第02話 訪問

 ルーク、フェミ、クラリィの三人はギルドマスターと共に王都へと向かっていた。その目的はソラが最後に残したルノウ大臣に聞けという言葉を実行するためだ。

 そして、辿り着いた四人は王都へと足を踏み入れることなく、背筋を凍らせることになった。

 フェミは呆気にとられながらルークに問いかけた。



「ルーク。私、王都は初めて来たし、お城も初めて来たんだけどあれって……」


「ギルドマスター……まさか、元からあの形じゃないですよね?」


「そんな訳ない……はずだが……」



 四人がいるのは少し小高い丘だった。

 王都から離れてはいるが、その中心にある城が良く見える。霧も無く、夜という訳でもないため、城の上部が綺麗に消え去っているのもすぐに分かった。





「こんなに大きな門、初めて見ました」


「そりゃ、ギルドと違って魔族を相手にしているからな。魔物ならその周辺に生息しているものを把握しておけば必要最低限の対策で済ませられるが、ここはそうはいかないんだろうな」



 ギルドマスターはルークの問いに答えてから、一人王都の門の方へと向かっていった。ギルドマスターの地位は、決して無碍むげに出来るようなものではない。さほど時間を掛けずしてギルドマスターは三人を手招きして、そのまま一人の兵士の案内を連れ、王都の門をくぐった。

 先程城を見て驚いた四人だったが、王都へと足を踏み入れてからさらに驚いた。



「今ここで出回っている噂は本当なのか?」



 ギルドマスターは、案内をしてくれている兵士へと問いかけた。



「本当らしいです。王国が捕まえた魔族を助けるために、裏切り者の人間が王都へと侵入した。そして、散々暴れまわった結果があれです」



 兵士はそう言いいながら、少しずつ近づいてきた城の方へと目をやった。



「ギルドマスターならソラ――いえ、ギルドではネロと言う名前を使っていたそうですね。ご存じなのではありませんか?」


「あぁ、知ってはいるが……」


「人間に溶け込むために良いように装っていたそうですね。かつてはこの王都にもいたことがあったそうなんです。カリア姫に掛けられた呪術を解いたことによって、陛下へと近づいたこともあったのだとか。きっと、ルバルド兵士長に怖気づいてその時は何もできなかったのでしょうね。ルノウ大臣が話をしに行ったときは問答無用で護衛を斬り殺し、魔族を守るために大勢の人間を躊躇いなく殺す。そいつはきっと、猫の皮を被ったゴミ以下の人間です。次、私たち人間の前に現れた時には、国と人を守る我々兵士が正義の名の元に殺して見せます」



 その言葉が言い終わる頃には、ギルドマスターは何かを言い返そうと体を半分乗り出していた。しかし、それはクラリィの片手によって制された。



「おいクラリィ、何で止めるんだ。お前だって――」



 ギルドマスターはそれ以上言葉を紡げなかった。

 クラリィの瞳は見たことが無いほどに鋭く、怒りに震えていた。殺気のようなものまで纏っており、普段一緒にいるルークとフェミが声すらかけられないほどだった。

 クラリィは、目の前の兵士に聞こえない程の声でギルドマスターに語り掛ける。



「私だってこんなの耐えたくありません。ですが、師匠たちは今まで何をされても自分か仲間に手を出されない限り何もしなかった。きちんとした事情も把握していないまま感情に流されるなんて野蛮なこと、するべきではありません」



 その様子に気が付き、先程まで得意気に話していた兵士は首を傾げる。



「どうかされましたか?」



 それには、クラリィが笑みを浮かべて答えた。



「いえ、何でもありません。一つ質問があるのですが、いいですか?」


「構いませんよ」



 案内をしている兵士は、「私が答えられる事であればですけどね」と笑みを浮かべながら付け加えた。



「そのソラと呼ばれている人物の話は、どなたから聞いたのですか?」


「さあ……。私も人伝てでしたから。ただ、捕縛した魔族を城へと連行した際には、王都に滞在しているほとんどの貴族、そして王族までもが拷問による自白を聞くために集まっていたそうです。なので、情報源は貴族や王族だと思いますよ」


「そう……ですか……」



 クラリィはそれだけ答えると、俯いて何かを考え出した。

 そんなクラリィに、フェミが心配げな表情で声を掛けた。フェミの隣では、ルークもクラリィの方へと視線を向けている。



「クラリィ、どうしたの?」


「ネロ様の力なら、暴れる必要なんてないはずなんです。一瞬でどんな距離でも移動してしまえるのですから」



 その事をルーク、フェミ、クラリィは良く知っていた。実際に、自分の体を移動してもらったことまであるのだから。

 クラリィは、近づいてくる城に視線を向けながらさらに言葉を加える。



「もしあれをネロ様がやったのなら、それなりの理由があったはずです。少なくとも、私の知っているネロ様は問答無用にあんな事をしません。現時点でその理由が公表されることなく、ネロ様が悪だと吹聴されています。これだけ広がっていると言う事は、実際に見ていた権力を持った人間は噂を否定せずに傍観しているのでしょう。そして、傍観している人間に王族までもが含まれていると言う事は――」



 城の前まで辿り着き、王都の門とさほど変わらない大きさの門が音を立てて開かれた。

 その中へと歩みを進めると同時に、クラリィは言葉を続けた。



「この国にネロ様の味方は誰一人としていない」



 クラリィは手に入れた情報から、半ば確信的にそう思った。

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