第08話 帰還
「「「「ありがとうございました」」」」
ルーク達は商人に向かってそう言って頭を下げた。
そんな彼らに商人は笑顔で軽く手を振って応える。
ギルドへの出入りのチェックは、商人のように大きな荷物を持った者と、それ以外の者で分けられる。ルーク達四人を運んでくれた商人とはここで別れることになる。
「やっと着いたね」
フェミは背伸びをしながらそう言った。
いくら歩かなくても済むと言っても、道中動かずに荷台の上というのもそれなりに疲れるものだ。三人の顔にはそれが顕著に表れていた。
ただ一人、ベウロはそういった感じが無かった。
「よく眠れました。お陰で頭がスッキリしてます」
笑顔でそう言うベウロに、三人はあきれ顔を浮かべる。
「ベウロさんもあまり熟睡しているようには見えませんでしたけど……」
クラリィのその言葉に、他の二人も頷く。
片膝を立てて目を瞑っているだけの姿は、とても眠っているようには見えない。
「そうですか? 僕はあれで十分休めたんですけど……」
ベウロはそう言いながら、不思議そうに三人を見つめた。
冒険者と違って町や村の中でも警戒を怠ることの出来ないベウロは、基本的に熟睡しない。そうした生活をずっと続けていたため、今ではすっかれ慣れてしまったのだ。
そんな話をしながら順番を待ち、門番にギルドカードを見せて四人は中に入った。
☆
「こんなに貰えるんですね……」
ベウロはルークがギルドの受付から受け取った報酬を見て、そう呟いた。
「ベウロがいつも受けている依頼よりも難易度が高いからね。個人で受け取る量は人数によるだろうけど……。ベウロも一人で依頼をこなしてきた訳じゃないだろうし」
依頼は通常、複数人で受ける。
知り合いがいなければギルドマスターが仲介し、同じレベルの実力者と引き合わせてくれる。それは駆け出しの冒険者として偽装しているベウロも例外ではない。最も、ベウロの場合はともに依頼を受ける仲間は全て顔馴染みなのだが。
「はい。よく依頼を一緒に受けている冒険者が何人かいます。……ほら、丁度あそこに」
そう言ってベウロが人差し指を向けた先には、ランドンから何かを教えてもらっている冒険者の姿があった。
それを見て、ルークとフェミは思わず吹き出した。
「ランドンも同じ事してたんだね。フェミは知ってた?」
「ううん、知らなかったよ。でも、見てるとなんか面白いよね。私達って昔あんなことがあったせいで、ランドンの印象って人に物を教えるような者とは限りなく遠いから」
ランドンから何かを聞いていた冒険者はベウロに気が付き、軽く手を振った。ベウロも同じように手を振って返す。
それを見たランドンはルーク達の存在に気が付き、気まずそうな表情を浮かべてから教えていた冒険者を連れて半ば強引にその場を離れた。
ルークとフェミは少し申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「なんか悪いことしちゃったかな」
そう呟いたフェミに、クラリィは首を傾げた。
「そんなことは無いと思いますけど……? 話を聞く限り、今の状況になったのもランドンさんの責任でしょうし」
☆
四人は報酬を四等分してから建物の外へ出た。
そこで、ベウロは何かを思い出したように口を開いた。
「あの、次の依頼はいつ受けるのですか?」
ルークは腕を組んで少し考えてから、その問いに答えた。
「三日後の朝にここに集合しよう。それまでは休みたいかな。ベウロと違って荷台じゃあまり休めなかったから……」
「私もそのぐらいは休みたいかな。それに武器を修繕する素材を補充しておきたいし」
「分かりました。僕も次に備えて三日間しっかり休息をとっておきます。普段より多めの報酬が入ったので、いつもより良い食事も出来そうですし」
そう言うベウロに、フェミは「使い過ぎないようにね」と一言を添えた。
それから少し話して解散しようとしたところで、クラリィが皆を呼び止めた。
「ルークさん、フェミさん。一応ですけど、ベウロさんに私たちのいる場所を教えておいた方が良いんじゃないですか? 暫くは一緒に依頼を受ける事ですし」
それもそうか。
そう思ったルークとフェミはクラリィの提案を了承し、ベウロに三人が寝泊まりしている宿を教えた。
その後ベウロは自分の居場所を聞かれ、少し答えにくそうな表情を浮かべた。
「すみません、あまり稼ぎが無いので安い宿を転々としていて……」
それを聞いて、ルークとフェミは懐かしさを覚えた。
それは余程の才能が無い限り、冒険者なら誰もが通る道なのだ。
「そっか。まあ、何か困ったことがあったら遠慮せずに僕らの所に来てよ。多少の手助けは出来ると思うからさ」
「はい。ありがとうございます」
その後二言三言交わし、四人は解散した。
三人は三日後までの暫しの休息に胸を下ろし、
☆
蝋燭によって、暗く冷たいその部屋に二人の人影が揺られていた。
一人はひょろりとした体型の男。もう一人は中性的な童顔に、低身長というとても幼い外見の人間だ。
それはギルドのとある場所の地下。一部の人間しか知らない、限られた空間だ。
「お疲れ様です。早速ですが、話を聞かせてもらってもいいですか?」
「うん。そのために来た訳だし」
ベウロはビトレイの問いかけに、笑顔でそう答えた。
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