第06話 群れの長
スフレアが馬小屋から人数分の馬を出していると、そこへカリアがやってきた。
「カリア様⁉ 何故こんな所に――」
「私に出来ることはありませんか? なんでもいいから何かお手伝いしたいのです!」
スフレアはソラのことを心配しての事だろうと察して、簡単な仕事をカリアに任せた。それは一国の姫がするような仕事ではない。それでもカリアは服が汚れることも
出発するために下準備を終わり、後は準備をしてる兵士達を呼びに行くだけとなった。
「カリア姫、後はこちらでやります。ありがとうございました」
「そうですか……。それでしたら私は他の所を手伝ってきます!」
「えっ、あの、カリアひ――」
スフレアが止める暇もなくカリアは走り去っていった。そんなカリアのためにも急がなければと思いながら、スフレアは準備を進めた。
それから数分後にはスフレアは数人を引き連れて王都を出た。
☆
翌日の昼前、数人の兵士を引き連れたスフレアは最後に分かれた集団と合流した。辺りには魔物の死骸が転がっており、血生臭い臭いが漂っている。
スフレアは馬から降り、一人の兵士に声を掛ける。
「大丈夫ですか?」
「はい。すぐに引き返してきた訓練兵がほとんどで、その者たちは全員ここに集まっています。怪我をしている者もいましたが、既に光魔法で回復させて今休ませているところです」
そう言われて、スフレアは集まっている馬車の数を数えた。そして、すぐに足りないのが2台だという事に気が付く。
「あと二組残っているのですか?」
「いえ、一組は魔物に馬車を壊され、後ろの班と合流して戦っていました。つい先程合流して魔物を殲滅したところです。残っているのは先頭の一組のみです」
それだけ聞くと、彼らに帰還を指示してスフレアたちはそのまま進行した。その日は夜まで進み続け、途中にあった川の近くで休息を取ることにした。
「スフレア副兵士長、これを見てください」
そう言われてそちらを見ると、焚火の後があった。それも比較的新しいもの。ここらにはそんなことが出来るような知性を持った魔物もいなければ、人がわざわざ通ろうとするような場所でもない。先にあるのは貴族の屋敷だった廃墟ぐらいである。
つまり――。
(ソラ達はここまでは来ていたのですね。途中にあった血の跡と魔物の死骸を見る限りどうにか倒して先に進んだようですね)
それを知って一つ息をつくスフレアだったが、それでも安心はできなかった。スフレアがここまでくる道中にも何度か数十匹単位の魔物と遭遇したのだ。魔物を殺すのが初めての人間には荷が重すぎる。それがスフレアの正直な感想だった。
出来るだけ高速で移動するために必要最低限の食事しか持ってきていなかったスフレア達は、数時間ごとに見張りを変えながら簡単な睡眠をとった。
☆
翌朝、スフレア達が動き出した時間にレシアは目を覚ました。御者台からは親し気に会話をするソラとティアの会話が聞こえて来ていたので、そちらに顔を出した。
「おはようございます」
「おはよう、レシア」
「おはようございます、レシアさん」
レシアが起きたことで、朝食の準備をしようとしたティアがソラに声を掛ける。
「ご主人様、朝食はどうしますか?」
「貰おうかな。寝るのはそれからにするよ」
そう言ってソラはティアを手伝うためにその場を後にした。レシアは自分も手伝うべく急いで身支度を整えてからソラとティアの元へ向かった。他の二人が起きてきたのは朝食が完成してからだった。
そうして5人で食事をとっている時だった。
「」ピクッ
「ご主人様?」
ソラの感知範囲に今まで出会ったものよりも一回りも二回りも大きな魔物が入って来る。それから感じ取れる気配は魔物のそれとは違い、どこか神聖な雰囲気すらあった。少しずつ近づいて来るにつれて、その背後に100はくだらないと思われる数の魔物を感知したソラは普通に戦えば勝てないことを察して消そうとしたが、その瞬間にピクリと彼らの動きが止まった。それからはそこに座り込み、ソラのいる方をじっと見つめていた。
(もしかしてこの距離でこっち見えてるのかな……)
一人で考え込んでいたソラがハッと我に返ると、皆がソラの顔の様子を窺っていた。
「あぁ、いや、何でもないよ」
そう誤魔化してはみたものの、ソラはそれからしばらく上の空だった。食器を片付け終わって荷台で横になっても寝ずにいた。感知範囲に得体のしれない魔物がいるのだからそれも無理のない事だった。それに何より――。
(そんな同じところでうろうろ動かれたら落ち着かない……。こっちに来いって事なのかな……)
念のため武器を腰から提げ、荷台から出る。
そんなソラに気が付いたティアが声を掛ける。
「ご主人様、どうしたのですか?」
「ちょっとトイレだよ」
それだけ言って焚火を囲って談笑をしている他の3人の死角に移動してから、スキルを使って茂みの中のその魔物の近くへと一瞬で移動した。
魔物がピクリと動いたため、ソラは自分にその魔物が気が付いたことを察せた。ソラは戦闘の意思がないことを伝えるために両手を挙げて少しずつ近づいた。もっとも、ソラはその状態でもスキルを使えるので対した意味はないのだが。
(魔物相手にこの意味が伝わるといいんだけど……)
そのまま茂みをかき分けていくと、雑草のない少し開けた空間に白銀の体毛を身に纏った狼がいた。
少しの間その神秘的な姿に目を奪われていたソラだったが、やがて我に返って口を開いた。
「えっと……僕らに何か御用でしょうか?」
(しまった……。人間の言葉なんて通じるはず――)
「お主に頼みがあるのだ」
(伝わった⁉ と言うか喋った⁉)
その男の老人の様な声色の言葉を聞いて驚きつつも、ソラはどうにか言葉を紡いだ。
「頼みというのは……」
「お主らの向かっている先の廃墟にある魔族を倒してほしい。そ奴の命令でお主ら人間を我の仲間たちが襲っていたのだ。お主が仲間たちを何十匹も
「呪い……とかですか?」
「……お主、なぜ我が呪いに掛けられていることを知っておる?」
カリア姫の時と同様、ソラは目の前の白狼を見た瞬間に何かしらの呪いに掛けられているであろうことは察していた。そして、今までの経験からしてその呪いが恐らく解けるであろうことも察していた。
「その呪いを解けば自分でどうにか出来るんですか?」
「あぁ、呪いが無ければあの程度の魔族どうってことはない。あ奴、我の仲間をかなりの数捕獲しておってな……」
そう言って白狼は宙を睨みつけた。魔族と言っても、この白狼の力をもってすれば大したことのない相手だった。だが、仲間を人質に取られたために素直に指示に従わざるを得なかった。その結果呪いを掛けられ、動きや力を制限された。その上で人間を襲うように命令されて次々と仲間を失い続けている。
そして、ソラの頭には一つの仮説が立っていた。白狼が仲間と呼ぶ存在。そしてこれまで自分が倒してきた狼の魔物。それは十中八九自分の村を襲った魔物だった。だが、ソラはそこから先は白狼に任せることにした。実際にその魔族に会った時、自分が何をするのか分からなかったから。
「呪いを解くのでじっとしていて下さい」
「う、うむ」
そう言って白狼に手を伸ばすと、触れやすいように白狼はひざを折った。ソラはその額に触れて、スキルを使って呪いを解いた。
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