第02話 道中

 ルーク、フェミ、クラリィ、ベウロの四人は目的地へと向かって徒歩で移動していた。

 周囲が草木で覆われている場所へと入った時、クラリィがピクリと何かに反応する。



「皆さん、一度止まってください」



 その言葉で一同は動きを止め、三人は武器を構えた。

 一人で遅れて、ベウロも腰に提げていたナイフを手に構える。



(まさか、僕より感知範囲が広いなんて思わなかったなぁ)



 ベウロは一人、心の中でそう呟いた。ベウロの感知範囲内に魔物が侵入したのはクラリィの言葉から数秒経過してからである。ベウロはそこから、クラリィの大体の感知範囲を導き出す。

 そこから少しの時間が過ぎた後、数匹の魔物が茂みから飛びかかってきた。それらは四足歩行で、黒い体毛を身に纏っていて、鋭い犬歯が剥き出しになっている。

 ルークは盾で突き出してきた頭部を下に弾いて首を剣で突き刺し、クラリィは体をひねって攻撃を躱しながらすれ違いざまに小太刀で胴体を切りつける。残りの数匹はフェミの錬金術によって変形した土の地面に足を掴まれていた。



「ベウロはそっち側の魔物を!」


「は、はいっ!」



 ルークとクラリィが向かったのとは別方向にいた魔物の急所に、ベウロはナイフを突き刺した。

 その後、四人は背中合わせで一か所に固まり、周囲からの追撃に構える。しかし、結果的に追撃が来ることは無かった。魔物が引いていったのを感知したクラリィの合図で、四人は武器を収めた。

 それと同時にルークはふぅと一息吐き、空を見上げる。



「日も落ちてきてるし、ここらで一旦休憩にしない?」



 ルークのその提案に他三人は頷き、事前に地図で確認していた近くの川へと向かっていった。





 四人はバチバチと音を立てる焚火を囲みながら、簡易なスープを口にしていた。



「先程の戦い、息の合った連携でしたね!」



 興奮気味にそう言うベウロに、ルークは若干押されつつも答える。



「僕らは三年も一緒にいるから、多少はね。かなりクラリィに頼ってる感はあるけど……」


「クラリィさんの話はギルドで聞いたことがあります。ものすごい勢いで成長してるって。ネロさん達と仲が良いってだけじゃ、ここまで広まることは無いと思います」


「私なんてまだまだです。ギルドで騒ぎ立てられても、ネロ様の足元にも及んでいません」



 ベウロの言葉に浮かれた様子を一切見せず、クラリィはそう答えた。



「足元にもって、それは流石に言い過ぎじゃ……」



 素直に思ったことを口にしたベウロだったが、すぐに口を閉ざした。三人の様子から、クラリィの言葉に謙遜が一切ない事が分かったからだ。



「フェ、フェミさんも凄かったです! あれは錬金術ですよね?」


「そうだよ。他の錬金術師がやっている方法に比べればかなり不便なやり方だけど、戦闘で活かすならこうするしかないんだよね……」


「でも、あんな精度で物を変形させるのはそう簡単に出来ることではないんじゃないですか?」


「確かに簡単には出来ないかな。でも、スキルを持ってる人がやろうと思えばできることだと思うよ。私はどちらかと言えば人より呑み込みが悪い方だから」



 その言葉通り、フェミのスキルの上達速度は平均に比べてやや劣る。フェミと同じように錬金術を扱える者ならば、より短時間で技術を習得できる。

 もっとも、それはミラと同レベル以上の講師役がいればの話ではあるのだが。



「きっと、物珍しさで過大評価されてるだけだと思うな。錬金術を戦闘で使おうとする人なんて、滅多にいないし。戦闘で使えるだけの技術を身に付けられるのなら、それと同じ時間を使って武具生成を学んだ方が需要もあるからね」



 フェミの客観的な言葉に、ベウロはフォローする言葉が思いつかなかった。

 そんなベウロに代わり、ルークとクラリィが口を開く。



「それを知ってながら、僕たちのためにスキルを扱えるように練習してくれてるのは本当にありがたいよ。フェミが居なかったら困る場面は本当に沢山あるわけだし」


「ルークさんの言う通りです。戦闘の補助が出来て、武具のメンテナンスまでしてくれるフェミさんの代わりなんて他に居ません」


「……ありがとう、二人とも」



 その会話を聞いて、ベウロは小さくつ呟いた。



「あぁ、それで……」


「ベウロ、何か言った?」



 ルークにそう聞かれ、ベウロは「大したことじゃないんですけど」と前置きしてから言葉を続けた。



「三人がクランに入らないのって、三人で完結できるからなんだと思いまして。クランって専属の錬金術師や料理人が居たりするじゃないですか。三人ならそれが無くても大丈夫そうだなって」



 三人は過去に、クランへの勧誘を受けたことがあった。しかし、現在に至るまで一度もどこかのクランに属することは無かった。ベウロの言う通り武具の修繕はフェミが出来るし、食事は簡素なものではあるが三人で協力して作れる。

 しかし、一番の理由は――。



「それもあるけど、僕たちがクランに入らないのは師匠たちがいるからって言うのが大きいかな」


「ネロさん達が?」


「クランに入って先輩に教わるより、師匠たちからの方が学べることは多そうだし。それと、これは僕とフェミの事情なんだけど、報酬をあんまり山分けしたくないんだよね。僕らは孤児院の出身だから、出来る限りはそっちに回したいんだ」



 クランは人員の増加によるメリットはあるが、その分一人一人の分け前は自然と小さくなるというデメリットがある。クランに入って学べることはソラやミラから学ぶことができ、依頼遂行に必要なモノは自前で用意できる。そんな三人にはクランに入る理由が無かった。

 ルークはそこまで話すと、おもむろに立ち上がった。



「そろそろ休もうか。あんまり遅くまで話してると明日に響くし」


「ルークさん達は見張りってどうしてるんですか?」


「いつも三人で交代しながらやってるよ。取り敢えず三人で回しながら、ベウロは誰かと一緒にしてもらおうかな」


「分かりました」



 四人はそこから交代で見張りをしながら、夜が明けるのを待った。

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