第02話 現在

 翌日の太陽は頂上から降り始めた頃、ソラ達の住居には金属同士がぶつかる音が響いていた。



「それで、魔族はいたんですか?」



 ルークはクラリィと共にソラに攻撃を仕掛けながらそう問いかけた。



「いなかったよ。人間もいなかったから、ただの見間違えだったんだと思う」



 そう言いながらソラは一度弾いたルークの仕込み武器を再度弾く。

 クラリィが一度弾かれた仕込み武器を風魔法でソラへ向かって飛ばしたのだ。



「随分と大きな空騒ぎをしてしまいましたね。見つけた方が手練れだったので、仕方なかったとは思いますけど」


「手練れ?」


「デスペラードの一員だったらしいんです。私たちも人伝いに聞いただけなんですけどね」



 首を傾げるソラに、武器を振るいながらルークが説明する。



「昔、師匠たちが戦ったクラン憶えてますか?」


「あぁ、確かギルドマスターが所属してたって言う。……ロートだっけ?」


「それで合ってます。デスペラードって言うのは、そのロートと並んで二大勢力と言われているクランです」


「要は見間違いするような人間じゃなかったってこと?」


「そういうことです」



 ルークはそう言いながら、クラリィの作り出した風に乗って斜め後方へと高く飛び上がった。それと同時にルークで身を隠していたクラリィが光属性と風属性の複合魔法を放つが、途中で消え去りソラより後ろにその攻撃が及ぶ事は無かった。

 それを見たルークは着地すると同時にあきらめの表情を浮かべながら後ろへと倒れこみ、クラリィはその場にへたり込んだ。



「さすがはネロ様です。私程度の隠密スキルでは驚かせることすら出来ませんね」


「時間がたっても師匠に近づけた感覚が全くない。……僕ら、成長できてるのか不安になるよね」


「成長は十分できておるじゃろう。ギルドマスターも随分と高く評価しておったようじゃしな」



 ミラはソラ達の元へ近づきながらそう言った。



「あれ、フェミは?」



 ソラにそう聞かれて、ミラは視線をある方向へと向けた。その先ではフェミが段差に座ってぐったりとしていた。



「休憩中じゃよ。肉体的な疲労はあまりなくとも、精神的な疲労はあるからな。集中力のいる錬金術ではなおさらじゃ。それでさっきの話じゃが、それほどの手練れが魔族を発見したのなら妾たちに依頼をし直す必要は無かった気がするのじゃが。いつ現れるかも分からない妾たちを頼るほどのんびりした状況でもなかったじゃろ」


「これも私たちが人伝いに聞いた話なんですけど、副ギルドマスターのビトレイさんが提案したそうなんです」


「……あれ、副ギルドマスターってヴィレッサって名前の女の人じゃなかったけ?」


「妾もそう認識しておるのじゃが……」


「副ギルドマスターは二人います。ネロ様たちは知らなくても仕方ないかもしれませんけどね。私たちもあまり姿を目にすることはありませんから。裏方の仕事に徹しているようです」


「ビトレイさんは『デスペラードを編成した』という功績をかわれて副ギルドマスターの地位に付いたらしいです。メンバーの一員と言う訳ではなく、人を集めただけみたいですけど」



 それを聞いて、ミラは納得げに頷いた。



「なるほどな、トップクラスのクラン創設者ともなれば別におかしな話ではないか。なぜそんな人脈を持っておったのかは不思議じゃが、妾たちに関係ない話じゃな。察するに妾たちの所に魔族捜索の依頼を回したのはメンバーに危険なことをさせたくないという想いから、と言ったところじゃろうな」


「いや、それは流石にない……とは言い切れないか。俺は会ったことすら無い訳だし。ルークとクラリィはどう思う?」


「すみません、僕らも接する機会が多いと言う訳でもないので何とも……」


「私もルークさんと同じです」


「それもそうか。それで、まだ続きやる? 夕食まで時間はあるけど……」


「勿論です! 僕の体力はこの程度では尽きませんから」


「私もお願いします」



 二人はそう言うと、やる気満々といった様子で武器を手に立ち上がった。



「では妾の方も休憩は終わりとするかの」



 そう言うと、ミラはその場を離れてフェミの方へと向かって行った。

 それから日が暮れるまでの間、ルーク、フェミ、クラリィの三人は技術を上げるために全力で取り組んだ。





 月明かりが差し込むその部屋で、ベウロはビトレイに問いかけた。



「それで、そのネロって人たちはどっちだったの?」


「黒です。少なくとも、魔族を庇っているのは間違いありませんね」


「へぇ。じゃあ、今その魔族は彼らの所に?」


「それは分かりません。ただ、住み着いていた場所は既に離れているようです。どうやったかは知りませんが、形跡も無くなっているそうですよ。そちらの捜索は王国の方に任せることにしているので私たちが気にする必要は無いのですけどね。今のギルドの状況では、身動きがとりにくいですから」


「じゃあ殺していいの?」


「構いませんよ。ですが、少し策があります」


「え~、面倒くさいよぉ」


「彼らにロートを圧倒するほどの力があるのは紛れもない事実です。いくらあなた達が暗殺術に長けているとは言っても、リスクが高すぎます」


「じゃあどうするのさ?」


「人質を取ります。彼らには弟子と呼ばれる存在がいますから。そちらならあなた方でも十分制圧できると断言できます。厳しければ殺しても構いません。一人だけでも残してくれさえくれれば問題はありません」


「へぇ、殺してもいいんだぁ」



 そう言ったベウロの顔には不気味な笑みを浮かんでいた。

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