇ!」

「それじゃあ魔王軍と変わらないじゃないか」

「違うな! 魔王軍よりもこの俺の方が強いんだよ!」

 

 もはやタイタスは止まらない。

 英雄として、誰からもチヤホヤされていた生活から一変し、今や小悪党たちの親玉……返り咲きたいってことなのだろうけど、根本的に考え方を変えない限り、同じことを繰り返す未来しか見えない。


「このガントレットでおまえを砕き殺す!」


 タイタスの大きな拳が、俺目がけて放たれる。

 相変わらず、打ち出す時の動作が大きくて実によけやすいパンチだ。

 俺はそれをかわして反撃に移る。


 新たな魔剣に風属性を与え、切れ味をより鋭くする。


「無駄だ!」


 しかし、タイタスはそれを読んでおり、両手をクロスして防御態勢を整える。この状態になることで、魔力を通した攻撃――つまり、攻撃魔法を防ぐという仕組みになっているらしい。


「くくく、おまえが魔力切れを起こすまで耐え抜いてやる。その後は死を懇願するくらいじっくりといたぶってやる」

「それは怖いな」


 歪んだ笑みを浮かべるタイタス自慢のガントレット。

 俺はそれを狙って魔剣を振るうと、ガギンという鈍い音が響き渡った。


「くはははははっ! 無駄なんだよぉ!」


 タイタスは魔剣の一撃を防いだ――そう思い込んでいる。


「おまえの魔剣など、俺には通用しない!」

「……それはどうかな?」


 俺は右足をあげて、強く地面を踏みつける。

 すると、


「!? な、何っ!?」


 タイタスの見ている目の前で、ご自慢のガントレットは真っ二つとなった。

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