第04話 扱い方
ソラ達は道無き道を進んでいた。ハシク伝いに魔物や獣からギルドらしき場所を聞き出し、そちらへと向かっている道中である。さほど急ぐ理由もなかったため、4人でのんびりと歩いていた。その道中、ソラは感知範囲内でミラに指示された素材を探し、いくつかの素材が集まったところでミラはそれを手の上で『錬金術』を使って何かを作り始めた。そして、素材が集まってから数分でそれは完成した。
「ソラ、少しこれを着てみてくれんか?」
そう言われてミラがソラに渡したのは鼠色のコートだった。首元に留めるための紐が付いている。ソラは渡されたそれを服の上から羽織った。
「妾の鑑定スキルで見えないという事は、余程の事がない限り見破られる事は無かろう。後はフードじゃな。ソラ、悪いが一度かぶってくれぬか?」
ソラは言われるがままにフードをかぶる。大きめに作ってあるのか、深くかぶった訳でもないのに目元のあたりまで隠れている。それを見たミラは満足げな表情を浮かべ、ティアとハシクは目を見開いた。
「ご主人様の顔が……」
「我は魔道具についてはからきしだが、まさかこんなものもあったとはな」
「え? どうなってるの?」
「ティアに着せて自分で見てみるのが一番早いのではないか?」
ミラの提案通りソラはコートを脱いでティアに渡し、ティアはそれを着てソラと同じようにフードをかぶった。するとティアの顔の方は見えるのに、直視しようとすると表情がぼやけてあやふやになるという奇妙な現象が起こった。ソラは思わず目をこすったが、それでもその現象が収まる事は無かった。
「ここまですれば怪しまれることはあっても、国の連中に見つかる事は無かろう。後は――」
そこまで言うと、ミラはソラの方をちらりと見た。
「話し方を変えるとかじゃな」
「話し方? 僕ってそんな特徴的な話し方してないと思うけど……」
「その僕ってのを変えるだけでも随分と雰囲気が変わると思うのじゃがな。雰囲気が変わるだけで本人かどうか特定するのは難しくなるものじゃよ。まあ、あくまで特定されにくくなる程度ではあるのじゃが」
ソラは王都の人間からは身を隠すつもりでいた。もし王都へ戻ったとして、自分を庇っていくれる人間がいることはソラにも分かっていた。だからこそ戻れなかった。きっとディルバール家は庇ってくれるだろうが、それはルノウ率いるゴディブル家を挑発することになりかねない。なにより、ソラはせっかく抑えた感情を表に出さないためにも国の人間と会いたくなかった。
「……俺とか?」
「うむ、それが良かろう。時にハシクよ、ギルドとやらまではどのぐらいかかるのじゃ?」
「このペースだと数週間は掛かると思うぞ。我の足なら一日もかからぬだろうが……。お主らが良ければ我が連れて行ってやってもよいが、どうする?」
ハシクのそんな提案に、ミラは首を横に振った。
「いや、妾はこのままが良いと思うのじゃが……」
そう言いながら、ミラはソラの方へと目を向ける。
「ソラ、スキルを初めて使ってからどのぐらい経つのじゃ? 話を聞いた限りでは数か月だと思うのじゃが……」
「そのぐらいであってるよ。ぼ……俺の村が襲われたのが数か月前だから」
「それならもう少しスキルの使い方を練習しておいた方がいいと思わぬか?」
その言葉にソラは一考したが、結果は考えるまでもなかった。これ以上失わないためにもスキルを使うことを躊躇わない。そう決めたソラだったが、扱いこなせていないスキルでは躊躇う躊躇わない以前に使うことが出来ない。
「具体的にはどうすればいいの?」
そう言われてミラは少し考える。ミラの記憶を辿っても前例の無いスキルであったため、具体的のどうすればいいのか分からなかったのだ。大半のスキルの場合、使えば使うほど上達していく。だからミラは見聞きしたソラのスキルから練習方法を想定した。
「……スキルを連続で使ってみると言うのはどうじゃ? ソラのスキルは確かに強力じゃが、インターバルがあれば弱点になってしまうからな。スキルの強力さを考えればそれが弱点なのかと言われれば微妙な所じゃが……。後は一応魔法の類なのじゃから、武器に纏わせてみるとかどうじゃ?」
そんなミラの言葉に一つ頷くと、小太刀を鞘から抜いた。すぐにでも実行しようとするソラを見て、ミラは焦り気味に止める。
「ソラ、ちょっと待て。妾たちは少し離れる。何かの間違いで暴走でもしようものなら妾たちにそれを防ぐ手段なんて無いのじゃからな。そこの神獣に何かあれば話は別じゃが……」
「いや、我もソラのスキルを止めるような術は持っておらん。離れるのが良かろう」
そんな会話の後、ソラから三人は距離を取った。ティアはもしもに備えてハシクの背中の上だ。
「ソラ、もうよいぞ!」
そう言われたソラは武器に力を込めようと試みるが、そんなことをしたことがないために感覚が分からなかった。そもそもソラは、スキルを目で見える形で発動させたことがないのだから無理もない。
そんなソラの様子を察したミラが声を掛ける。
「ソラ、そう言うのはイメージが肝心なのじゃ。自分の作り出したい形をイメージするとやりやすいと思うぞ」
そう言われて、ソラは武器の方に目を移す。武器の長さや大きさを目で見て頭でイメージし、スキルを使う。
「出来た……」
ソラの持っている武器は刃の部分が黒い何かが纏われていた。それは武器の刃と同じ形をしているが、炎のように不定形で、ゆらゆらと流動していた。それを確認した三人が戻って来る。
「凄いです、ご主人様!」
「比較するものがないから凄いのか分からないけどね」
そんな言葉に、ミラが反応する。
「武器に属性を纏わせるのはさほど難しくない。問題はどれほどの威力を込められるかじゃが……」
そう言いながらミラはソラの手に持たれた武器に目を落とす。
「ソラの場合それは問題なさそうじゃな。そもそも全力であの威力なのじゃからさほど心配はしておらんかったのじゃがな。逆に暴発するのが怖かったぐらいじゃ」
その様子をじっと見ていたハシクが、そこでようやく口を開いた。
「お主のそれ、振るうとどうなるのだ?」
「どうだろう……」
「そこら辺の木でも切ってみると分かるのではないのかや?」
そう言われて、ソラは近くにあった一本の木の前に立ち、武器を横なぎに振るった。それなりのサイズの木だったため、ソラはそれなりに力を込めて振るった。だが、木を切るときに抵抗は全く感じなかった。
ドスンッ
ソラの剣が通った部分が消え、木は上下に分断される。ソラの武器が通った隙間を埋めるように上の部分が音を立てて落下し、そのまま木は倒れた。
「まあ、予想通りの結果じゃな」
その切り口はソラのスキルの効果で異常なほど奇麗で、鋭利な刃物で真っ二つに切られたようだった。
だが、ソラはそれを気にすることもなく首を傾げていた。
「ご主人様、どうかなされたのですか?」
「いや、何か急に武器が軽くなった気がして……」
それを聞いて、何かに気が付いたようにミラは声を挙げた。
「ソラ、スキルを解いてみるのじゃ。スキルの効果から察するに――」
ミラの指示通りにソラがスキルを解くと、先程までソラのスキルで覆われていた部分の刃は消滅していた。
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