第11話 疑惑
ソラ達が外へと何事もなかったかのように出て行った後、その場所は突如として騒めき立った。
ある者は目の前の三人分の死体に
そんな中、ギルドマスターはルノウへと近づいた。
「ルノウ大臣、あんたはネロと話をしに来た、そう俺に言ったよな? 強引な真似もしないとも」
「あれは嘘です」
悪びれた様子を一切見せず、そう答えたルノウにギルドマスターは一瞬呆気にとられた。
「魔族の大軍を一瞬で消し去ってしまえるような力を、誰の管理下にもない一個人が所持している。我々の行動の大義はそれだけで十分なんですよ」
ギルドマスターはその言い様に一瞬感情的になりかけたが、どうにか抑え込んだ。
「だが、そのお陰で俺たちは助かった。あんたら国が管理していたらネロはここにはいなかったし、俺たちがギルドが管理していたらこんな安全地帯に置いておかない。あいつがどこにも所属せず、自分の意思で、自分の力を扱える状態にあったから助かったんだ。あいつは俺たちを――ギルドを救った。その事実に変わりはない」
その言葉に、周囲で聞いていた者たちも頷いた。
何がどうなろうと、ネロという人物が魔族の襲撃時に現れ、一人でそれらを消し去ったことに変わりはない。
「ギルドマスターであるあなたの言い分は分かる。しかし、例えそうだったとして、それがどうやったら我々の行動を否定することになるのですかな?」
「……あんた、何を言って――」
「あなたが自分の口で、先程おっしゃったではないですか。彼がどこにも所属していない、と。そうであるなら、あなた方ギルドが彼を守る理由はないはずですがね。例え、私たち王国が彼を危険分子として排除することになったとしても」
「……」
ギルドマスターは何も言い返せなかった。
確かにその通りだと思ってしまったから。
ネロはどことも繋がっていない。客観的に見ればネロはギルドに所属している訳ではないため、ギルドマスターという立場があった所でどうこうできる相手ではない。それはこれまでもそうだったし、これからもそうだろう。
「ですが、あの様子だと正面から挑むのは得策ではなさそうですね」
「……何をするつもりだ?」
ギルドマスターの睨むような視線と共に送られた言葉に、ルノウは涼しげな表情で答える。
「さあ。一先ず、王国に現状をありのままを説明するのが先決ですね。我々の要求を否定した挙句、同胞を三人殺したと」
「殺しただと……? あれはあんたらが先に手を出して――」
「私は別に嘘を吐いている訳ではないでしょう?」
それに対して、ギルドマスターは何かを言い返そうとした。しかし、喉元まで出かけたところで飲み込む。目の前にいる男には何を言っても無駄と言う事を察したからだ。
目を瞑って一つ息を吐いて落ち着くと、ギルドマスターは再び口を開いた。
「確かにネロは俺たちギルドと明白な繋がりがある訳じゃない。だから、あいつがどうなろうと俺たちに守る義務なんてない。だが、守るかどうかは自由。そうだろう?」
「えぇ、確かにそうですね。ですが、それは不可能だとあなたも知っているでしょう? 聞いていますよ、あなたが何度も彼をギルドへと勧誘していることは。三年もやってどうにもならなかったことが、今更どうにかなるとでも思っているのですか? 彼があなた方ギルドの庇護下に入るなんてこと、まずない。何より、現状のギルドに彼を守るような力はないと思いますが」
ギルドの主力の大半は対魔族に備えて王都へと赴き、わずかに残したメンバーは依頼に駆り出され続けている。
そんな状態でギルドが王国を相手に出来ることなど、たかが知れていた。
ギルドマスターは、舌打ちを一つしてから口を開く。
「ライリス王国とはこれまでずっと仲良くやってきたはずなんだがな」
「それは現在のような緊急事態に陥ることが無かったからですよ。こんな状態を綺麗ごとだけで済ませられるほど、世界は単純ではない。子供ではないのですから、そのぐらい分かるでしょう?」
そう言うと、ルノウは部下に死体の処理を任せて踵を返した。
「今夜にでも私は出立します。これでも忙しい身なものでね」
「……あんたとは仲良くなれそうにないな」
「同感です。まさかギルドを束ねる者が、こんなに頑固だとは思いもしませんでしたよ」
そう言って扉から出ていくルノウを、ギルドマスターは見えなくなるまで睨みつけていた。
☆
「すみません、通してください!」
ルークはそう言って人と人の間を通り抜けていく。ネロの騒ぎを聞きつけた野次馬が、ギルドまでの道に立ち塞がっていた。
ルークの後ろにはフェミとクラリィが続いている。
「ルークさん、あれって……」
そう言いながらクラリィが向けた視線の先には、小太りで煌びやかな装飾品を身に纏った男が数人の護衛を連れて堂々と歩いていた。誰なのかは分からないが、周りの人々が道を譲っているところから、それなりの人物と言う事は分かる。
「クラリィ、それは後にしよう! それよりも今は師匠たちの所に!」
「そうだよクラリィ。私たちに何かできることがあるとは思わないけど、何か手伝えることがあるかもしれないし」
「……そうですね」
三人は、
その後、ようやく辿り着いた三人の視界に入ったのは、地面にベットリと付いた真っ赤な血痕だった。
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