第02話 圧力

「ユーミア、エクトは今頃何をしているのかな?」


「さあ……。でも、ハーミスさんが付いていますから心配する必要はないと思いますよ。きっと、どこかで頑張っているはずです」


「そうだよね。私も頑張らないと――」



 ミィナとユーミアがそんな会話をしているのと同時刻、エクトはスキルを使ってサウストと同じようにとある領主を威圧していた。



「魔王の座はこの僕のものだ。邪魔をしない意思を示すのなら、魔王になった僕が命令をするまで自分の領から出てくるな。それをしないのならこの力を以ってして、その全てを破壊する」



 そう言い残し、エクトは離れた所へとスキルを使って移動した。

 移動先は先ほど警告した魔族たちが良く見渡せる小高い位置にある森の出入り繰りだった。エクト、そしてハーミス達は木々で体を隠しながらその様子を観察していた。



「どうやら撤退してくれるみたいですね」



 エクトはそう言って胸をなでおろした。



「これで魔王を目指せるほど大きな勢力の全てに圧力をかけたことになります。後は――」



 ハーミスはそれ以上言わなかったが、その場の全員が言わんとすることを理解出来ていた。

 エクトが圧力をかけてきたのはセントライル家のような一定以上の権力と勢力を持つ魔族だ。つまり、今は亡き魔王に仕えていた魔族は未だ野放しのままだ。そのほとんどは魔王のスキルによって強制的に従わされていたが、一部の例外もある。

 そして、その例外をエクトとハーミスは良く知っていた。



「ハーミスさんから見て、こちら側に勝算はあると思いますか?」


「十分過ぎるぐらいにあります。イサクトさん達は魔王と自分たちの好奇心を満たすために行動をしています。それ以上でも以下でもありません。エクト君のスキルがあったからこそ戦力を作り出すようなことをしていましたが、普段はそんなことはしません。今のエクト君の実力で、イサクトさん達に戦闘で劣ることはほぼないはずです。それと――」



 ハーミスは、エクトに見えるように赤いバツ印を付けた地図を広げた。



「イサクトさんが利用していた研究施設の場所は把握できています」


「こんなのいつの間に……」


「ソラさんが現れなかったら、人間領を支配した後にミィナ様を領主とした場所を作る予定だったんです。出来る限り、地理的に優位な場所に」


「……魔王様と敵対することも視野に入れていた、ということですか?」


「その通りです。その時のために、魔王様周辺の情報は出来る限り手に入れておいたのです。結果として、ミィナ様がソラさんと共に魔王様を倒してしまったのでほとんどは不要なものになったのですが」



 その言葉に、エクトは思わず苦笑いを浮かべる。



「ハーミスさんは、本当にミィナが大切なんですね」


「私が慕っていた方のたった一人の娘ですから。ミィナ様のご両親は、命を懸けてまで私たちを守ってくれた。これぐらいはしないと、私の気が済みません」


「それなら尚更、ミィナの傍に付いていた方がいいんじゃないですか?」


「前にも言いましたが、私がセントライル領の先代領主を殺したという事実に変わりはありません。無駄なイザコザを招くようなことをする必要はないでしょう。何より、次代魔王様の傍にいてもミィナ様のためにやれることはあります」



 ハーミスは少し間を空けてから、言葉を続けた。



「……ですが、状況が落ち着いたら一度セントライル領には様子を見に行ってみたいです。立派になったミィナ様も、そんなミィナ様が統治する領内もこの目で見ておきたいですから」


「是非そうしてあげてください。きっとミィナも喜びますよ。そのためにももっと頑張らないと……」



 そこまで言って、エクトはバランスを崩した。一日で何度も魔族の権力者が率いる大軍を退けるほどのものを作ったのだ。その疲労は並大抵のものではない。

 よろめくエクトを支えたハーミスは、優しく声を掛ける。



「少し日数をかけて休みましょう。このやり方はエクトさんの力があってこそです。倒れてしまっては全てが破綻してしまいます」


「すみま……せん。少……しだけ休……ませて……もらいま――」



 エクトはそのまま意識を手放し、寝息を立て始めた。

 ハーミスは部下に指示を出す。簡易な物ではあるが、テントなどの休める場所を手早く設置してエクトを休ませた。

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