第02話 来客

「じゃあ、クラリィは師匠がルークと一緒に助けたって言う……」


「僕は何もしてないんだけどね。師匠が一人で山賊を殲滅した上に、単独でアジトに乗り込んで捕らえられていた人まで助け出したんだよ」



 ギルドを出たルークとフェミは、クラリィを案内しながらそんな話をしていた。



「ネロ様は私たちを見張っていた山賊を武器も使わずに倒してしまったのです」


「……クラリィ、あまりその話は周りにしない方がいいよ」


「どうしてですか?」


「師匠たちは自分たちの事を出来る範囲で隠してるみたいだから」


「多分だけど、私たちには分からない事情があるんだと――クラリィ?」


「私、この話をギルドマスターに聞かれるがままにしてしまいました……」



 そう言いながら肩を落とすクラリィを、ルークとフェミはどうにか慰めた。ギルドマスターに話を聞かれた、と言う時点でそれがクラリィのせいではないことを察したからだ。ルークとフェミもソラ達の話を聞かれることはよくあった。しかし頑なに話さない二人に、最近になってようやくギルドマスターは諦めるようになっていた。そんなところにネロに助けられたと言う少女が現れたら、適当な言葉を並べてそのぐらいのことをするだろうことは想像に難くなかった。最も、ギルドマスターが緊急時のためにギルドの仲間の情報を集めておこうとしているのは周知の事実であるため、ルークもフェミもそれを咎めるつもりは無かった。そして、そんなギルドマスターの性格はソラやミラも知っていることだった。

 やがて三人は木々の生い茂った森の中へと入る。



「……あの、私は武器も持っていませんけど大丈夫ですか?」


「怖がらなくてもこの辺りは魔物は出ないよ」


「どうしてですか?」


「ごめんね、それは私たちにも分からないの。ただ、師匠たちがこの辺りは魔物が出ないって言ってたから……。それに、私とルークは良くこの辺りを通るけど魔物になんて会ったことないから大丈夫だと思うよ」


「そうなのですね」


「随分簡単に信じるね。僕ならクラリィと同じ状況でここに連れてこられたら何か疑いそうだけど……」


「ネロ様が大丈夫と言うのなら、きっと大丈夫です」



 そんな言葉に、ルークとフェミは一瞬顔を見合わせてから思わず噴き出した。



「……私、何か変なことを言いました?」


「そんなことないよ。ただ、確かにそうだなと思って」


「私たちからしたら手が届かない存在だからね、師匠たちは」





「ソラ、どうかしたのかや?」



 湯気の立っているマグカップを片手に、ギルドで適当に見繕った本を読んでいたミラが何かに反応したソラに気が付いてそう問いかけた。

 その声に白狼の姿で丸くなって寝息を立てていたハシクもピクリと反応する。



「俺が集落を襲ってた山賊を殲滅したって話覚えてる?」


「言っておったな。なんじゃ、討ち漏らしか?」


「ソラに限ってそんな事は無いだろう。我らと違って記憶さえも読めるのだからな」


「いや、そう言う訳じゃなくてさ。ルークとフェミがその時に助けた女の子を連れて来てる」


「礼でも言いに来たのではないか?」


「妾たちが身を隠したがっているのは知っておるじゃろうし、そのぐらいではここまで案内はせんじゃろう」


「ハシク、悪いけど人の姿に戻っておいてくれる?」


「うむ、承知した」



 ハシクが人の姿に戻るのとほぼ同じタイミングで、奥の部屋で食器を洗っていたティアが戻って来る。



「ご主人様、どうかされたのですか?」


「実は――」



 ソラは先ほどミラとハシクにしたのと同じ説明をティアにもした。



「そうだったのですか……。それで、どうするのですか?」


「ルークとフェミが連れて来てるのなら何か事情があるんだろうし、取り敢えず話は聞いてみようと思う」


「それなら、私はお茶を淹れてきますね」


「そんなに急がなくていいよ。ここに来るまではもう少し掛かるだろうから」


「それならすぐに出せるように準備だけしておきます」


「ありがとう」


「待てティア、妾の分をもう一杯頼む」


「分かりました。すぐに淹れてきますね」


「いつもすまぬな」


「いえ、これが私の仕事ですから」



 そう言うと、ティアは再び奥の部屋へと戻っていった。



「ソラよ、コートを着ておいた方が良いのではないか?」


「そうだね。ここにいるせいで完全に気が抜けてたよ。ハシクは――」


「我はあの二人に顔も見られておる。が、人の街に出る予定もないし問題は無かろう」



 その言葉に頷くと、ソラとミラ、ティアはコートを羽織ってフードをかぶった。





 ミラがお代わりした飲み物を飲み終えた時、扉がノックされる。



「師匠、僕です。ルークです」


「開いてるよ」



 その返事を聞いてルークは扉を開けた。部屋の中には紅茶の香りが漂っている。それに一瞬気を取られながらも、クラリィは迷うことなくソラの方を向いて口を開いた。



「お久しぶりです、ネロ様」


「……え?」



 その言葉に疑問を抱いたのはソラだけでなく、ミラも同様だった。ここにはミラの作った認識阻害のコートを着た人間が三人いる。にも拘らず、クラリィは何の迷いもなくソラの方を向いてそう言った。



「えっと……なんで俺だって分かったの?」


「私は自分の恩人の顔を忘れたりしません」



 暫くの沈黙が降りる中、ミラは一人納得顔をしていた。『鑑定』でクラリィのスキルを見たからだ。



「これはまた珍妙な……」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

   名 前 : クラリィ

   種 族 : 人間

   年 齢 : 9歳

   スキル : 真実の瞳、属性(風、光)

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る