第10話 食事

 ソラ達はユーミアとミィナの住処の整理を終え、椅子に座っていた。ただ一人、ティアだけが食事を作るために離れた場所にいる。

 ユーミアは居心地が悪そうに口を開く。



「あの……本当に何もしなくていいんですか?」


「問題ない。ティアの手際の良さは妾が保証する」


「いえ、そういう訳ではなく……」


「いつもと逆の立場だから違和感があるとか?」



 ソラのその言葉に、ユーミアはコクリと頷いた。



「どの道今回持って来てる食材はここらじゃ取れないモノばかりだし、出来ることも無いんじゃないかな。それに、元々ミィナにティアの料理を御馳走するって話だったし、ユーミアさんが手伝ったら意味ないよ」


「……それもそうですね」



 大人しくしておくことを決めたユーミアの正面で、ミラは首を傾げた。



「ソラよ、そんな話いつしておったのじゃ?」


「ユーミアさんとミィナの住める場所の、最初の候補地に行ったとき」


「妾がユーミアと共に魔物の下見に行ったときじゃな。あの時、死骸を残さなければ面倒なことにならずに済んでおったのじゃろうか……?」


「そんなことないんじゃないかな。ミラの感知範囲外にあれだけの数がいたのなら、多分かなりの広範囲を寝床にしてたんだと思う。そこから数が増えたら、多分人の生活範囲まで広がってただろうし」


「それもそうじゃな。今のギルドにそれに対応できるだけの戦力があるかは知らんが、事前に危険を防止できたのなら結果的には正解だったかもしれぬな」



 いい匂いが漂ってくるティアを見ながら話を聞いていたミィナの頭に、一つの疑問が浮かんだ。ミィナはソラの方に向き直ってから口を開く。



「ソラ、ギルドって何?」


「村とか町とかよりもずっと大きい、人がたくさん集まってるところ。ミィナやユーミアが行くようなことは無いと思うし、覚えておく必要もないんじゃないかな」



 何気なしにソラやティア、ミラ以外の人間を頭に思い浮かべてミィナはいつかの会話を思い出した。



「そういえば、ソラの知り合いは大丈夫なの? 訪ねてくる人がいるとか言ってたけど……」


「この間来たところだから、暫くは気にしなくても大丈夫だよ。俺たちの所まで来るのは一組だけだし、来るときも大した用じゃないんだ。ただその知り合いは俺たちがいなかったらかなり不思議に思うだろうから、出来れば留守の状態を見せたくないんだよね」



 そんな話を聞いて、ユーミアが何かを察したように口を開く。



「要は私たち魔族と関わっているという事実に、巻き込みたくないと言う事ですか?」


「そんなところです。もし何か不思議に思われたところで、適当に誤魔化せば済む話ではあるんだけど……」


「それは得策ではないじゃろうな。一人勘の鋭い者がおるわけじゃし」



 そう言いながらミラが頭に思い浮かべたのはクラリィだった。スキルの扱いもさることながら、そう言った部分に関しても頭一つ抜けていた。

 そこまで話した時、料理を終えたティアが皿を乗せた盆を持って来た。



「すみません、お待たせしました」



 ユーミアはティアが持って来た食事がまだ人数分に足りていないのを確認してから、立ち上がった。



「運ぶだけなら私でもできそうですね」



 運ばれてきた食事を凝視していたミィナも、ハッとしてユーミアに続いた。



「私も手伝う!」





「はぁ。また師匠に勝てなかった……」


「もう三年も通っているはずなのですが、ネロ様に敵う気がしません……」



 ルークとクラリィはそう呟きながら、がくりと肩を落としていた。



「ギルドでも有数の実力者のクラリィでも敵わないって相当だよね、師匠」


「ロートのリーダーを倒してしまったぐらいですからね。きっと、ギルド内で評価を得られる程度では差は縮まらないのでしょう」


「そういうフェミの方はどうなの?」


「二人と違って自分の成長が目に見えるから、錬金術の実力が上がってるのは間違いないかな。修行の方は相変わらず地味な作業だけどね」



 そんな会話をしながら、三人は依頼を受けるためにギルドへと足を運んだ。




「一つ頼みがあるんだが、乗っちゃくれねぇか?」



 中に入るなり、珍しくギルドマスターにそう声を掛けられた。三人は不思議に思いつつも一度顔を見合わせてから、話を聞くことを決めた。

 それを確認したギルドマスターは三人を奥の部屋へと連れていく。





「ネロもお前らみたいに協力的だったら良かったんだがな」



 全員が入室して、腰を掛けたのを確認してからギルドマスターはそう言った。



「ネロ様にはネロ様なりの考えがあるのだと思います。私たちをダシに使ったギルドマスターなら、そのぐらい分かっているのではないですか?」


「そう怒るなよ、クラリィ。ほとんどの人員が出払っている状況で、俺たちにはそれ以外の選択肢が無かったんだ。ギルドここにいるのはほとんどが魔物を相手にしか戦ったことが無い奴だ。だが、ネロ達は違うだろう? 三年前のロートとの一戦を見た俺には分かる」



 ソラは王都で、魔物ではなく人を相手に戦い方を学んだ。対魔物よりも対人の方に重きを置いていた当時のソラの動きは、見る者が見れば対人戦になれていることはすぐに分かるものだった。

 そしてそれは、普段ソラに相手をしてもらっているルークやクラリィが誰よりも分かっていた。

 それでも不満げな表情を崩さないクラリィを横目に、ルークは話を元に戻す。



「それで頼みがあると言っていましたけど、一体何の……?」



 ギルドマスターはゴホンと一つ咳払いをしてから、説明を始めた。



「お前らも知っての通り、ギルド内の上位層は休みすらなく戦い続けている。そして中間層の者は王都へと魔族と戦う戦力として出払った。結果、下位層のお前らを中間層まで引き上げて穴埋めをすることになった。その当時、丁度ギルドへ入ったような新人をそろそろ人手の足りていない中間層へと引き上げようと思っていてな」


「……僕たちにその実力の見極めをしろと言う事ですか?」


「そういうことだ。やり方は候補生の一人を中間層である冒険者の依頼を、何度か一緒に受けさせるってものだ。これはお前らだけじゃなく、他の奴にも頼んでいる。正直、やってくれないと俺個人じゃなくギルドと依頼者が困る。今はそれぐらい人が足りてないからな」



 ルーク達に、それを断る理由は特になかった。

 三人の返答を聞いて、ギルドマスターはルーク達に診てもらいたい一人の人物を連れてくる。年齢はルーク達と変わらないかそれ以下に見える。もしかしたら、その身長と中性的な童顔のせいで幼く見えているのかもしれない。



「こいつがお前らにみてもらいたい新人だ。名前はベウロ。スキルは……実際に見てもらった方が早いな」


「初めまして、ベウロと言います」



 ベウロはそう自己紹介をしながら、一本のナイフを取り出した。手に持ったそれは、すぐ目に見えなくなる。



「僕のスキルは物体の透明化ができるというものです。……とはいっても、このサイズが限界なんですけどね」



 そう言いながら、ベウロは苦笑いを浮かべた。

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