第07話 治療

 ユーミアはミィナに支えられながら座り、服を脱いだ。露出した体には所々血で滲んだ包帯がまかれている。

 パミアは慣れた手つきでスルスルとそれを外していった。ミィナは顔をしかめながらも、それから視線を逸らすことはしなかった。



「どうにか良い方向には進んでいますけど、まだ油断は出来そうにないですね。何しろ傷が深いですから、とにかく雑菌が入らないようにしないと……。薬を塗ったら新しい包帯を巻くので、まだ安静にしていて下さい」


「ありがとうございます、パミアさん」


「さん付けなんてしないでください。ユーミア様は私の先輩のようなものなんですから」



 そう言いながらパミアは傷口に薬を塗りこみ、綺麗な包帯を巻いていった。

 今朝、ミィナが落ち着きを取り戻してから三人で状況を共有した。パミアは驚きながらも、どうにか現状を受け入れていた。

 パミアによる手当てを横目に、ミィナはただ心配をしていた。



「パミアさん――」


「ミィナ様も、パミアさんなんて呼ばないでください。どうか私の事はパミアと……」



 ユーミア以外の者に下手に出られたことがなかったためか若干戸惑ったミィナだったが、どうにか持ちこたえる。



「パミア、ユーミアの傷は後どのぐらいで治るの?」


「傷の様子から察するに二か月から三か月は安静にしておいて方がいいかと……。動いて傷口が広がってもいけませんし。すみません、魔法で治癒できる者がいればもっと早く治せるのですが……」


「ハーミスさんの判断なら仕方ありませんよ。それに、パミアに治療してもらえているだけで私は満足です」



 光魔法を使えば、完治とまでは行かずとも薬を塗って自然治癒を待つよりは遥かに早く傷を癒すことが出来る。しかしスキルを扱える者が希少な魔族において、光魔法を扱えるというのはそれだけで重宝される。

 そんな目立つ人材を、身を隠さなければならないユーミアにあてがうことは出来なかった。



「その……ミィナ様とユーミア様はずっとここに隠れて過ごす、という訳にはいかないのでしょうか?」


「最終的にはハーミスさんに指示を仰ぐつもりではいますが、それは難しいと思います」


「それはどういう理由で……?」



 この場所に留まればセントライル領であるため、味方も多くいる。だから何かあっても守り切ることが出来るだろうとパミアは考えていた。

 しかし、ユーミアはそうは思っていなかった。



「ミィナ様を隠しきるのがかなり難しいからです。領主の一人娘とだけあって、ミィナ様の名前も魔族としての特徴も広く知られています。何より、ミィナ様のスキルは放っておけるような次元のものではありません。パミアの言っていた通り捜索が既に始まっているのなら、この場所も直に追っ手がやって来るのは間違いありません。それに、この場所にはもしもの時に守ってくれる味方が多いとは言っても、魔王様と対立するようなことになればハーミスさんの努力が水の泡になります。ハーミスさんが行動を起こしていないのなら、私たちもそれに合わせるです」



 ミィナが貧困街でユーミアを守るのに使ったスキルは既に周囲に広まっている。そもそも、隠し通せるようなものではなかった。辺り一帯の木々や草花が死滅し、外傷のない死体が転がっている様を見れば、だれでもその異様さには気が付く。そして現在、ユーミアが危惧した通りスキルの持ち主の捜索が現在始まっていた。幸いスキルを目撃した者の大半はミィナのスキルに巻き込まれた。だが、ユーミアがミィナを抱きかかえて飛び立ったところを見た者は少なくなかった。

 今朝話した時、ハーミスから聞いたその話をパミアは二人に伝えていた。



「ごめん、ユーミア、パミア。私のスキルのせいで……」


「ミィナ様のそのスキルのお陰で私の命助かったのです。謝る必要なんてありませんよ」


「ユーミア様の言う通りです。寧ろ、謝りたいのはミィナ様の事を全く知らなかった私の方です」



 丁度その時、ミィナのお腹から可愛らしい音が聞こえてきた。

 ほほを赤らめるミィナに笑みを浮かべつつ、パミアは口を開く。



「私、昼食の準備をしてきます。お二人はここで休んでいてください」


「ううん、私は手伝う」


「そんな、ミィナ様に手伝わせるなんて――」


「パミア、ミィナ様はお料理上手ですよ?」


「いえ、そういう話では……」



 拒もうとしていたパミアだったが、自分に視線を向けてくるミィナの後ろでユーミアが合図を送っているのに気が付く。きっと何か意図があるのだろうと思い、パミアはミィナに手伝ってもらうことにした。



「ではミィナ様、お手伝いをお願いします」



 その言葉に、ミィナの表情は途端に明るくなる。

 ユーミアには大した意図があったわけではない。ただ、ミィナが何もできない自分を嫌っていたことを知っていただけだ。



「じゃあちょっと待っててね、ユーミア!」


「はい。ミィナ様のお料理、楽しみにしています」



 ミィナはユーミアに元気よく手を振りながら、扉の向こう側へと消えていった。

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