第03話 戦い方

 森の中の家で一夜を過ごしたルークとフェミは、ソラとミラの元に分かれて鍛錬をしていた。



「まずは妾が手本を見せる。まずは見様見真似で同じことをしてみるがよい」



 そう言いながらミラがフェミに見せたのは、錬金術を使って鉄鉱石から純鉄を取り出すといったものだった。机の上にある鉄鉱石にミラが手をかざすと、鉄と結びついている物質が鉄から切り離され、パラパラと重力に従って落ちていった。鉄の部分を持ち上げて息を吹きかけると、奇麗な色をした純鉄が姿を現す。

 フェミはミラの真似をしようと試みたが、フェミの使った鉄鉱石は徐々に崩れ、遂にはひびが入って割れてしまった。



「す、すみません!」


「謝らずともよい。……ふむ、物質を引きはがすこと自体は出来ているようじゃな。後は鉄と言う物質をきちんと理解していないと言ったところか。まずはこれを持て」


「は、はい」



 そう言ってミラが渡したのは、ミラが先程取り出した純鉄だ。



「目を瞑れ。その状態で出来るだけ感覚を研ぎ澄まして物質を読み取れ。難しく考えずとも、まずは触れて感触や匂いを感じるだけでも良い。それがどんなものなのかを出来るだけ詳しく、自分なりに理解することじゃな」



 フェミは言われた通り目を瞑って、手の上にある純鉄を自分なりに感じ取ろうとした。そんなことをしながら、フェミがふと思った事を口にする。



「師匠、他の錬金術師の方達が使っている魔法陣は何なんですか?」


「あれは今フェミがやろうとしていることの代わりをしているだけじゃ。物質や目的によって種類が分かれるのがその証拠じゃな。一長一短じゃから一様にどちらがいいとも言い難いが、冒険者として錬金術を扱うのならばこちらの方が良かろう。そちらに慣れてしまった者は、フェミがやろうとしているのと同じことは出来ぬと思うぞ」



 ミラの話を聞いて、フェミはうっすらと笑みを浮かべた。ずっと他人に出来て自分が出来ないものばかり見てきたフェミにとって、その逆があると言うのはどことなく嬉しく、誇らしかったからだ。そのせいもあり、フェミはより一層目標に達せるように努力を重ねた。

 一方のルークは、家の外でソラと刃を交えていた。



「ハァ、ハァ……」


「少し休む?」


「いえ、まだ大丈夫です。それより続きをお願いします!」



 どんな手を使ってもいいからソラに一撃を入れる。それがルークに言い渡された課題だった。だからルークはミラに自分の思いつく仕込み武器をいくつか作ってもらい、ルークなりに駆使して使った。初め、ルークはそれを使うのを躊躇っていた。付いているのは本物の刃であり、明らかに無傷では済まないからだ。だが、次第にどんな奇策であってもソラがまるで見透かしているように躱し続けるために、今となっては半ば意地になって躊躇いなく仕込み武器を使った攻撃を繰り出していた。

 残りの仕込み武器は一つ。ルークはそれをソラに当てるために出来るだけ避けられない状況を作ろうと試みる。



「はぁっ!」



 ルークの放った刺突はソラによって斜め上方へと受け流される。次の瞬間、ルークの服の裾から小さなナイフが飛び出す。だが、それがルークの袖を飛び出すころには、ソラの短剣はそれを防ぐための位置へと移動していた。キンッという金属音と共に、ルークの最後の仕込み武器だったナイフは地面へと落ちた。それと同時にルークも地面へと崩れ落ちる。



「お疲れ様です、ご主人様、ルークさん」


「ありがとう、ティア」


「あ、ありがとうございます」



 ルークはティアが持ってきてくれた水を飲み干すとともに口を開く。



「今度こそは……」


「少し休んだら? 体壊したら意味無い訳だし」


「……そうですね。でも、せめて師匠に少しは汗をかかせてからにします」



 それを聞いて、ソラはルークが負けず嫌いな性格であることを実感すると同時に、目的を話したくなった。ソラに一撃を当てると言うのはあくまでルークがやる気になりそうな目標であり、目的ではないことを。だが、それはどうにか飲み込む。



~今朝~



「ルークの方は何を教えればいいの?」


「ソラは攻撃を受け流すか躱すかを続ければよい。今回のルークの目標は仕込み武器の使い方をマスターする事じゃからな」



 仕込み武器は本来、相手の意表を突いた攻撃をしたり、武器を隠し持ったりするためのものだ。ルークが目標とするのは前者だ。だが、そう言った類の武器は使用する状況やタイミングが限られる上に、奇策である時点で本来躱すことが困難である。そのため、対人で練習するのは大きな危険が伴う。だが、都合のいいことにここにはそういった奇策が通じない人間がいる。要するに、ソラはルークが自分で使いやすい仕込み武器を見つけ、それを使いこなせるようになるまで練習相手をすればよい。というのがミラの弁だった。ルークに目的を言わなかったのは、性格を加味したうえでの結果だ。



「了解、出来る限りの事はやってみるよ。それで、フェミの方は何をするの?」


「妾が作った仕込み武器あるじゃろう?」


「あぁ、ルークに渡してたやつ?」



 ルークが現在装備している数点の仕込み武器。それはミラによって作られたものだった。とは言っても、近くに自生している木と、買ってきた鉄鉱石を素材にして作っている。その仕組みは将来的にフェミでも作れることを想定して比較的簡易なものにしてある。



「それじゃ。あれで使う刃はほぼ消耗品と言ってもよい。じゃから、フェミの目標はルークが使う仕込み武器で消耗する部分を作れるようになることじゃな。刃こぼれした武器の修復ぐらいは自分で出来るようにはしておいた方が良かろう。最終的には自分とルークの装備の作成・整備が出来るようになれば完璧じゃな」


「そこまで出来れば僕らの手助けも必要なさそうだね」


「そうじゃな。自分でそこまで出来るようになれば資金も幾分かは節約できるじゃろうし、利点は大きかろう。後は妾たちがルークとフェミに依存せずに依頼を受けられるようにさえなれば完璧じゃな」



 ソラとミラの最終的な目標はギルドマスターの言う失踪の様なことにならない程度の実力を二人に身に着けてもらうこと。そして、自分たちがルークとフェミに頼らずとも依頼を受けられるようになることである。



「さてと、一先ずはあの二人のことに専念するとしよう」



 そんなミラの言葉と共に、二人はルークとフェミの元へとそれぞれ移動した。

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