第13話 休暇
カリアと別れた後、ソラはティアと共に兵舎で報告書を作成しているスフレアの元へと向かっていた。
「私に何か用ですか?」
「暫く休みだと言うのは聞きましたが、いつまでかは聞いていなかったので」
ソラ達は王都へと戻った後、スフレアによって休暇を言いつけられた。そしてその意味を他の三人は分かっていたのだが、ソラは例のごとくそこら辺の事情に疎かった。
「訓練兵の卒業までの過程を簡単に説明すると、自分のスキルを確認して、それがない場合はそのまま鍛錬して、それがある場合はスキルをできる限り活かせるように鍛錬をします。ここまでで大体一年です。最後に魔物と実際に戦って、一体でも魔物を仕留めればそこで卒業となるのです」
「……僕がここに来たのって二か月ぐらい前だった気がするんですけど」
「それはルバルド兵士長の推薦で入ったからです。ソラは知らないかもしれませんけど、武器を握ってすぐにルバルド兵士長と戦ったソラの動きは明らかに初心者のモノではありませんでしたよ? 推薦の件は、それをしたのがルバルド兵士長だったのでかなり噂になっていたはずですが、他の方からも聞きませんでしたか?」
ソラはライムがそんなことを言っていた気がしたが、一か月以上前だったためにあまり正確に思い出せなかった。
「それなら何故休暇なんですか?」
「例の件でソラ達と同期の方達の中に魔物の数が多くてまともに魔物と戦えていない者もいるのです。その者たちは今、ソラ達が向かった場所とは別の場所で実地の訓練を受けているはずです」
ソラ達の班以外の訓練兵が王都に戻って数日後に再び訓練に出ると言う過密日程をしているのは、実のところソラ達の影響が大きかった。王都へと戻った訓練兵たちは、少なからずソラ達の心配をしていた。だが、ふたを開けてみれば自分たちが危険を感じて逃げ出したにも拘わらず、魔物と戦って勝利するどころか、そのまま前進していた。その事実は闘争心に火を灯すには十分すぎる火種だった。
「実は、卒業式というものを同期のメンバー全員が集まって行う決まりになっているのです。なので、ソラ達の休暇は他の方が実地の訓練を終えて王都へ戻ってくるまでの間、と言うことになります」
そう言った後にスフレアは思い出したように口を再び開いた。
「もしあなたが望むのなら村に戻るための馬車を寄与するとブライ陛下がおっしゃっていたのですが、どうしますか?」
「いえ、途中までは商人の方にお願いして乗せてもらうので大丈夫です。それに――」
「それに?」
「い、いえ、何でもないです」
それに、ハシクがいるから他の人と一緒に行動するのは遠慮したい。そんな言葉をソラは飲み込んだ。
ソラの様子を少し気にしつつも、スフレアは話を続ける。
「後、これもブライ陛下からなのですが――」
そう言いながら、ソラに重みのある袋を渡した。動かすと中からジャラリという音が聞こえる。
「えっと……これは?」
「お金です。もっと大金を渡すつもりだったらしいのですが、この間ソラから村ではお金を使わないと言う話をしたらその量になりました」
その後に、スフレアは「それでも多いのですけどね」と付け足した。
お金を使わないのを分かってるのに、なぜお金を渡したのだろう。そんなことを考えているソラの表情を察して、スフレアが説明を始める。
「ソラの村までは一日では付かないのでその間の食料をとのことです。恐らくそれだと余るので、後は自由に使って下さい。例えば……そうですね、マジックバッグなんていいかもしれません」
そんな説明を聞いたソラとティアは一礼をしてから部屋を出た。
部屋から少し離れたところで、ソラは言いにくそうに言葉を紡いだ。
「ティア、物の価値とか分かる? お金使ってこなかったから価値観がよく分からなくて……」
「はい、大体の物なら分かります。王都もおおまかにですけど、どこになにがあるかは分かるので案内も出来ると思います」
「じゃあ、一緒に街に来てくれる? 食材はまだ王都を出るまで時間があるからまだいいとして、マジックバックだけでも買っておこうかなと思ってさ。特に問題なければ今からでも出ようと思うんだけど……」
そんなソラの提案をティアが快諾したことによって、二人は街へと向かって歩き出した。
☆
途中でティアの視界に見知った人物が入った。
「ご主人様、あれって……」
「パリスとレシアだね。声は……かけない方がいいかな。なんか楽しそうだし。主にレシアが」
ソラとティアが見たのは、パリスと、パリスの右腕に抱き着いて二人で歩く仲睦まじい姿だった。パリスの方は時折レシアを放そうとしているが、ソラとティアは気にしなかった。
声を掛けずにそのまま素通りしようとしたが、レシアが気が付いて近づいてきた。
「こんにちは、ソラさん、ティア」
「やあソラ、ティア。こんなところで何をしているんだい?」
「ちょっと買い物をしにね。2人はデート?」
「や、やだ、ソラさんったら……デートなんて///」
「違う。断じて違う。息抜きに僕が散歩しようとここへ来るのにレシアが付いてきただけだ」
そう言ってからパリスは二人の目線がレシアが抱き着いている自分の腕に向いていることに気が付き、急いでレシアは引き剥がそうと試みた。
「お兄様、恥ずかしがらなくてもいいのです。私たちは両親も認める兄妹の壁を超えた関係なのですから……///」
「レシア、公衆の面前でそういうことは――ソラ、ティア、距離を取らないでくれ!」
「いや、えっと、僕はいいと思うよ? 応援してる」
「わ、私もご主人様の意見に同意します。誰に思いを寄せるかは人それぞれなので」
ソラとティアは視線をパリスから逸らしながらそう答えた。
レシアを引き離すのは無理だと判断したパリスは、一つため息を履いてから口を開いた。
「それで、お金はどうしたんだ? この間見た限りじゃ、大したものは買えないだろう?」
「それならブライ陛下のご厚意で――」
その言葉にパリスとレシアは納得した。2人ともブライ陛下とハリア王妃、そしてシュリアス王子がどれだけカリアのことを心配していたかを知ってる。だからソラに多少の優遇がされたぐらいでは驚く事は無い。
そんなソラの言葉を聞いて、思いついたようにパリスが提案をする。
「ソラ、僕らと一緒に行かないか? 案内も任せてくれ」
そんなパリスの言葉を普通に飲もうとしたソラの視界に、パリスの死角から首をブンブン振り、お願いしますと言った表情でアイコンタクトを送ってくるレシアが入った。
ソラはそれを見てすぐにパリスの提案を断った。
「いや、案内はティアに任せることになってるからいいよ。兄妹水入らずの時間を邪魔するほど僕も馬鹿じゃないし」
「お二人はお二人でお楽しみください」
「ソ、ソラ、ティア、ちょっと待っ――」
「お気遣いありがとうございます、ソラさん、ティア。では私たちはこれで」ニコッ
レシアに半ば強引に引きずられていくパリスを見送ってから、ソラとティアは再び歩き出した。
少し歩いてからティアが呟くように口を開いた。
「家族っていいものですね……」
そんなティアの言葉に、ソラはそうだねと返した。
嫌がりながらも抵抗せずについて行くパリスと、楽し気にそんなパリスを振り回すレシアの後ろ姿は、家族を失った事のあるソラと、既に
☆
その日の夜、ソラは約束通りハシクの元へと向かっていた。
「って訳だから後少し待って欲しいんだけど……」
「そのぐらいなら待つとしよう。それで、お主の故郷はどの方向にあるのだ? 人間に騒がれるのは我もあまり好きではないからな。ここから少し離れたところで待ち合わせたい」
そう言うハシクに、ソラは通る予定の道がある方向を教えた。
「ならばその道の途中で待っておく。お主が道をまっすぐ通れば我を感知できる場所にいるとしよう。もうここへは来なくてよい。お主も面倒だろうしな」
「助かるよ、ハシク」
「気にするな。元はと言えば我の暇つぶ――気まぐれだからな」
ハシクと待ち合わせ場所の確認を終えたソラは、兵舎へと戻っていった。
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