第三章 正体
第01話 師匠
ギルドでは、ソラが立ち去った後長い沈黙が降りていた。
それを最初に破ったのは、クラリィの呟き声だった。
「王国の人間……」
ソラは言った。自分の事は王国の人間にでも聞け、と。
少しの間考えた後、クラリィはルークとフェミの方へと向き直った。
「ルークさん、フェミさん。私、王都に行ってみようと思います」
少しの間呆気に取られていたが、ルークとフェミは苦笑いを浮かべてから口を開いた。
「私も付いていくよ。師匠たちの事、気になるから」
「僕も。ずっと聞かないようにしてきたけど、師匠本人が聞けって言ったんだ。出来る事なら、師匠があんな風に強い意思を持っている理由を知りたい」
そんな会話をしている三人に、驚き顔のギルドマスターが声を掛ける。
「お前ら、ネロの本当の名前を知っていたんだな」
三人は首を縦には振らなかったが、横にも振らなかった。
「それだけのことで、迷いもせずに魔族を庇ったのか?」
その問いかけに、クラリィが一歩前に出て答えた。
「ネロ様はいつだって自分の思う通りにしか行動しませんし、人を殺めることだって躊躇いません。ですが、いつだってそこには理由があって、その理由の中には大抵、ネロ様が失いたくないモノが関わっています。そんなネロ様と本当の名前を知っている程親しくて、頼れるような関係にある。それだけで私が――いえ、私たちがあの魔族を庇う理由には十分です」
「……どんな理由があろうと、魔族を庇うというのは大罪なんだぞ?」
その問いには、ルークが答える。
「それは関係ありません。師匠たちと出会うことが無ければ僕の今はありませんでしたし、何なら今頃死んでいました。そんな恩のある師匠の仲間を庇う事に躊躇いはないですし、その種族が何であろうと気になりません」
「俺だってネロの事はある程度信頼しているつもりだ。それでも、あいつは俺にも、お前たちにもずっと何かを隠していた。それでも信頼できるのか?」
その問いに、フェミは何かを思い出すような表情をしながら答えた。
「昔、……師匠たちと出会って間もない頃。師匠は自分がいなくなっても捜そうなんて思うなと警告されたことがありました。一度巻き込まれたら抜けられなくなるから、と。これまで何度も助けてくれて、ずっと庇ってくれていた。さっきだってわざわざギルドマスターにも聞こえるように自分たちの問題だと言って、巻き込まないために私たちを突き放してくれた。そんな優しい師匠を疑うなんてこと、私たちには出来ません」
そこまで聞いて、ギルドマスターは一つため息を吐いた。
「……ヴィレッサ、馬車を準備してくれ。荷台には王都までの片道分の食料と、四人分のスペースが欲しい」
「四人分? ……まさか、ギルドマスターも一緒に行くつもりですか⁉」
「あぁ。だが、俺はそいつらと違う理由がある。王都には近いうちに行くつもりだったんだ」
その言葉で、ヴィレッサとルーク達は察した。
ギルドマスターから指示を受けたヴィレッサは消えた人間について調べた。その結果、浮かび上がった二つの事実がある。一つは消えた人間を操っていたのが副ギルドマスターのビトレイだったこと、もう一つがそのビトレイの兄がルノウであることだ。
「何より、今はお前らだけで王都に行ったら何をされるか分からん。だが、ギルドを束ねている俺が行けば、余程の事が無い限り手を出されることは無いはずだ」
それを聞いて、ルークは驚きの表情を浮かべた。
「待ってください、ギルドマスター。なぜ僕たちだけで王都に行ったら危ないんですか?」
「この間のお前らが襲われた件は、ほぼ間違いなく裏で国が糸を引いている。それからほとんど時間は経過していないが、国がお前らが生き延びたことを把握している可能性はゼロじゃない」
つまり殺し損ねた、若しくは捕らえ損ねたルーク達を再び襲ってくる可能性があると言う事だ。
「それと、一つ条件がある。俺の準備は一日二日でどうにか出来るもんじゃない。出発は俺の準備が出来るまで待て。この条件が飲めないのなら、王都へは行かせない」
ギルドマスターは威圧的にそう言ったが、その本心はただルーク達の身を危険に晒したくないからだ。
勿論、それはルーク達にも十分伝わっている。
ルーク達は一度顔を見合わせてから、一つ頷く。
「分かりました。ギルドマスターの準備が終わるまで待ちます」
その数日後、ルーク達はギルドマスターと共に王都を目指してギルドを離れた。
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