第03話 町
ルーク、フェミ、クラリィ、ベウロの四人は、数日を掛けて数度の戦闘と野宿を繰り返しながら目的地へと辿り着いた。
目の前にある町は大人一人分の身長よりも幾分か高いぐらいの石の壁が囲っている。入口にいる門番はルークの差し出した依頼書を見ると、すぐに四人を中へと招き入れた。
少し歩いて人通りの多い場所へと出ると、フェミは一つ背伸びをしながら呟いた。
「やっと着いたぁ」
「流石に少し疲れましたね……。ルークさん、少し休みませんか?」
「そうだね。依頼は明日にして、今日は適当に宿をとって休もう。ベウロもそれでいいかな?」
「勿論です。僕もかなり疲れましたから……」
四人は宿を見つけてそれぞれに休息をとった。
日が落ちた頃、夕食をとるために四人は再び集まる。街を十分ほど歩いた後、一つの食事処へと入った。道中は簡易な物しか食べていなかったため、提供された料理はすぐに食べ終えてしまった。
四人は食事処を出ると、宿へと向かって歩き出した。
「疲れた後のご飯はやっぱり美味しいですね! 僕はまだ遠出の依頼は受けたことが無いので、色々と初めての経験です」
「今は人が都市部に集まり過ぎてるから、目的地まで距離がある依頼はそんなにないんだけどね。ベウロも受けられる依頼の範囲が広がったらすぐに分かるだろうけど」
ベウロはルークの言葉に「そうなんですね!」と相槌を打った。
「そう考えると、今でも依頼を一日で終わらせてしまうネロさん達の凄さがよく分かりますね。誰も行こうとしないくらい遠い場所の依頼も受けているらしいですし……。一体、どんなスキルがあればそんなことが出来るのでしょうか……?」
「それは誰にも分かりませんよ。ネロ様がギルドに所属するようなことは無いでしょうから」
「ちなみにですけど、クラリィさんはどんなスキルだと思いますか?」
「そうですね……――」
クラリィはネロが持つスキルの効果で、既に多くの人が知っているものを思い出しながら憶測を立てる。
「かなりの速さで目的地まで移動しているようですから、有名な縮地以上の効果があり、且つ武器に纏わせれば切れ味が跳ね上がるような……。効果は推測できても、私の知識の中で当てはまるようなスキルはないですね」
縮地は現在、ディルバール家当主のプレスチアが所有しているスキルである。一瞬で任意の距離を移動できるスキルではあるが、戦闘においてかなりの威力を発揮するものの、連続発動で長距離を移動できるような代物ではない。
「確かに、僕たちの知っているスキルの中には無さそうです。だからこそ、三年たった今でもギルド内で噂になるのでしょうね」
ネロの持つスキルが何であるのか。そんな議論が交わされ、いつも結論が出ないままに終わっていく。ギルド内ではそんな会話が今でも時折交わされている。
そんな話をしている中、フェミが口を開いた。
「基本的に、ネロさんの話題がほとんどだよね。私はネロさんと一緒にいる魔法が得意な人も凄いと思うけど……」
その疑問には、ベウロが答えた。
「それは多分、ネロさんに比べて確かな情報が少ないからだと思います。ロートの団員と戦った時も、数種類の魔法を同時に行使しただけだそうですし。確かに凄くはありますけど、皆が知っているスキルですからね。きっと、誰にも分からない未知のスキルを持っているであろうネロさんの方が話題にしやすいのだと思います」
言われてみれば確かにそうかもしれない。フェミはベウロの言葉を聞いて、そう思った。
ミラの見せてくれたスキルは、どれもフェミでも知っているような有名なものだ。ただ、ほとんどの者はミラが魔法以外に多くのスキルを所持している事や、その全ての習熟度が異様なほどに高い事を知らない。
「そもそも、僕みたいな一般人はネロさんと一緒にいるお二方の名前すら知りませんからね。周りから見れば、二人はネロさんの意思に従っているようにしか見えません。中心にいるネロさんは、他のお二人以上に注目を集めやすいのは仕方のない事だと思います。それでも興味が無い訳ではないので、教えてもらえるのであれば教えて欲しいとは思いますけど……」
ベウロはダメ元の質問をしながら、三人の顔を覗き込んだ。
「ベウロの知っている通り、僕らは皆が知らない事は話さないよ」
「そうですよね……」
最終的な目的がネロであるため、出来れば情報が欲しかった。三年もギルドに通っているにも
しょんぼりとするベウロを横目に、話を変えようとフェミが切り込む。
「そういえば、皆の武器の調子はどう? 丁度この街に素材が売ってたから、メンテナンスぐらいならできるけど……」
「お願いするよ。魔物討伐に行ってからすぐに戻ってこれるとも限らないし」
「さほど消耗はしていないとは思いますけど、一応私もお願いしたいです」
「ベウロはどうする?」
そう問いかけながら、フェミはベウロが腰に提げているナイフの方へと視線を移した。
ベウロは少し迷った素振りを見せてから、首を横に振った。
「せっかくですけど、僕は遠慮しておきます。手ぶらになるのは何となく不安なので……」
それはベウロが素で思っている事だった。裏側で人と戦うことを生業としてきたベウロは、常に何かの武器を身に付けていた。現在は、腰のナイフだけしか持っていない。隠して持つことも考えたが、クラリィを警戒してそうすることにしていた。例えスキルで武器を透明にしたとしても、クラリィにはそれを看破しかねないスキルがあるから。
ベウロの言葉にフェミは少し残念そうな顔を浮かべたが、すぐに持ち直した。
「そっか。何かあったら言ってね。私にできるのはそれぐらいだから」
「ありがとうございます。困ったときはフェミさんに相談させてもらいますね」
そんな会話をしながら四人は宿に辿り着き、翌日に備えて休息をとった。
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