第04話 報告

 その日、とある報告が全ての魔族の領主へと行き渡った。

 その情報の開示は翌日に指定されていたが、魔王であるエクトの指示でソラ達の元へは直接ハーミスがそれを伝えに来た。

 ソラ、ティア、ミラの三人を前に、ハーミスは一通りの説明を終える。

 全てを聞き終わって、最初に口を開いたのはミラだった。



「賢明な判断じゃな。あやつらの事じゃ。それだけの実力を見せたのなら、早々手を出してくることはあるまい」


「ミラさんにそう言って頂けると安心できます」


「じゃが、それも永遠に続くわけではない。人間の王は血統で決まると言っても、全ての王が同じ思考をする訳ではない」



 ライリス王国の現国王であるブライは、ルノウのソラ達に対する態度を間違いだと認識する人間だった。

 しかし、ミラが生きていた時代――魔族との戦争が大規模だった頃は、現在の勢力図とは異なっていた。今を生きる人間で例えるのなら、王の考え方がプレスチアよりもルノウに近かった、と言った具合だろうか。



「それは理解しています。魔族も同じようなものですから。先代魔王と現魔王は力で支配すると言う共通点はありますが、その目的も魔王としての振舞い方も全く異なります」


「そういえばそうでしたね。私とミラ様は先代の魔王様を存じ上げませんが、皆さんからお話を聞く限りエクトさんとかなり違うということは分かります。最も、まだ日が浅いせいもあってエクトさんの魔王としての評価は色々な意見があるようですけどね」


「それはしょうがないよ。すぐ傍に住処を構えた俺たちでさえ、警戒を解いてい貰うのにそれなりに時間がかかった訳だし」


「ソラさん達のお話はよく聞いています。お陰で中心街の治安がかなり良くなっているとか」


「…‥やっぱり、俺たちってセントライル領の外でも目立ってるんですか?」



 ソラ達は目立つという事に対して、あまり良い思い出が無かった。そのせいで目を付けられて、散々な目にあってきたからだ。ギルドにいた頃は、親しかったルーク達にまで迷惑を掛けてしまったほどだ。

 しかし、心配げな表情を浮かべるソラとは裏腹に、ハーミスの表情には笑みが浮かんでいた。



「目立つと言っても、私などのセントライル領出身者の間での話です。魔族は人間と違って一か所に勢力が集まっているわけではありません。人間側からそう見えなかったのは、先代の魔王様がその実力で無理やり纏め上げていたからです。良くも悪くも、異なる領地は浅い繋がりしかありません。今のところはそれほど広がりはしないでしょう。ただ、魔王様は領地同士の障壁を取り払おうとしています。その時もこのままであるという保証は出来ません」



 人間と言うだけでこの場所ではそれなりに目立つ。現状ではセントライル領の外にまで噂が広がるような事は無いが、そうなれば多少の騒ぎは避けられないだろう。



「勿論、私たちの方でも出来る限りのサポートはさせてもらいます。それでソラさん達が満足いかなければ、その時はご自身の正義に従って行動をしてください。その方が魔王様にとっても嬉しいと思います」


「エクトにとって?」


「魔王様は自身の力を使って世界を変えようとしていると同時に、自分が先代の魔王の様な存在にならないかと恐れています。だからこそ、部下である私たちの意見を積極的に聞いてくれています。それでも万が一、魔王様が暴走するような事があれば私たちに止めることは不可能です。しかし、ソラさんやミラさんならばあるいは――」


「要は魔王の意見に流されることのない、力のある存在が欲しい訳じゃな」


「その通りです。勿論、魔王様や私たちはそうならないように願っていますし、出来る限り努力します」



 先代の魔王が好き放題で来ていたのは、それを止められる者がいなかったから。そのやり方に反対する者はいたが、それを行動に移せば待っているのは死だ。

 だからエクトは思った。自分と同等以上の力を持ち、曲がらない強い意志を持つ者がいれば魔族を先代の魔王と同じ方向へと導く事は無い、と。



「そう言う事なら、俺たちはお言葉に甘えて好きなように生活させてもらいます。……っと、すみません、ずいぶんと長い話をさせてしまいました。ミィナの所には寄っていくんですよね?」


「えぇ、少し街の様子を見て回った後に行くつもりです」


「さっさと行くがよい。お主もそれなりに忙しい身なのじゃろう?」


「お気遣い、ありがとうございます。それではお言葉に甘えて」


「ミィナ様との時間、ゆっくりと楽しんできてくださいね」



 三人に見送られ、ハーミスは中心街へと向かって行った。

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