第05話 住処

 四人が魔物討伐と町への帰還を繰り返し始めてからおよそ十日が経過した頃、ようやく正確な住処の位置を発見することが出来た。それも、まだ日が頂点へと達していない内にである。

 木々で身を隠す四人の視線の先には、斜め下方向へと続く子供一人が通れるぐらいの大きさをしている洞穴があった。



「やっと見つけましたね! 一旦町へ戻りますか?」



 ベウロのその提案に、ルークは首を横に振った。



「いや、あまり消耗していないし今日はここから出来るだけ近い位置に野宿しよう。出来れば、ここに戻ってくる魔物を全部狩っておきたい」



 クラリィはルークのその言葉に少しの間考えを巡らせた後、「なるほど」と呟いた。



「魔物の戦力を住処内のものだけにするのですね。それなら、夜は監視役というよりも一人ずつ休息をとる形にした方が良いのではないですか?」


「そうだね。一先ず今は、周辺の地形を把握して戻ってくる魔物に備えよう」



 その後、四人は周辺を身を隠しながら散策し、少し離れた場所に休みやすそうな場所を見つけた。

 夜体を休める場所をそこに定め、住処周辺を索敵して見つけるたびに討伐していった。

 日が暮れると一人ずつ仮眠をとりながら住処の出入り口を見張った。視界が悪く危険なため討伐はせず、住処内の魔物の数を大まかに確認しておくためである。しかし、夜間に出入りする魔物は居なかった。

 そうして夜が明けた後、四人は装備を整えてから住処である洞穴へと向かった。その出入り口に立ち、フェミは松明のような棒をバッグから取り出した。

 それを見たベウロは首を傾げる。



「フェミさん、それは……?」


「燃やすと魔物が嫌いな煙が出る道具だよ。これから出てくる煙は重くて、ここみたいに下向きの洞穴なら中の魔物をおびき出すのに使えるんだ。火をつけるときはこうやって……」



 フェミは近くの岩に手を置き、スキルを使って平らにする。

 それから棒の先端を平らにした場所に付け、勢いよく擦り付けた。

 すると、摩擦によって先端からは緑色の煙がモクモクと出始める。



「皆、準備は良い?」



 クラリィは三人が頷いたのを確認すると、それを洞穴の中へと放り投げた。それと同時に、四人は洞穴の中からは見えない死角へと動く。

 それから十数秒後には三十匹ほどの魔物が逃げ出すように洞穴から出てくる。一目散に外へと出た全ての魔物が四人を視認した時には、既に残りは二十匹ほどになっていた。

 一瞬、ベウロは想像以上に数が多い気がしたが、他の三人の動きを見て自分が過小評価していたことに気が付いた。

 クラリィは単独で短剣と小太刀で攻撃をいなしながら魔物を切り続け、ルークは体中に隠してある刃を正確に魔物の急所へと飛ばし、フェミは邪魔にならない位置へと移動し続けながら誰か一人に魔物が集まり過ぎないように適度に足止めをしていた。

 そんな中、ベウロは誰にも聞こえない小さな声で呟いた。



「……これは一対一だと勝てないかもしれないなぁ」



 三人に交じりながら適当に参戦するベウロは、クラリィの動きを見ながら苦笑いを浮かべていた。その動きは瞬発力がどうこうだけで済む話ではない。明らかに周囲の敵の位置を把握した上で行動まで予測している。そうでなければ、こんな速度で魔物の攻撃をいなしながら体に刃を走らせ続けることなどできるはずがない。

 住処から出てきた魔物を殲滅するまでに、さほど時間は掛からなかった。





「いいんですか? 洞穴の中は確認しなくて」



 倒した魔物の体から素材を回収し終わってから、ベウロはそう口を開いた。



「例え中に魔物がいたとしても、倒しきる必要はないかな。僕らが受けた依頼は異様に繁殖した魔物の討伐だから。それに、全滅させると今度は別の魔物が増えすぎる可能性もあるし。例えば初日に見た魔物とか」



 ルークの言葉通り、地域の中から一種類の魔物を消してしまうとその魔物が天敵だった魔物が増えすぎてしまう可能性がある。



「……確かに言われてみればそうですね。気が付きませんでした」



 そう言ってしょんぼりとするベウロに、フェミが声を掛ける。



「多分だけど、冒険者としてのランクが上がった時に教えてくれるんじゃないかな」


「そうなんですか?」


「少なくとも、私たちの時はそうだったよ。魔物を全滅できるぐらいの実力があるから、むやみに力を振るわないようにしなさい、みたいなことを言われた記憶がある」


「……何かいいですね、実力を認められるのって」


「そうだね。私は結構感動したかな」



 ルークとクラリィは隣でそんな話を聞きながら、そう言えばそんなこともあったなと記憶を辿っていた。

 丁度その時、ベウロの腹の虫が小さくなった。



「その……すみません」


「野宿のせいで軽くしか食べれてないから、お腹が空いてるのはみんな同じだよ。じゃあ、そろそろ町に戻ろうか。戻ったらご飯食べて、今日一日はゆっくり休もう」



 そんなルークの言葉と共に、四人は街へと向かってきた道を戻り始めた。

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