第14話 剣術
ソラとウィスリムが剣を交え始めてから既に数分が経っていた。辺りの喧騒は消え、逆に静まり返っていた。辺りにはただただ金属同士がぶつかる音が響いていた。剣を全力で振るい続けるウィスリムの表情は真剣そのものだった。だが、それを短剣一本でいなし続けるソラはフードのせいで表情が見えないものの、疲れた様子は一切見られなかった。
ギルドマスター思わず口を開く。
「あのウィスリムが完全に遊ばれている……」
ウィスリムはその立場故に実力も、スキル『未来視』も周知されていた。それは数秒後の未来を見ることのできるスキル。あらゆる攻撃・回避を予知することによって攻守に利用できる汎用性が高いスキルだ。そしてそのスキルと同様にウィスリムの性格も多くの者が知っていた。少なくとも、こういった場で手を抜いたりするような人間では無い。
「ルーク、あれどうなって……」
「僕にも分からないよ……。一体どんなスキルがあれば――」
ルークの誰に聞いた訳でもない質問にミラが答える。
「あれはルークの持っておる感知とさほど変わらぬと思うぞ」
「え? でも感知スキルであんなこと――」
「ルークのそれは敵の場所を感知する程度じゃろう? もし体の細かな動きまで感知出来れば相手の動きを見切るぐらいのことは出来ると思うがの。最も、あやつは元から剣の才はあったようじゃからそれだけではないじゃろうが」
そんな言葉に耳を傾けつつも、二人はソラとウィスリムの戦いに見入っていた。
☆
ウィスリムは徐々に苛立ち始めていた。スキルを使ってどんな攻撃を仕掛ければ隙を付けるか。それを探っていたのだがどの角度で、剣速で、間合いで攻撃をしてもまるで見透かされたようにいなされる。何より、ウィスリムは手を抜かれていると感じていた。ソラが腰に提げている得物を一本しか使っていないことからもそれは明らかだった。そしてそれは、ウィスリムにとっては何よりも屈辱な事だった。
そんな雑念がウィスリムの動きを鈍らせる。
「しまっ――」
ウィスリムの剣は大きく後ろに弾かれる。スキルを使ってソラの動きを先読みしてどうにか躱す。だが、ソラの短剣は頬を掠め、ウィスリムの頬にはうっすらと紅い筋が浮かび上がる。
そのまま後ろへと飛んで距離を取ったウィスリムは、思わず声を荒げた。
「馬鹿にするのもいい加減にしろっ! 手加減されてこの僕が納得するとでも思っているのかっ!」
突然の大声に戸惑いつつも、ソラは言葉を返す。
「すみません、そんなつもりはなかったんですけど……。でも、確かに手を抜くのはあなたにとって失礼だったかもしれませんね」
そう言いながらソラは小太刀に手を掛けた。それを見てウィスリムはより一層警戒を強めると同時に、走り出した。それと同時に剣に雷を纏わせてその強度、切れ味を跳ね上げる。それはソラの使っているミラお手製の短剣でさえ切り裂けるほどのものだった。ウィスリムが剣を真上から振るうのに合わせて、ソラは小太刀を抜刀した。
ウィスリムのスキルはその利便性故に消耗が激しい。だからそれを最小限に抑えるために予測するのは相手の体の動きの一部のみ。それ以上はウィスリムが積み上げてきた経験則によって補われてきた。だが、ソラのその武器はウィスリムの経験則の範囲を超えていた。
カランッ
ウィスリムの雷を纏わせた刃はその意味を成さなかった。ソラの放った一振りは容易にそれを切り裂さいてウィスリムの首筋の前で止まっていた。柄から伸びていたのは不定形で、ゆらゆらと揺らめいている黒い炎にも似た刃だった。
「ギルドマスター」
ソラに名前を呼ばれて、ギルドマスターはようやく我に返った。
「勝者、ネロ……」
静まり返ったその場に歓声が響き渡る。ソラが小太刀を鞘へと戻すと同時に、ウィスリムの体はプライドと共に膝から崩れ落ちた。トップクランとして、そのリーダーとして積み上げた自信が消えていく感覚に思わず唖然とする。
それを気にも留めずにソラは元の場所へと戻っていった。
「今日はもう戻らない?」
「賛成じゃ。少々騒ぎが過ぎる」
「ご主人様がそう言うのなら、私に異論はありません」
「ルークとフェミはどうする? 取り敢えず修行みたいなことは今日までってなってたけど……」
ルークとフェミは一瞬顔を見合わせたが、すぐにソラ達の方へと向き直った。自分たちの師であるソラとミラの力を目の当たりにして誇らしいと思うと同時に、これ以上のチャンスは無いと思った。今まで孤児院と言う境遇でほぼ生まれた瞬間から不遇な立場にあった二人にとって、これを逃すと言う選択肢はあり得なかった。
「「これからもよろしくお願いします!」」
そんな会話をソラ達がしているのと同時期、ギルドマスターはその場から動こうとしないウィスリムに声を掛けようと動き出していた。だが、ベルやランドンがウィスリムの元へと向かっているのを見て止めた。今の
☆
ソラ達はウィスリム率いるクラン『ロート』のメンバーとの戦いを終え、時々依頼を受け、森の中の家でのんびり過ごすと言う日々を過ごしていた。そんな日々を数か月過ごした頃、ギルドに一人の少女が現れる。少女は受付に辿り着くなり、口を開いた。
「すみません、ネロという名前の方はどこに行けば会えますか?」
肩辺りまで伸びた黒髪の陰に隠れた碧い瞳は、まるで何かを決意したような力強さを感じさせていた。
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