第03話 生活

 ソラ達が去った後、ミィナとユーミアは教わった知識を共有しようと外へ出ていた。



「あっ、そこにある!」



 抱えているミィナのその声に応じ、ユーミアはミィナが指さす方向へと真っ直ぐ飛んでいった。

 ユーミアに地面におろしてもらうと同時に、ミィナは先ほど見つけた植物の方向へと駆けた。



「これが食べられるやつで、確かこれの近くには……」



 ミィナがその付近を捜索すると、すぐに目的のものは見つかった。



「これも食べられるやつ。それの近くに生えてる事が多いんだって。それで、これはさっき見つけた毒のあるのと似てるんだけど、その見分け方は――」



 ミィナは楽し気にユーミアに説明をしていった。これまで助けてもらうことがほとんどだったミィナには、ユーミアに何かを教えることが出来ると言うのはどうしようもなく嬉しかった。

 ユーミアもそれを察し、微笑みながらミィナの説明を聞いていた。



「本当によく覚えていますね、ミィナ様は。私なんて全ては覚えられそうにないです」


「ユーミアが忘れても大丈夫だよ。その時は私が教えてあげるから!」



 任せろとでも言うように、ミィナは胸を張る。



「その時は頼らせて頂きます」


「うんっ!」



 そう答えるミィナの顔には、満面の笑みが浮かんでいた。



「さて、今度は私の番ですね。とは言っても、こちらは私が担当することにはなると思いますけど」


「そうだね、私はユーミアみたいに速く移動できないから……。でも、知ってたら私も手伝えることがあるかもしれないし!」


「ミィナ様の言う通りです。では、行きましょうか」



 ユーミアはそう言うと、ミィナを抱きかかえて拠点へと戻っていった。





 ミラに作ってもらった家の前まで来ると、ユーミアは高度を下げて



「ここから歩きましょうか。そうした方が道を覚えやすいでしょうし」


「うん」



 ユーミアは昨日ソラと共に飛んだ道を思い出しながら、ミィナと一緒に進んでいった。

 それから少しして、ユーミアが口を開く。



「これは思った以上に大変ですね」



 ミィナとユーミアがいる場所周辺に自生している植物は背丈が人の身長よりも高い。先程まではユーミアが翼を使って移動していたが、歩いて移動となると想像以上に労力が必要だった。植物をかき分けながら進むのはかなりの手間である。



「方向だけでも分かればどうにかはなるんだけど……」


「それなら大丈夫ですよ。私の使い魔を使えば簡単な話です」



 ユーミアがそう言うと、一匹の蝙蝠型の魔物が二人の前へとやってくる。



「体が小さいので物理的な支援は無理ですけど、方向なら教えることが出来ます」



 ユーミアが合図を送ると、ユーミアの使い魔は一度飛び上がって仲間と連絡を取り合った。その後すぐに降りてきて、川のある方向でバタバタと翼を動かした。



「今向かっている方向で合っているみたいですね。この周辺に留まらせているので、ミィナ様が迷子になっても道案内はしてくれます」


「……ずっとそんなことをして、ユーミアは疲れないの?」



 心配げに首を傾げるミィナに、ユーミアは首を横に振って見せた。



「大丈夫ですよ。使い魔というのは動きの全てを命令しているわけではありませんから。命令が無ければ自立的に行動してくれます」


「そうなんだ……」



 ミィナはそう言って胸をなでおろすと、ミィナの使い魔の方を向いて「ありがとう」と微笑みながら呟いた。すると、使い魔はミィナの頭上をくるくると嬉しそうに飛び回った。

 それから暫く歩き進めると、ようやく目的の場所へと辿り着いた。目の前にはひざ下程の深さしかない川があり、周辺に生息する生物が何匹か水を飲んでいた。ミィナが川へと近づくと、それらは一斉に逃げ出した。



「あっ……。そんなつもりじゃなかったのに……」



 ユーミアは迷惑をかけてしまったような気がして落ち込むミィナに声をかける。



「別に気にしなくても大丈夫ですよ。その内また戻ってきます」



 そう言いながら、ソラ達からもらったマジックバッグを川の中へと入れ込み、水を入れていった。



「それ、本当に便利だよね」


「そうですね。身体的な能力の違う私たち魔族と戦うために、人間が努力した結果なんだと思います」


「じゃあ、魔族はこんな道具持ってないの?」


「どうでしょうか……? 少なくとも、セントライル家にはなかったと思います。ですが、魔王様は持っていたかもしれません。かつて、人間と戦った時の戦利品も残っているでしょうし」



 そんなユーミアの説明に相槌を打ちながら、ミィナは次々に水を吸い込んでいくマジックバッグを見つめていた。

 ユーミアは水がそれ以上入りきらなくなったのを確認してから、マジックバッグを手元に戻してその口を締めた。重さが一切変化しないことに違和感を感じつつ、ユーミアはそれを懐へとしまった。



「それでは戻りましょうか」


「戻ったらご飯作らないとね」


「そうですね。火が使えないので大したものは出来ないかもしれませんが」



 そんな会話をしながら、二人は来た道を戻っていった。





 二人がなれない生活に身を置いて数日が経った頃、家の傍に配置していたユーミアの使い魔が一つの気配を察知した。



「ミィナ様、扉を開けてもらえますか?」


「誰か来たの?」


「ソラさんです」



 ミィナが扉を開けると、ユーミアの言う通りソラの姿があった。

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