第02話 脱出
「その中にある食料が尽きたら、ソラさんたちの所へ向かってください!」
「待って、ユーミア――」
そう言って手を伸ばした途端底蓋は閉じられ、その向こう側からは大きな爆発音と振動が伝わって来た。
それに思わず身を震わせ、そんな自分に思わず嫌気がさす。また助けてもらった。また何もできなかった。そんな思いがミィナの頭をぐるぐると回る。今出て行っても、迷惑にしかならない。だからミィナは行動しなかった。しかし、それが本心なのか、恐怖心で行きたくないだけなのかは自分でも分からない。
その後も外では何かの音が聞こえてきた。
そんな中、ミィナは周りが見えるようになってきた。
「これは……明かり?」
それは中に入ったばかりの時は気が付けなかったほどの小さな明かりだった。
長方形の空間の壁が、鈍く弱い光を放っている。
「こんな場所があるなんて、教えてもらってない……」
不満げにそう呟いたが、それは誰の耳にも届かない。
それから少しして、上から人間の言葉が聞こえてきた。それによって、自分の捜索が始まっている事と、最初にユーミアが食料が尽きるまでと言った意図が分かった。
要は、辺りが落ち着くまで隠れていろと言う事だ。
そうしていれば、ミィナだけは助かるかもしれない。
(こんなのイヤだ……)
純粋に、そう思った。
また自分だけが助かって、周りから大切なものが無くなってしまう。
それでも、今のミィナにはやはり何も出来ない。
だから頼ることに決めた。
今まで、自ら誰かに頼ることが嫌だった。ずっと自分が助けられてきて、その逆が無かったから。だから、たとえ小さな事であっても自分の行動が誰かのためになった時には恩返しが出来たようで嬉しかった。
それでも、ユーミアを失う事を考えれば迷うことは無い。
「ユーミア、待ってて……」
それから、ミィナはその空間に貯蔵されていた美味しくない食料を少しずつ食べていった。出来るだけ時間をかけて、ゆっくりと噛んだ。
明かりは壁から放たれる鈍く弱い光だけ。だから今が朝なのか昼なのか夜なのかは全く分からない。そんな場所で、最小限の食事と睡眠を繰り返した。
そして食料が底をつきかけた頃、残り少ないそれらを小さな袋に入れて立ち上がった。
恐る恐る、ユーミアが閉じた底蓋を内側から半分だけ開いた。辺りを見渡すと、太陽の日差しが差し込んでいた。辺りに気配のようなものは何もない。
ミィナは外へと出ると、半壊した住処の床を見つめてソラが指した方向を思い出す。
「よしっ!」
自分を奮い立たせるようにそう呟いてから、ミィナは目的の方向へ向かって少しの食料と水の入ったマジックバッグを手に足早に進み始めた。
これはミィナが生まれて初めて、一人で歩く危険な道だった。
☆
ミィナが歩いている場所から少し離れた所。数十人の人間は火も焚かずに、ただ静かに野宿をしていた。
その場所へと、一人の人間が報告へとやってくる。
「魔族の片割れを発見しました!」
その報告に、他の者は騒めき立つ。
およそ十日間、周囲を探索し続けて発見できなかったからだ。にも拘らず、報告に来たのは破壊された住処を監視していた人間だった。
リーダー格らしき人間が、報告をした人間へと問いかける。
「どこで見つけたんだ?」
「件の住処です。どうやら地下に空間があったらしく、そこに潜伏していた模様です」
感知スキルに長けた人間が酷く驚いた顔で、口を開く。
「そんな……。あの辺りは徹底的に調べ上げたのにどうして――」
「一応中を確認してきましたが、理由は分かりませんでした。一見した限りでは特にこれと言った特徴は無く、空間があった場所も地上から一メートルも離れていませんでした」
その報告を、「その話は後だ」とリーダー格の男が遮った。
「その魔族の所持スキルは何だ?」
「それが……『死の霧』だそうです」
その名前に、人間たちは生唾を飲み込んだ。聞いたことのないスキルだが、名前からして即死効果があるという予想が簡単に浮かんだからだ。
それでも、発見された以上殺害、もしくは拘束しなければならない。
「今はどこにいる?」
「どこかへ向かって徒歩で移動しています。住処を出てから迷いなく進んでいるため、他の住処か仲間のいる場所へと向かっている可能性が高いかと……」
リーダー格の人間は、少しの間腕を組んで考える素振りを見せてから再び口を開いた。
「その魔族は感知スキルは持っていないのか?」
「はい。先程申し上げた『死の霧』と言うスキルしか確認できませんでした」
報告を受けた人間は「そうか」と小さく呟いてから、再び口を開く。
「ここでいる全員で追跡をする。先導するのは潜伏スキルに自信のある奴だ。仮に仲間の元へ辿り着いた場合には移動系のスキルを持った人間に王都へ報告に走らせる。出来れば、他の者で攻撃を仕掛けて力量を確認してからその情報も共に報告したい。報告の担当者は出来るだけ標的から離れ、いつでも王都へ走れるように構えておけ! 戦闘員はいつ敵に襲われても対応できるように身構えておけ! 報告に走る人間は最優先で死守だ!」
そんな言葉と共に、人間たちは行動を開始した。
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