第09話 消失
ギルドから人が消えた。
ルーク達がギルドへと辿り着いた時、そんな噂がギルド中を駆け巡っていた。皆が一様に魔族のせいだと騒ぎ立てていたが、三人にはその原因が魔族だとは思えなかった。
「ルーク、これって……」
「今はギルドマスターにベウロの件を報告する方を優先しよう。ベウロはランドンが教えてた子と知り合いって言ってた。ベウロの仲間は僕たちが思っているよりも近くに、それも沢山いた。師匠はギルド内にはもういないって言ってたけど、もしかしたら気付いていない敵が潜んでいるかもしれない」
フェミとクラリィはルークの言葉に頷き、足早にギルドマスターの元へと向かった。
三人が目的地へと辿り着くと、ギルドマスターが待ってましたと言わんばかりに奥の部屋へと連れて行った。
「一先ず、お前らが無事で良かった」
「師匠たちのお陰です。それが無かったら今頃僕らは……」
そう答えるルークに、ギルドマスターは歯切れ悪く言葉を並べる。
「やっぱりベウロか……」
その言葉に三人は頷くことをしなかったが、首を横に振ることもしなかった。
少しの沈黙の後、クラリィが口を開いた。
「あの、ネロ様は何か気が付いていたんですか?」
「いや、多分だが気付いたのはネロじゃなく、魔法使いの嬢ちゃんだ。最初は半信半疑だったらしいんだが、バジルって名前を聞いて何か思い当たる節があったらしくてな」
バジル。
その名前を出されても、三人はいまいちピンとこなかった。
「デスペラードのクランリーダーの名前だ。人前に姿を見せることはほぼないし、俺がその姿を最後に見たのは三年前だ。お前らが知らなくても無理はない。その様子だと、バジルという名前にネロ達が反応した理由はお前らに聞いても分からなさそうだな」
ギルドマスターは更に言葉を続ける。
「それで、今回の依頼で何が起こったんだ?」
そんなギルドマスターに、三人は身の回りで起こった出来事を説明した。
「結局目的は断定できない、か……」
含みのある言い方に、三人は首を傾げる。
「心当たりがあるんですか?」
「その通りだ、クラリィ。あくまで仮定だが、目的がネロだと考えればある程度合点がいく。この仮定が正しければ犯人は十中八九、国の連中だろうぜ。この間来たルノウとかいう大臣ならやりかねない」
「……でも、ベウロが僕らの元に連れてこられたってことは、少なくとも数年前からギルドにいたんですよね?」
「あぁ、ベウロは間違いなくギルドの生まれだ。だが、それはあまり関係ない。問題はデスペラード……いや、副ギルドマスターであるビトレイと言った方が早いか。お前らはギルドから人が消えたって噂を聞いたか?」
「はい。僕らがここへ戻ってきたときには皆が話してましたから。道中であった人は魔族が犯人だろうと言っていました」
「その件の犯人、お前らは魔族だと思うか?」
三人は答えなかったが、それだけでも言いたいことは伝わった。
「俺は間違いなくネロの仕業だと思った。いくら戦力が王都へ流れているとは言っても、ギルドでこんな真似出来るはずがない。仮に魔族の中にそれが出来る者がいるのなら、人間なんてとっくに滅んでる。可能性があるとしたらネロぐらいだ」
「待ってください、ネロ様は――」
焦りながら口を開いたクラリィを、ギルドマスターは手で制した。
「あぁ、分かってる。あいつは意味もなくこんなことをするような奴じゃない。そのぐらい、俺やギルドの連中は理解してる。だから俺がお前らの受注履歴を探している間に、ヴィレッサに調べさせた」
「調べさせたって……。一体何を……?」
ルークのその言葉に、ギルドマスターは深刻そうな表情を浮かべながら答えた。
「消えた人間の事をだ。今までの経歴や人との繋がり、更にはそいつの家の中までな。まだ数時間しか調べていないが、ある程度の情報を集めることは出来た。まず、現状で調べ終わっている姿を消した人間の全ては、ビトレイを頂点としたピラミッド型の大きな組織を形成している。これ自体は大して不思議なことじゃない。何と言っても、ビトレイはトップクランであるデスペラードの創始者だからな」
ギルドマスターは一呼吸置いてから再び口を開く。
「問題はビトレイの血筋と今までやっていた事だ。さっきルノウという名前を出したの、覚えてるよな? ビトレイはあいつの弟だ」
それを聞いて、三人は一瞬固まった。
「……つまり、デスペラードは国の命令で行動しているクランだと言う事ですか?」
ルークの言葉に、ギルドマスターは頷いた。
「そうだ。ギルドでは偽の依頼を作って、それを遂行した事にしていた。実際にやっていたことは国からの命令だ。俺がベウロの目的がネロだと推測出来たのは、やけにネロに対して執着していたルノウ大臣が裏で糸を引いていると分かったからだ」
今度はフェミが口を開く。
「待ってください、ギルドマスター。いくらビトレイさんが副ギルドマスターをしていたと言っても、偽の依頼を作って、それを遂行したことにするなんてこと出来るはずが……」
「それはビトレイが単独で行動していたらの話だろう? 冒険者は人が消えたと騒いでいるが、あいつらが知っている消えた人間は冒険者ばかりだ。だが、消えたのはそいつらだけじゃない」
「……っ! まさか、ギルドの職員も――」
「ここで働いている人間の一割は確実に姿を消している。国とギルド、それぞれ独立した立場であるとされている。さっきも言った通り、まだ全てを調べきった訳じゃないから確証はない。だが、恐らくギルドは――」
ギルドマスターがそこまで言った時、言葉を遮るようにバンッという大きな音が響いた。勢いよく扉を開いたのは副ギルドマスターであるヴィレッサだった。
「ギルドマスター!」
「何だヴィレッサ、今俺は大事な話を――」
ギルドマスターの返答など気にせず息を整えると、ヴィレッサは再び口を開いた。
「ギルドに……魔族が現れました」
ヴィレッサのその言葉で、場に緊張が走った。
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