第二章 支援

第01話 帰還

 依頼からちょうど三日が経過したその日の夕方、ソラ達は報告をするためにギルドへと戻った。

 三人は建物に入るなり、ギルドマスターに急かされ奥の部屋へと押し込まれる。



「それで、どうだった?」


「俺達が捜索した限りでは、それらしきものは見つけられませんでした」


「そうか……」



 ため息交じりにそう言いながら、ギルドマスターは背もたれに自重を乗せた。



「ギルド内でもかなり不安の声が挙がってたからな。これで皆も安心するだろうよ」


「いいんですか? 俺たち三人の捜索をそこまで信用して」


「お前らが思っている以上に、お前らへの信頼は大きいんだよ。捜索にお前らを駆り出したって伝えただけで、大半の奴らは安心するぐらいには。流石にそれはまずいと思って叱ってやったがな」



 そう言いながら、ギルドマスターはガハハと笑う。

 それを横で聞いていた副ギルドマスターのヴィレッサは、眉間に手を当てて首を横に振った。



「笑い事じゃないですよ。そのせいでこの三年、面倒ごとに悩まされてたんですから」


「……あぁ、人が集まってきておると言う話じゃな」



 ミラのその言葉通り、今のギルドは非戦闘員の比率が三年前に比べて大幅に増えていた。実力者が王都に駆り出されたと言うのもあるが、一番の原因はネロ達に対する過度な信頼である。魔族側にあるスキルが三年で完成すると言う噂が流れると同時に、人々は王都に雪崩れ込んだ。その王都程までとはいかなくとも、ギルドも同じような状況だった。集まったのは主にネロの存在を知る冒険者の知り合いである。



「まあ、流石に王都よりも安全って事は無いだろうがな。それでも、本気でそう思っている奴らもいるんだぜ?」


「それは流石に……」


「馬鹿としか思えぬな」



 ソラとミラはそう答えたが、ギルドマスターの対面に座っている三人は本気でそう思っている人間の輪の内の一人である。

 そんな話を聞いたヴィレッサは、真剣な表情で口を開いた。



「それでも、王国の得た情報が正しければ安全地帯があるかどうかも怪しいですけどね」


「本当に魔族を創り出せるのなら、相手の戦力は頭をつぶさない限り無制限、ってことになるからな。こんな人のいるところに逃げ込むよりも、お前らみたいに人気のないところで暮らす方が正解なのかもしれんな。……っと、忘れるところだった」



 ギルドマスターはそう言うと、ずっしりとした重みのある布袋をソラ達に差し出した。



「今回の報酬だ。本当に魔族がいたらこの数十倍は上乗せするつもりだったんだ。だが、これだけ渡せば暫くお前らの顔を見ることもなさそうだな」


「それはどうじゃろうな」


「それは予想外の反応だ。何か金が必要な事でもあるのか?」


「少々物資が必要になってな。食料以外にも必要なものがあるのじゃよ。それでも、これだけの量は過剰な気がするのじゃがな」



 ミラは報酬の通貨を確認しながらそう言った。



「多いっつっても、お前らの実力を考えれば大したことない気がするがな。ま、俺には関係ない話だが」



 ギルドマスターはそれを言い終わると同時に腰を上げ、ヴィレッサもそれに続いた。



「悪かったな、こんな所に呼び出して」


「別に気にしなくても大丈夫です。俺たちも事の重大さは分かっているつもりですから」


「そう言って貰えると助かる」



 それだけ言葉を交わし、ソラ達はその場を後にした。





 ティアを頼りにミィナ達に届けるモノと、自分たちの食料を買っていつも通りマジックバッグへと詰め込む。それを終えた三人が住処へと戻ると、家の中から美味しそうな匂いが風に乗って流れて来ていた。

 扉を開けると同時に、三人に気が付いたルークが驚き顔でポツリと呟やく。



「本当にクラリィの言う通りになった……」



 それから少し遅れて、奥で調理をしていたフェミとクラリィもソラ達が戻ってきたことに気が付く。



「お邪魔してます、師匠」


「帰ってきてすぐで申し訳ないんですけど、ティアさん、味見をして頂けませんか?」


「分かりました。ちょっと待っててください」



 ティアは来ていたコートを壁に掛けると、調理台の方へ向かった。

 ソラとミラはティアと同じくコートを掛け、ルークとハシクのいる大きめの机の方へと向かった。



「さっきクラリィがどうの、って言ってたけど何かあったの?」


「僕たちは昨日から居たんですけど、師匠たちは今日帰って来るってっクラリィが予言してたんです。ハシクさんも分からないって言ってたはずなんですけど……」


「我は何も聞いておらんかったからな」


「ちょっと予想外の事が起こってさ」


「それって、魔族を捜索するって依頼ですよね?」



 ルークは確信しているかのようにそう問いかけた。



「……その話って結構出回ってたの?」


「事が事なだけに、すぐに広がってました。それを聞いたギルドマスターが師匠たちに依頼をすると決めた話が広がるのもかなり早かったです」


「俺たちに限定されてたのは初耳なんだけど」



 そう答えるソラに、机に料理を並べながらクラリィが声を掛ける。



「それだけ危険かもしれない依頼ってことだと思います。それでも、ネロ様たちが依頼を受けたのは意外でしたけどね。何か思う所があったんですか?」


「思う所と言うかなんというか……」


「ギルドマスターの奴、ソラが断ればルーク達に依頼を出すと言いだしてな。流石、荒くれ者が多い冒険者を纏め上げているだけの事はある訳じゃ。三年でソラの扱い方を心得ておる」


「その言い方されるとなんか納得したくないんだけど。そう言えば、クラリィは何で俺たちが今日戻って来るって分かったの?」


「ネロ様たちなら皆を安心させるために三日は探したことにするんじゃないかな、と思っただけです」


「その言い方じゃと、妾たちが依頼を一日で終わらせていたところまでお見通しのようじゃな」


「ネロ様のスキルを知っていたら、誰でもそう考えますよ」



 クラリィはそう言い終わるのとほぼ同時にフェミ、ティアと共に席へと着いた。

 その後、七人は様々な話をしながら食事を楽しんだ。

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