第二章 再開

第01話 発見

 それは完全に辺りから太陽の光が消え去り、ほとんどの生き物が眠りについている時間だった。

 ユーミアの使い魔に反応があった。移動する速度と方法、そして人数からしても明らかにソラ達ではない。そして――。



「――っ!」



 一匹の使い魔が殺された。

 送られてきていた音波の最後は断末魔のような雑音になり、ユーミアの顔をしかめさせる。

 彼らは一様にユーミアたちのいる場所へと真っすぐ向かってきていた。時間的余裕はほとんどない。

 ユーミアは隣で寝息を立てているミィナを抱え上げると、床のとある場所を勢いよく掌で叩いた。すると近くの底蓋が持ち上がり、地下の空間が口を開ける。

 そこへ勢いよくミィナを放り込む。その衝撃で、ミィナは眠気と体をぶつけた痛みを忘れて唖然とする。



「その中にある食料が尽きたら、ソラさんたちの所へ向かってください!」


「待って、ユーミア――」



 ミィナが矢継ぎ早なユーミアの話に何かを聞こうとしていたが、ユーミアはそれを聞く前に底蓋を勢いよく閉じた。

 それとほぼ同時に、何かがその場所へと飛んできた。二人が眠っていたその場所は砕け散る。ユーミアは運よく直撃を避け、ドアがあった場所から外へと勢いよく吹き飛ばされた。



「これは……。私程度では相手にならなさそうですね」



 ユーミアの視界に入っただけでも、感知できた数倍の人数がいた。天を覆う木々のせいで月の光はほとんど届いていなかったが、ユーミアにはくっきりと見えていた。

 ユーミアへと杖を構えているのが十人ほど、近接武器を構えているのがその倍。全員が姿を見せていない可能性を考慮すれば、もっといてもおかしくない。



(あれを使えば或いは……。いえ、ここで暴れるわけにはいきませんね)



 家のあった場所の地下にはミィナがいる。ミラが細工をしてくれているとは言っても、相手がそれを上回るようなことがあれば意味がない。ユーミアがするべきは、出来るだけここから意識を逸らすことである。

 そう思ってユーミアが移動しようとした瞬間だった。



「放てっ!」



 誰かの力強い指示が辺りに木霊した。

 ユーミアが先程までいた場所に四方八方から火属性の魔法が着弾し、土ぼこりを巻き上げながら周囲に強い爆風をもたらした。

 ユーミアはその風を利用して一気に翼で飛び立つが――。



「いつの間に――っ!」



 ユーミアのすぐ傍には、剣を振り上げた人間が立っていた。

 ユーミア本人の感知能力はさほど高くなく、使い魔を使うことによって大きな効果をもたらしていた。だから、使い魔で気が付けない隠密スキルに長けた者がいれば、ユーミアが気が付けるはずもない。

 躊躇いなく振り下ろされる剣に対して、ユーミアは鉤爪の様に伸ばした爪でガードする。五つの爪の内四本は切り裂かれ、残りの一本がどうにかユーミアの身を守った。しかし、ユーミアの体は振り下ろされた剣の勢いのせいで後方へと勢いよく飛ばされてしまう。



「放てっ!」



 二度目の指示。

 今度は吹き飛ばされているユーミアを目掛けて雷が襲ってきた。その速さはユーミアが避けられるようなものではなかったが、指示が聞こえ始めた時点で地面をけって吹き飛ばされている勢いを加速させたことによってどうにか難を逃れた。

 木々に隠れながら逃げるのは不可能だと判断したユーミアは、次に地面に着地したタイミングで上空へと思い切り羽ばたいた。空を飛ぶことの叶わない人間相手ならば、上空へと逃げてしまえばいいと考えたのだ。

 しかし――。



「――っ!」



 その体は少し飛び上がった後に落下を開始した。

 落下する途中で、ユーミアの視界に自分の体から離れている片翼が入った。完全に飛び上がる少し前、人間が切り落としたのだ。

 右側の翼を失い、バランスの取れなくなったユーミアは酷く無防備だった。

 空も飛べない人間がユーミアへと飛びかかってくる。ユーミアはそれに両手の爪で抵抗しようとしたが、空中で全ての爪を切り落とされてしまい、そのまま空中で上から人間に抑えつけられた姿勢のまま地面へと落下した。



「かはっ――!」



 地面と正面衝突したことで、肺にある空気が勢いよく口から抜けた。

 その両手首と両足首、そして胴体を翼ごと強靭な縄で強く締め付けられる。

 意識がもうろうとする中、人間の声が小さく聞こえた。



「ダメです! 強力な呪術が施されていて、上書きすることが出来ません!」


「恐らく仲間の魔族による口止めのための呪術だ! 護衛を付けてそのまま運べ! 絶対にスキを与えるな!」


「分かりました!」



 そんな言葉と共に、ユーミアの体は何かに雑に乗せられた。頭と背中を打撲される痛みを薄く感じられる。

 遠くなる意識の中でユーミアは願った。

 ミィナが発見されない事を。





 運ばれていくユーミアを見送った人間は、ユーミアがいた住処を物色していた。



「これはマジックバッグか。それもこんな上等な……」


「こっちには火打石が……。この周辺でも、最初に魔族の目撃情報があった場所でも採集できるものではないはずです」


「何者かが手引きしていたのは間違いないな」



 一通り調べ終わってから、リーダー格らしき人間が声を挙げた。



「目撃された魔族は二体だ! 辺りを徹底的に探せ!」


「はい!」



 それから、その場所を離れ、一部の場所が近くに留まっていた。



「お前らはここから見張っていてくれ」


「なぜですか? あの場所には誰も――」


「片割れの魔族が戻ってくることを考えてだ。もし発見したら報告だけして手を出すな。仲間の元へ向かうかもしれないからな。そうすればネロとかいう人間の裏切り者の住処も暴き出せるかもしれん」



 部下の十人ほどの人間は、その言葉に頷いてから身を隠してミィナとユーミアの崩壊した住処とその周辺を交代で監視し始めた。

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