第04話 戦闘

 翌日、四人は街を出て木々の生い茂った林の中を歩いていた。依頼の討伐対象である魔物の群れの出現したという情報が、その付近に集中していたからだ。

 周囲に自分達の存在を悟られないように、誰一人口を開くことなくクラリィの感知スキルを頼りに進む。それから少しして、クラリィが手を上げて止まるように合図をした。

 より慎重に進み、見つけたのは数匹の魔物だった。その中心には足を引きずり、全身が血で染まっていきも絶え絶えの二匹の狼型の魔物だ。それを囲うのは額から立派な角を生やした、ウサギのような魔物だ。ウサギと言っても背丈は人間の子供ほどあり、後ろ脚は見るだけでわかるほどに筋肉質だ。

 その数分後には囲まれていた魔物は力尽き、ウサギ型の魔物に咥えられた状態で運ばれていた。十分に離れたのを確認してから、クラリィは口を開く。



「ルークさん、多分あれが依頼の魔物です。どうしますか?」


「追いかけて総数を確認しよう。どのぐらいの数が群れているのかで戦い方は変わってくるから。それに、どんな方法をとるにしても住処がどの辺りにあるかぐらいは把握しておきたい」



 ルークの意見に三人とも賛成し、再びクラリィを先頭に進みだした。

 それから数分して、クラリィは再び止まった。



「周りに他の仲間も集まってきてます」



 その報告に、ベウロは不安げに問いかける。



「そんな……。僕たちが見つかったってことですか?」


「いや、囲まれてるわけじゃないと思う。多分、群れの一部が狩りに出かけてるだけ」



 ルークのその言葉で察したようにフェミが口を開いた。



「つまり、近くに住処があって、狩りに出かけてたその一部が戻ってきてるってこと?」


「うん。さてと、これからだけど――」



 改めてそう言うルークに、ベウロは不思議にそうに首を傾げる。



「追いかけることはしないんですか?」


「追いかけない。クラリィ、他の集団が向かっている方向って分かる?」


「はい。大まかにならですけど……」


「それなら、一旦住処がありそうな場所から離れよう。その後は群れから分離して狩りをしている集団から討伐していく。数が減ってきたら少しずつ住処へと距離を詰めていこう」



 四人はルークの話した作戦通りに行動することを決めた。





 足首程の丈しかない草が茂っている夕日の眩しい森の中をウサギ型の魔物は数匹で行動していた。その内一匹の耳がピクリと動く。前方からの物音を察知したからだ。少しして、前方から片手剣と盾を装備したルークが飛び出てくる。それに対して身構える魔物の耳に入ってきた次の音は、後方からのドサリという二つの音だった。

 聴覚の優れた魔物すら欺けるレベルの隠密スキル。それを行使しながら、クラリィとベウロが真上の木の枝で息をひそめていた。そしてつい先ほど、スキルを解いて落下しながら急所へと一撃を繰り出した。

 魔物たちはどうにか状況を脱却しようと試みたが、既に足元は変形した地面によって固定されており、前方と後方からの攻撃を防ぐことは出来なかった。

 全ての魔物の息が絶えたのを確認してから、一同は体の力を抜いた。



「他の魔物には気が付かれていません。これで三十匹と言ったところでしょうか」



 クラリィは腰に提げてあるマジックバッグを覗きながらそう言った。中には目の前で息絶えている魔物の角が入っている。比較的高値で換金できる素材なため、依頼とは別に集めているものだ。

 目の前で倒れている魔物の分を足せば、クラリィの言葉通り三十個ほどになるだろう。



「ルーク、今日はこれぐらいにしておいた方が良いんじゃない?」


「そうだね。夜でも動けるぐらいの感知スキルを持っているのはクラリィぐらいだし、これ以上は無理して行動する必要はないと思う」



 ルークは他の二人が頷くのを確認してから、魔物の角を回収し始めた。三人もそれに続き、黙々と作業を進める。



「……ベウロさん?」



 クラリィは不思議そうに名前を呼んだ。

 呼ばれたベウロはほんの一瞬ハッとした表情をしてから、クラリィの方へと向き直った。



「何ですか?」


「いえ、笑っているように見えたので……」


「今日はいつもと違う人と戦っていると思わず緊張してしまって……。すみません、心配をおかけして」



 三人はそれならばと納得したが、ベウロが笑っていた本当の理由は角をはぎ取っている魔物の死体によるものだった。

 それからいったん町へと戻ることになり、四人は来た道を戻り始めた。



「それにしてもクラリィさん、隠密スキルまで扱えるんですね」


「あまり得意ではないですけどね。さっきのルークさんみたいに気を散らせる存在が無いと少し動くだけで見つかってしまいますから」


「私たち三人で戦っていると使う機会もないから、仕方がない気もするけどね。ベウロ君は隠密スキル得意そうに見えたけど……」


「僕は普段、仲間と一緒に依頼を受けるときは斥候せっこうをよくやっているんです。なので、隠密スキルには少し自信があります」



 「それにしても……」と、ルークはベウロが腰から下げているナイフを見ながら口を開いた。



「よくその刃渡りの武器で急所を付けるね」


「斥候は大きな武器を持つわけにはいかないので、ずっとこのサイズの武器で戦ってきたんです。きっと、その成果だと思います」



 ベウロはずっとその大きさの武器で殺してきた。

 魔物も。人も。



「あっ……! ルーク、急がないと日が落ちちゃいそうだよ!」


「本当だね。 皆、まだ走る体力ある?」


「私は大丈夫だよ」


「私も大丈夫です」


「僕もまだいけます」



 少しずつあたりが暗くなっていく森の中を、四人は足早に進んでいった。

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