第02話 プライド
ギルドの受付で報酬を受け取ったソラ達を、ギルドマスターは呼び止めた。
「まさかお前たちが受けるとは思わなかったぞ。俺も止めようとは思ったんだが、ウィスリムの奴のプライドが高いせいでなかなか譲らんでな。結局、お前の同意が取ることを条件に許可することになったんだ」
その言葉にソラは首を傾げた。
「ウィスリム?」
「名前も知らずにあの話を受けたのか? ……まあいい。ウィスリムはクラン『ロート』のリーダーだ。ロートはギルドの中でもトップと言われる二つのクランのうち一つでな、俺がこの怪我をするまでリーダーを務めていたクランだ。そっちの二人は知っているだろうがな」
そう言いながらギルドマスターはルークとフェミの方に視線を向けた。
「はい、ギルドマスターがロートに所属していたのは僕らでも知っているぐらい有名な話ですから」
「ですけど、ギルドマスターが抜けてからは……その……」
フェミは言い始めてからそれを後悔した。ギルドマスター本人の前でするような話ではなかったからだ。そんなフェミの言葉の続きを、他でもないギルドマスターが続けた。
「もう一つのトップクランである”デスペラード”に劣っている、と言う話だろ? 俺はそんな噂気にしちゃいないし、実際そうでもないと思っているんだが……。ウィスリムのやつはそれが自分のせいだと思っている節があってな。今回お前らにつっかかったのもクランとしての威厳を保ちたいからだろう。悪いな、俺がもう少し上手く面倒を見てやれれば――」
申し訳なさそうに口を開くギルドマスターの言葉をミラが遮る。
「気にするな、師が同じであっても弟子が同じようになるとは限らぬ。それに、妾たちとしては都合も良いしな。もし妾たちが勝てればそれ相応の依頼を受けられるのじゃろう?」
「あぁ、指名の依頼ってやつだ。クランの中に知り合いがいたりすると、優先的にそっちに依頼を回してくれってやつも多くてな。実力が認められていればそんな風に依頼先に指名されることも珍しくない」
「その話だけ聞ければ満足じゃ。悪いが妾たちにはやらねばならぬことがある」
「どうやら本気でウィスリム達に勝つつもりみたいだな。でもまあ、勝負云々は抜きにしてもいい勝負さえできればある程度の評価は貰えると思うぜ?」
それを聞いて、ソラは内心で安心していた。敵の攻撃を受け流すことに関しては自信があったからだ。それだけならば目に見える形でスキルを使う必要もない。
「これ以上の長話は邪魔になりそうだな。一か月後、俺も見に行かせてもらうとしよう」
それだけ言うと、ギルドマスターはその場を立ち去った。
ソラ達はそれを見送ってから、ミラが指示した簡素な材料といくつかの日用品を買ってギルドを出た。
☆
暫く歩き、森の中に入ったところでルークとフェミが不安げに口を開いた。
「本当にこんなところに家なんてあるんですか?」
「私、この辺りは魔物が多発してるって聞いたことあるんですけど……」
「魔物の類については気にせずともよい」
ミラのその言葉に、ルークは少し呆れ気味に質問を返した。
「それは師匠たちが強いからですよね? でも僕らは――」
「そうじゃないよ。確かに俺とミラがいれば魔物はどうにかなると思うけど、そもそもこの辺りにいる魔物は人間には近づかないから」
「少なくともご主人様がここで生活している間ですけどね」
「それってどういう……」
「ここには魔物なんぞよりよっぽど質の悪いのが住み着いておるからな」
そんなミラの問いかけに、どこからともなく声が返って来る。それは少し威圧感のあるものの、不思議と嫌悪感を全く感じない力強い声だった。
「それは我の事ではないだろうな?」
「そう荒立てるな。別に間違っているわけでもあるまい?」
「まあよい。それはそうと、そ奴らは誰だ?」
その問いかけに、気配も無く突然現れたハシクに驚いていたルークとフェミが我に返った。
「ぼ、僕はルークと言います。それで、こっちがフェミです」
「初めまして、フェミです」
ハシクから自然と発せられている雰囲気で、ルークとフェミは咄嗟に畏まった。
「あまり畏まるな。ソラ達からお前たちの話は聞いている。が、ここに来るとは聞いていなかったな」
「あぁ、それは――」
ソラの話を一通り聞いて、ハシクは一つ頷いた。
「成程な」
「だから一か月ぐらいはここに居るかもしれないんだけど、別にいい?」
「元々我はソラについて来ただけだからな。お主が良いのならば文句はない。我としては、我と関係なければ問題ない。真面目な話、我はあまり人間に肩入れするべきではないからな」
神獣。その存在は人や魔族、魔物の上にある絶対不変の存在。そんな存在が争いごとに介入しようものなら様々なバランスが壊れる。自然の中にあるピラミッドの外にいるハシクが、その中に無理やり入り込んだ結果がどうなるかは分からない。ただ、ソラ達に分かるのはそれをするべきではないという事だけである。
「それもそうじゃな。それよりも今は夕食を急ぐとしよう、もう日も暮れて来ておる」
「そうだね。ティア、僕にも手伝えることある?」
「はい、それなら――」
そんなやり取りを見ながら、ルークとフェミの頭には一つの疑問が浮かんでいた。ソラ達のやり取りは生活を共にしている家族のそれだった。頼れる仲間がいない訳ではないし、ソラとミラの力があればギルドでも高報酬の依頼を受けられることは目に見えていた。にも拘らず、こんな森の中で生活をしている理由がどうしてもわからなかった。
「そういえば、二人は同じ部屋でよいのか?」
「僕はどちらでも構いません」
「わ、私も一緒でもいいです。……あの、私の部屋を用意できるほど大きな家なんですか?」
「今はない。が、気にする必要はない」
ミラに掛かれば森に生えている木々を変形させて家を作ることなど造作もない。それに加えて必要ならばソラのスキルで地下資源を回収することも出来る。
そんなことなど全く知らないルークとフェミは案内されるがままに歩き、家の前について驚いた。それは木製、一階建ての立派な一軒家だった。魔物が現れてもおかしくない森の中には不似合いなその家に驚きつつ、フェミが口を開いた。
「師匠、こんなところにこんな家って一体いくらしたんですか?」
「お金は掛かってないよ。これ全部ミラのお手製だから」
「そもそも妾たちは金など持っておらんしな」
「ご主人様たちはそのためにギルドに行ったんですよ」
その後、自分たちのために辺りに生えている木を使って部屋を作るミラを見て、ルークとフェミは目を点にしながら自分たちとは次元が違うのだと理解した。
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