第09話 分析

「ベウロ君の見込みではどれぐらいの戦力が必要だと思う?」


「ルークとフェミは僕一人でも大丈夫だと思う。ルークの方は変に対人慣れしてそうだけど、二人とも感知能力はそんなに高くなさそうなんだ。僕が隠密スキルを使えば、背後から襲うぐらいの事は簡単かな」


「対人慣れですか。……やはり、ネロさんが関係しているのでしょうか?」


「そんなこと、僕が分かるわけないじゃん」


「それもそうですね。すみません、変なことを聞いてしまって」



 頬を膨らませて抗議するベウロに、ビトレイはそう答えた。



「さて、その二人は良いとして残りは――」


「クラリィだね。あの子は多分、僕一人じゃ抑えきれない。もし放置しておけば、かなり化けるんじゃないかな。殺すにはもったいないぐらいにはね」


「あなたがそう言うのなら、相当なのでしょうね。ですが、ネロさんが魔族を庇っている時点で見過ごす事は出来ません」


「じゃあ、クラリィにも呪術を使うってのは?」


「話を聞く限り、無傷でとらえるのは難しいのでしょう? 私としては、たった一人の才能のためにこちらの戦力が失われることは避けたい。少しでも危険な要素があるのなら、それを考える必要はありません」


「団長が連れて行った人数をまだ補充しきれてないもんね」



 ベウロが団長と呼んでいるのは、ルノウが魔女の村へと向かわせた元デスペラードのリーダーであるバジルの事だ。ルノウの警戒度を考慮し、バジルは相応の人数を連れて向かった。その中にはかなりの実力者もおり、三年程度で補充しきれるものではなかった。



「そういえば、結局消えたっていう村はどうなったんだっけ?」


「王国の方である程度の調査はしたようです」


「忙しそうな状況なのに、そんなことする暇はあるんだね」


「勿論、表向きには何も……いえ、標的である少年の戦友が捜索に出ていたはずです。それでも数人で、数日と聞いています。調査に出たのはその後の事です」


「結局見つからなかったんだよね。ターゲットだった危険人物も、そこにいたはずの村人も、団長と団長が連れて行った仲間も」


「その通りです。今では魔物の仕業ということになっているはずです」


「魔物の?」


「その村は一度魔物に襲われています。それに味を占めた魔物、もしくはそれを見ていた他の魔物が襲ったのではないかというのが今の見解です。魔物の中には人の居なくなった建築物の一部を巣へと持ち帰って利用ものもいますからね。バジルさん達もそれに巻き込まれた可能性があります。デスペラードは対人においては最強ですが、対魔物は中層冒険者並みですから」



 ビトレイはそう言ったが、それは事実ではなかった。魔女の村があった場所には、今もミラの作り出した人間以外の生命を吸い取る魔法陣が組み込まれている。だから未だに魔物が踏み込むことは無い。そして、村が襲われた原因である魔族は、村が消えたその時には謎の落雷によって消え去っているはずだった。

 それでも、一年が経過した頃にはルノウも調査から完全に手を引いていた。理由は当時のソラが魔物に囲まれて生きていられるほど強くないことと、ミラ・ルーレイシルという存在が復活していないことを確信したからだ。魔女の村周辺は強くはないが魔物が存在する。例えソラが魔女の村から何らかの要因で離れたとしても、一年以上も生きていられるはずがない。

 つまり、ルノウはそこで何かがあったとしても王国にとって調査をしなければならないほどのリスクは存在しないと思い込んだ。



「とにかく、私たちには戦力的余裕がありません。これ以上失う訳にはいかない。なので――」


「確実に殺れ、ってことでしょ?」


「そういうことです。最終的な目的は『ネロさんたちが庇っている魔族の確保』と『持っている情報を出来得る限り吐かせること』です。その上で確実に皆殺しにします。あくまでそのための人質ですから、二人だけ生かしておけばそれで構いません」


「二人? 一人じゃダメなの?」


「ネロさん達の実力は間違いなく高いですし、移動手段もあると聞いています。出来ることなら一人をネロさんたちの前に提示して、もう一人を隔離しておきたいのです」


「あぁ、その方法ならやったことあるから分かるよ。無理に人質を取り返そうとすれば、もう一人は確実に死ぬって脅すんでしょ? 提示する人質は四肢を切り落としておくと効果的なんだぁ」



 ベウロは不気味な笑みを浮かべながら、楽し気にそう口にする。



「やり方はあなたたちに任せます。ですが、くれぐれもルークさんたちの前でその顔はしないでくださいよ」


「え? あぁ、ごめんごめん。つい……」



 自分の頬を軽く両掌で叩き、ベウロは表情を元へと戻す。それでも、口元はどこか楽しげなままだ。



「それで、実行はいつにすればいいの?」


「最後の依頼にしましょう。ベウロはあと数回はルークさんたちに同行することになります。念のため、その間は様子を見てください。勿論、確実に計画を遂行できるようにするために」


「じゃあ最後の依頼はどうするのさ? 依頼はルークさんたちが適当に選ぶんだよね?」


「私がそれとなく仕向けておきます。計画はベウロ、あなたにお任せします。今回は状況が状況なので、場所はこちらから選択肢を提示することになりますけどね」


「了解。僕は適当に人選を考えておくよ。あぁ、楽しみだなぁ~」



 そんなことを言うベウロに、ビトレイは真面目な顔で忠告をする。



「くれぐれも早まった行動はしないでくださいよ?」


「そんなことしないよ。だって、計画通りに進めればクラリィは好きに殺していいんでしょ?」


「それは……そうですが……」



 笑顔の絶えないベウロに、ビトレイは思わず額を押さえた。

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