第04話 属性(黒)

 ソラは一人混乱していた。その表情の変化は誰が見ても分かるレベルだった。そんなソラを心配そうに見つめる兵士が一人。だが、スフレアはその変化を緊張していると理解し、自分が緊張をほぐしてあげなければと謎の使命感に駆られていた。

 互いにそんなすれ違いをしている状態で、二人は神殿のような建物に入っていった。





 カリアが声を発し、数年間それを望み、各地の呪術師や魔導士の元を巡っていた兵士の中には涙を流している者さえいた。そして、この事を最も待ち望んでいたと思われる陛下に伝えるために、ルバルドは数名の兵士を向かう予定だった呪術師の元へと向かわせ、自分たちは王都へと向かっていた。

 暫く声を発していなかったため、カリア姫がきちんと会話が出来るのかと言う不安の声もあった。だが、声を通してではなかったとはいえ、人と意思疎通をしていたことと、声が戻った時にきちんと話せるようにと言う医者のアドバイスで声を出す練習を日常的に行っていたためスムーズに会話を出来るようになっていた。



「あ、あー」


「カリア姫?」


「え? あぁ、ごめんなさい。何か久しぶりに自分の声を聞くから違和感があって……」


「いえいえ、そういうことなら。それよりも、声が戻られて本当に良かったです」



 そのカリアとルノウの会話を外から聞いていたルバルドは、走っている馬の上から質問をする。



「カリア姫、それで一体、なぜ声が戻られたのですか? 昨日までは声が出なかったと記憶しているのですが……」



 カリアは一考する。昨夜、声を出そうと試みたときは、間違いなく声が出なかった。ということは、今日の出来事だろう。そう思ってカリアは自分の今日の行動を一考した。



「! きっとあの人――ルノウ、あなたが殴りつけた人です!」



 そう言いながら、カリアはルノウを睨みつける。



「し、しかしカリア姫。あのような状況なら誰でも――」


「だからって普通、殴りつけたりしないと思うのですが」


「何かあったのですか?」


「ルバルド、実はルノウが――」



 カリアはまるで子供が告げ口をするように、馬車の準備をしている間に会ったソラの話と、突然現れたルノウが何をしたのかを話した。



「ルバルド殿、あなたでもそうす――」


「いえ、私は仮にも国民を守る一人の兵士です。流石にカリア姫と歳の変わらない者に暴力を振るう事は……」



 その反応にルノウは少したじろぐ。彼には国にとって害となるものに対して極端なほど排除しようとするきらいがあった。そんな極端な性格をしたルノウが今の地位にあるのは、偏に国のトップやその周辺が国のためにどれだけ尽くしているのかを理解していたためだった。勿論、その極端な行動故に好き嫌いは分かれてはいたが……。

 ともかく、時々目に余るような行動があったとしても、常にそれを帳消し――もしくは帳消しプラスアルファの行動をしているからこそ、許されてきた。その目に余る行動には女も子供も関係ない。ルノウがソラを殴ったのは、部屋に入った時にソラの行動がカリアに害をなす可能性が少しでもあったからに他ならない。彼にとって、王族とはそれほど重要な存在なのだ。



「それはそうと、その者はいったいどんな術で呪いを解いたのでしょうか……? ともかく、正体を突き止める必要がありそうですね」


「そうだな」



 ルバルドの言葉に賛同するルノウの言葉には、危険なら排除すると言う続きが隠されていたりするが、その場にいる者はそんなことを知る由もなかった。何より、カリアの声が戻ったことに対しての喜びに浸っている彼らにそんなところに頭を回す余裕なんて皆無だった。

 王都を囲う壁が見えてきたところで、ルノウはカリアに声を掛ける。



「カリア姫、早く陛下と王妃にお声を――」


「分かっています。ずっと心配をかけてしまったんだもの。早くお父さんとお母さんのもとに戻りたいです。それと、あの人にもう一度会えたらルノウのことを謝ってお礼を言わないと……」


「カリア姫、姫が簡単に頭を下げるものではありません。第一、あまり我々が下に出るのは――」


「ルノウ、あなたも一緒に謝ってくださいね?」


「カリア姫? ……本気で言ってらっしゃいますか?」



 そう質問するルノウにカリアは笑顔で返した。その笑顔を見たルノウは、「当たり前でしょ? 何を言っているの?」というカリアの声が聞こえた気がした。





 カリアたちが王都に到着しようかと言う頃、ソラは神殿の中のとある部屋にいた。神殿の中は机から椅子まで同じような素材でできていて、神秘的な雰囲気さえ感じられた。

 ソラの前には、ソラの腰より少し高いぐらいの台座があり、その上には不思議な水晶があった。その水晶は手のひらサイズで、四つの足が付いた支えの上に置かれており、水晶の下には円錐を逆さにしたような物体がぶら下がっていた。水晶の中を覗いてみると、白っぽく、発光しているように見えたが、不思議と眩しさはなかった。

 ソラが少し待っていると、スフレアが手のひらサイズの、薄い茶色の紙を持ってきた。スフレアはその紙を水晶を支えている器具の四つの足の中心に置いた。



「ここに手を翳してみてください。それで分かりますので」


「は、はい」



 ソラは緊張の面持ちで水晶の上に手を翳した。すると、逆さになっていた円錐の先から不思議な光が現れ、紙の上をスライドする。光がとおった後は黒くなり、それが文字となっていた。



「その歳で称号持ちなんて珍しいですね。どれどれ……」




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

   名 前 : ソラ

   種 族 : 人間

   年 齢 : 15歳

   称 号 : 消滅の権利者、解呪者

   スキル : 属性(黒)

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「聞いたことない称号とスキルですね……。スキルの方はこちらで少し調べてみます。過去に同じスキルを持っている人がいて記録が残っていれば何か参考になるような使い方が分かるかもしれませんし。称号の方は今までの行動によるものだと思うのですが……」



 そう言いながら、スフレアは外から夕陽の紅い光が差し込んでいることに気が付く。



「もうこんな時間ですか。今日はこの辺りにしましょう。兵士用の食堂と宿舎を案内しますね」


「はい、お願いします」



 ソラは話をスフレアが切ったので口には出さなかったが、称号とスキル、そして今までの経験で自分のスキルを何となく想像できていた。ソラは一人、スキルを使った時のことを思い出す。魔物に触れたとき、その魔物は消滅した。そして、カリアの中にあった鎖に触れて、その鎖を消滅させた。それを考慮すれば、スキルの効果を予想するのは難しいことではなかった。

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