第03話 回顧
ギルドマスター、ルーク、フェミ、クラリィの四人は、何故か国王から許可を出され、その御前へと向かっていた。
指定された部屋の前へと辿り着き、扉が部屋の出入り口を守っている兵士によって開かれた丁度その時だった。
パチン。
そんな乾いた音が辺りに響き渡った。四人の目の前では、ルノウが一人の女性に頬を叩かれたところだった。女性の方は目を真っ赤にして今にも泣きだしそうな様子だったが、ルノウの方に悪びれた様子は一切無い。
そんな様子を、すぐ傍で国王、王妃、王子が見守っている。
明らかに異常な光景に、四人はしばらくの間動けなかった。
「あぁ、すまないな、ギルドマスター殿。こんな場所に通してしまって」
「ブライ陛下、どれはどういう……」
ブライはギルドマスターの後ろにいる三人をちらりと見てから、再び視線を戻した。
「そこに掛けてくれ。他でもない、ソラ君の弟子だ。君たちにも説明位はさせて欲しい」
全く状況が呑み込めないまま、四人は指示された場所へと腰を下ろした。ブライの指示で王族とルノウも腰を下ろす。
「説明と言っても、私もまだ少ししか話を聞けていない」
そう言うと、ブライはルノウの方へと視線を向けた。
「話をする前に一つ聞いておきたい。ネロと呼ばれる人物とソラと呼ばれる人物が同一であることは?」
その言葉に、ギルドマスターとルーク達は頷いた。
それを確認すると、ルノウは話し始めた。
「三年前、ソラ君は王都へとやって来た。そこで偶然カリア姫と出会い、当時のカリア姫が掛けられていた呪いを解いた。それは当時、かなりの話題になった。何せ、どれだけ優秀な人間であっても解けなかった呪術を、モノの数秒で解いてしまったのだから。呪術は犯罪者の呪縛を目的に使われることもある。私がソラ君を危険視したのは、至極当然の事だった」
危険視と言う言葉にその場の数名が何かを言いたそうにしたが、話を途切れさせないために口には出さなかった。
「そこで、私はソラ君を試すことにした。この国には呪術で主人を定められた奴隷と呼ばれる存在がいる。私の所有する奴隷の一人を、ソラ君に解呪させるように命じたのだ。その時の奴隷と言うのが、ソラ君がティアと呼ぶ存在だ。その後、私は呪術を解いたソラ君にティアを付き人として差し出した」
ティアの事を知り、その過去を知らなかったルーク、フェミ、クラリィの三人は驚きの表情を浮かべた。三人とも短くない時を一緒に過ごしていたが、そんな過去があったことなど全く気が付かなかった。
「私がティアを差し出したのには理由があった。それはティアが『服従者』と呼ばれるスキルを持っていたからだ。自分を瀕死状態へと追いやった者に対し、強制的に服従する。それがそのスキルの効果だった。仮にソラ君が呪術を解いた場合、ティアを監視役として付かせる。それが私の目的だった」
スキルの事を知らなかったカリアは、唖然としながら呟いた。
「そんな……。私、ティアにそんなスキルがあった事なんて知らなかった……」
「それも無理はありません。私はティアにスキルがあることを誰にも言っていませんから。何より、カリア姫と出会った時にはそのスキルは消えていました」
それに対し、驚きの表情でシュリアスが口を開く。
「待ってください、ルノウ大臣。スキルが消えるなんて話聞いたことがありません。もし本当にそんなことが可能ならば――」
シュリアスは、その先の言葉を飲み込んだ。
言葉を続きをルノウが継ぐ。
「そんなことが可能ならば、人間と魔族のバランスが崩れてしまう。魔族に比べて身体的能力で劣る人間がここまで戦えて来たのは、スキルがあったから。それを消してしまえるなんてこと、あってはならない。しかし、ソラ君のスキルはそれを可能にしてしまった。彼が誤った道に進んだ場合、我々へのダメージは計り知れない。人間の中にはスキルに依存した戦いしか出来ない者も少なくないのだから」
そこまで聞いて、ギルドマスターが唸った。
「スキルを消せるスキル、か……。確かに魔族との戦いを重要視しているあんたらからすればこれ以上ないぐらいに脅威だろうな」
ルノウは一つ頷き、さらに言葉を続ける。
「そして、ソラ君のスキルはそれだけではなかった。ソラ君はティアから一切の情報を受けていないにも拘らず、私とティアの繋がりを知っていた。当時ソラ君が接触していた人間で、私とティアとのつながりを知っている者はティア本人だけだった。つまり、ソラ君のスキルは他者のスキルを消すだけでなく、記憶を覗き見ることまで出来てしまう」
ブライ達はかなりの衝撃を受けた様子だったが、心当たりのあったギルドの面々はどこか納得顔だった。
「ソラ君は国へ仕える意思は一切なく、ちっぽけな故郷を守ることしか考えていなかった。きっと、自分の為にしか力を使わないだろう。私はそう思った。そしてこうも思った。これほど脅威に満ち溢れたスキルを、個人の意思で自由に使えてしまうのは危険過ぎると。少なくとも、スキルの所持者を殺すべきだと私が思えるぐらいには。私はソラ君を殺すために、人殺しに特化した人材をソラ君の故郷――魔女の村へと送り込んだ。その次に手に入れたソラ君関連の情報は、魔女の村が消滅したというものだった。何が起こって村が消滅したのかは、私も知らない」
そこまで聞いて、ギルドマスターが口を開いた。
「その人材ってのを、副ギルドマスターに依頼したんだろう? 今は亡きあんたの弟にな」
その言葉に、ルノウは思わず息を呑んだ。
ビトレイが弟である事実は一部の者にしか言っておらず、ビトレイも信頼できる実力者にしか言っていなかった。
しかし、ルノウが最も引っ掛かったのはその事実をギルドマスターが知っていることに対してではなかった。「今は亡き」。ギルドマスターは今、確かにそう言った。
「状況が呑み込めない、って顔してんな。あんたの弟であり、副ギルドマスターであり、王国のスパイであるビトレイは死んだ。ここまで言えば、流石に理解出来るだろう?」
ルノウとギルドマスターの間に重苦しい雰囲気が流れる中、王族の四人は突如明かされた事実に開いた口が塞がらなかった。
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