第09話 招集
三十日後、魔族が王都へと攻め込んでくる。
仮にこれに嘘偽りが無かった場合、事前に攻撃日時を教えた上で押しきれるという自信があるのだろう。そして、これで敗北するようなことがあれば人間の存続は絶望的になる。それを防ぐためにも、その日が来るまでに出来る限りの戦力を王都へと集結させなければならない。
だからギルドマスターはルーク達と共にギルドへと帰還し、依頼遂行のためにギルドを出ようとしているロートのメンバーを招集した。
粗方の説明を受け、クランリーダーであるウィスリムが口を開いた。
「つまり、僕たちに王都で魔族の相手をしろということですか?」
「そうだ」
「……ギルドマスター、一つ質問があります」
副リーダーであるベルの問いかけを、ギルドマスターは視線で促した。
「王国は裏側でネロさん――いえ、ソラさんやミラさん、ティアさんの住処を奪い、ギルドを思い通りに動かし、ルーク君達を殺そうとしていた。これは間違いのない事実なんですか?」
「あぁ、そうだ。国王から直に話を聞いたんだ。まず間違いない」
それに続いて、ランドンが歯切れ悪く口を開く。
「その……ギルドの孤児院の件もそうなんですか……?」
孤児院の件。
ネロがギルドへと現れる前に流行っていた、孤児院出身の冒険者はすぐに姿を消すという話だ。それはかつてルークとフェミが見下されていた原因であり、ギルドマスターがルークとフェミの二人と、ソラ達を引き合わした理由でもある。
「あぁ、間違いない。孤児院の生まれの者は正確な出生が分からず、親族が見つかることなんてほぼない。当然、突然いなくなっても心配する者は多くない。いたとしても、同じ孤児院出身の力のない少年少女だ。多少騒いだところで、何かを動かすことなんて出来ない」
その少年少女の一例がルークとフェミだった。孤児院出身だと馬鹿にされながらも、周りの目に屈することなく努力していた。しかし、ソラ達と出会うことが無ければそれが報われる事はなく、ギルドから姿を消すことになっていただろう。
ギルドマスターの言葉はさらに続く。
「王国、そしてデスペラードには高次元の呪術スキルを扱える者がいた。そいつらを使って孤児院出身者の冒険者を依頼遂行中に攫い、自分たちの都合のいい人形として育てていた。悪いのは知識が無い孤児院出身者じゃなく、ギルド内で暗躍していた王国側の人間に気が付けなかった俺達。それが真実だ。ネロ達がギルドへとこなければ、ルークとフェミも
ギルドマスターはそれ以上口に出さなかったが、その場にいた全員が理解出来た。
少しの間を置いてから、ウィスリムが口を開いた。
「それで、そのルーク達は今どこにいるんですか?」
「あいつらなら、依頼を遂行するためにもうここを出た。少し休ませるつもりだったんだが、どうにも言う事を聞かなくてな。始めに言った通り、王都でのネロの評判はあの様だ。何もしない事に――いや、何も出来ない事に耐えられなかったんだろうな」
「僕ら以外にその事実を知っている人はいるんですか?」
「いない。王都にいた冒険者でさえ、ほとんどがその噂を鵜呑みにしている。言い方は悪いが、俺には洗脳されているようにしか見えなかった。それほどまでに、王国は民衆を操る術に長けている。これに関しては流石としか言えんな。実際、あの民衆に囲まれていたらそうならない方が難しいだろうぜ」
苦笑いを浮かべながら、ギルドマスターはそう言った。
王国という国民にとっての絶対正義である集団を襲撃した人間。その裏側の事情を知らなければ、誰一人として王国に非があると気が付くことなど出来るはずがない。
「お前らなら言わなくても分かるとは思うが、この事実は絶対に公の元に晒すな。そんなことをして人々が混乱するようなことは、このタイミングでは絶対に避けなければならない」
ギルドマスターの表情に悔しさが滲み出ていたせいか、誰一人としてそれに反論しようとする者はいなかった。
一つ咳払いをしてから、ギルドマスターは再び口を開く。
「俺はお前ら全員に行け、と言っている訳じゃない。今回の相手は魔物じゃなく魔族だ。それも異様な体躯をした化け物と聞いている。正直、魔物相手に戦える程度の実力じゃ邪魔になるだけだ。ウィスリム、ベル。人選はお前らで頼む。この緊急事態だ、ギルドに戦力を残すことなんて考えなくていい。魔族相手に戦える見込みのある奴は全員連れていけ」
☆
ウィスリムとベルは早々に人選を終わらせ、それぞれが王都へと向かう準備に急いで取り掛かっていた。そんな中、ベルがランドンを呼び止めた。
「ランドン、あなたに一つお願いがあります。本来なら私がするべきなのでしょうが……」
思いもよらない言葉に、ランドンは首を傾げた。
「ルークさん達と一緒に依頼を受けるようにして欲しいのです。私が初めてあの人と――ミラ・ルーレイシルと対戦した際、授業料の代わりに一つ頼まれたのです。『もし妾たちがいなくなったら、ルークたちの事を頼む』と。年齢的にも、実力的にも、ランドンが最適なのです。この通り、お願いします」
そう言って頭を下げるベルに、ランドンは躊躇うことなく答えた。
「分かりました。ルーク達が帰ってきたら、一緒に依頼を受けてもらう様に頼んでみます」
あっさりと受け入れたランドンにベルは驚いた。過去にルーク達を馬鹿にしていたこともあり、渋られると思っていたからだ。
その様子から、ランドンはベルの考えを察した。
「今でもルークに負けた事には納得してませんし、油断さえしなければ俺の方が強いと思ってます。正直、性格的にも仲良くなれる気はしません。でも――」
少しの間を空けてから、ランドンはそっぽを向きながら答えた。
「あいつとは一度、ちゃんと話をしておきたかったんです。ベル先輩からの頼みごとを断る理由なんてありません」
ベルはそんなランドンに微笑みながら礼を言い、王都へと向かう準備をするためにその場を離れた。
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