第05話 受注

 ソラ、ルーク、ティアの三人は依頼を受けるべくギルドへと向かっていた。ソラとティアはミラが作った認識阻害のコートを着ているが、ルークは仕込み武器を服の下に忍ばせていること以外は普段と変わらない服装だ。

 ソラとティアは通行料を、ルークはギルドカードを門番に見せて街へと入るなり、依頼を受けるべくギルドの建物へと足を運んだ。



「師匠、これなんてどうですか? ここからあまり距離も無いですし、丁度いいと思います」



 ルークがそう言って指したのは中型の魔物討伐の依頼だ。あまり距離は無いが、周囲に人の住んでいない地域の比較的緊急度の低いものだった。短期間で達成できそうでありながら、他の魔物の出現が多数あるために依頼料は高めに設定されており、追加の討伐報酬も見込めるものだ。



「……いや、こっちにしておこう」



 そういってソラがとったのはルークが持ってきたものよりも距離があり、目的地周辺には小さな集落しかない小型の魔物討伐の依頼だ。依頼主はその集落の長である。依頼料は低めだが、大金を求めているわけではないソラにとっては十分な額だった。

 そんな様子を見て、ルークは数日前に聞いたティアの話を思い出した。



「ですがご主人様、その場所だと時間がかかりすぎるのではないですか? 歩くとなると往復で二週間はかかると思いますけど……」


「ごめん、全く考えてなかった。……ルーク、口は堅い方?」


「堅いかどうかは分かりませんけど、師匠が話すなと言うのなら誰にも話しませんよ?」



 その言葉に、なるほどと言った具合に頷いているティアとは異なり、ルークは首を傾げていた。



「気にしなくていいよ、後で分かることだから。とにかくこれ受けようと思うんだけど、どう?」


「僕は別に構いません」


「私もいいと思います」



 二人の了承が取れたソラは依頼の内容が書かれた紙を掲示板から外し、ルークに渡して受付へと依頼の受注を確認しに向かった。それが通り、建物を出ようとしたところで背後から声を掛けられる。



「おいルーク、聞いたぞ。また簡単な依頼を受けたんだってな」


「ランドン……」


「そんなんで俺たちに勝てる訳ないだろ? そいつらの口車に乗せられたってところだろうが、このまま戦ったって俺にぼこぼこにされるのが落ちだぜ?」



 そんな挑発じみた言葉に反抗しようとルークが前に出ようとしたのをソラが止める。



「一旦落ち着いて、ルーク」


「でも師匠――」


「あまり人の言葉を気にしすぎない方がいい。考え方なんて人によって違うし、方向が違えば理解し合うのは難しい。それが合わない人に無理してまで付き合う必要はないと思うよ」



 どこか説得力のあるその言葉に、ルークはどうにか感情を抑え込んだ。



「……分かりました」



 ルークはそう返事をすると、ランドンを無視して出口の方へと向かった。



「おい、逃げ――」



 ルークを追従しようとしたランドンを、少し離れたところで見ていたウィスリムが止める。


「ランドン、止めておけ」


「リーダー?」


「あぁいう人間は他人の意見に左右されたりしない。挑発するだけ無駄だ」



 そうはいいつつも、ウィスリムは内心イラついていた。ソラのその姿が、かつてのクランリーダーであるギルドマスターと重なったからだ。自分の目的を持ち、他人に左右されず、それでいて周りの人間が進んでついて行くような人間。それがウィスリムの知るギルドマスターだった。そして今現在、クランリーダーとなったウィスリムはその理想からは程遠い。だから、その面影があるソラを見て苛立ちを抑えることが出来なかった。





「落ち着いた?」


「はい、お陰様で。……すみません、ご迷惑をお掛けして」


「別にいいよ。誰にだって何をしても譲りたくないものの一つや二つあるものだからさ」


「師匠もあるんですか?」


「……あるよ。ルークと違って一々ムキになったりはしないけど」


「耳が痛いです……」



 そんな会話をしつつ、ソラ達は人気のない森の中へと進んでいった。



「ご主人様、この辺りでいいんじゃないですか?」


「そうだね。じゃあルーク、ちょっと目を瞑ってて」


「はい、わかりました」



 首を傾げつつも、ルークはそう答えると目を瞑った。それに合わせてティアも目を瞑る。

 それを確認すると、ソラはスキルを連続で発動させた。





「もういいよ」



 数秒後にそう言われてルークとティアが目を開けると、そこは目を瞑る前と同じく森の中だった。だが、すぐに違和感を感じる。同じ森の中でもつい先ほどと辺りの木々の位置が異なっていた。

 ルークはそんな違和感を不思議に思いつつ、辺りを見渡してあることに気が付く。



「師匠、あれって……」


「僕らが受けた依頼を出した集落だよ」



 ルークは少しの間呆気に取られていたが、すぐに我に返った。そしてこれまでのようにソラには何も聞かなかった。ただ自分の師の凄さをこれまでに増して感じ、どこか誇らしかった。



「ご主人様、大丈夫ですか?」


「これぐらいなら大したことないよ。二人は大丈夫?」


「私は問題ありません」


「僕も大丈夫です」


「じゃあ行こうか」



 ルークはそう言って歩き出すソラの後ろを追いかける。ルークはソラと模擬戦を行いつつも、本気でいつか勝てるようになりたいと思っていた。だが、前を歩くソラの後ろ姿を見て自分が追いつくにはまだ遠すぎるという事を実感せずにはいられなかった。それでもいつか追いつきたい。そんな思いを胸に、ルークは歩みを進める。





 男は焦り気味に長老に詰め寄せる。



「長老、あんな依頼で腕の立つ冒険者なんて来るはずが――」


「儂らに払える金額はあれで精一杯じゃ。そもそもこれで人が来るかも分からぬ。来たところで儂らが騙すようなことをしていることに違いはない。文句を言う権利など儂らには無いのじゃよ……」


「それは――」



 女、子供、食料、金。それらを強奪されてしまっている彼らにはそれが精一杯だった。そしてそれは、集落の者全員が知っていた。だからその場にいた他の者もそれ以上は何も言わない。ただただ、自分たちの力のなさを悔やむことしかできなかった。

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