第四章 セントライル

第01話 生活

「てぃあー、これはどうすればいいのー?」


「あぁ、それは――」



 小さな魔族の少女から質問され、ティアは丁寧に調理方法を教えていく。

 そんな様子を後ろから見ながら、ミラが呟く。



「少し前までは、ティアが屋敷まで料理を教えて貰いに行っておったはずなんじゃがな」


「今では完全に逆だね。ティアが料理教室を開いてるみたいになってる」



 初めこそ警戒されていたソラ達だったが、街を回って警備をする中で警戒心よりも好奇心が強い子供たちが少しずつ集まり始めていた。そうして子供と接する中で大人の警戒心も少しずつだが解けていき、今では「ソラさん達の場所にいるなら安心ね」とまで言われるまでになっている。

 気が付けば、毎日のように子供たちが集まるようになっていた。子供たちが手元を離れ、且つ安全なところにいるのは親からすれば都合が良いようで、最近ではお礼として食材を届けてくる者も多い。

 そして、そのほとんどが集まってきた子供の胃袋へと収まる。

 ソラとミラがそんな話をしている中、家の扉が開かれる。



「今戻っ――」



 ハシクはすぐに踵を返そうとしたが、既に遅かった。

 元気いっぱいの子供たちに集られ、「遊ぼう」とばかりに家の外へと引きずられる。



「ソラ! ミラ! 手を振ってないで助け――」



 バタンと扉が勢いよく閉められた。



「まさか、ハシクが子供に弱かったとは思わなかったよ」


「どんな時も崇められる立場じゃったからな。弱いというよりは慣れていないのじゃろう。ティアとは大違いじゃ」



 そう言いながらミラが向けた視線の先には、言われた仕事をこなしては、次の仕事を求める小さな子供たちを手際よくさばくティアの姿がある。

 ティアを囲んでいるのは女の子がほとんどで、男の子たちは先ほどハシクを引っ張って外へと行ってしまった。



「ティアは慣れてるというよりも、向いている気がするけどね。ここから見ている限りじゃ、随分と楽しそうだし」



 そんな時、ティアの方から声が飛んでくる。



「ご主人様、そろそろ準備をお願いしてもいいですか?」



 ソラは頷くと、ミラと共に立ち上がった。





 ソラとミラは外へと出て、小屋の中から机を運び出す。 

 集まっている子供の人数は、とても家の中に納まりきるようなものではない。だからわざわざミラが小屋まで作ることになった。天気の良い時は外で、悪い時は小屋の中に背の低い机を並べて皆で立食をする。それが最近の日課となっていた。

 背の低いとは言っても、机を運ぶのは子供には荷が重いため、そのほとんどはソラとミラの役割だ。



「ソラさん、ミラさん、手伝います!」



 が、中でも年長者の男の子たちが手伝ってくれることもある。

 それらを並べ終えると、布巾で机の上を拭く。ここまできてようやく、外での遊びが中止される。机の上を汚さないためだ。

 ぐったりとした様子のハシクが、ソラとミラの元にやってくる。



「お疲れ」


「あぁ、本当に疲れた。子供はどうも好かんな」


「どんな所が?」



 そう聞くソラに、ハシクは真顔で答えた。



「早く沢山食べるところだ」


「いや、それは別に悪いところではなかろう。寧ろ、子供はそんな姿を望まれることが多いはずじゃ。というより、それはハシクに関係なかろう?」


「何を言っている。我の食べる分が減るではないか」



 大人げない。

 ソラとミラはそう思ったが、どうにか言葉を飲み込んだ。

 その後、皆で机の上に料理を並べた。それが終わりかけていたころ、誰かが来客に気が付いた。



「ミィナ様だ!」



 その言葉に呼応するように、みんながそちらへと走り出す。ソラの耳には様々な言葉が聞こえてくる。



「ミィナ様、私の作った料理食べて!」


「ミィナ様は料理するの?」


「ミィナ様、ご飯食べたら一緒に遊ぼー!」


「ハシク様、食事はもう暫くお待ちください」



 最後に何か聞こえた気がしたが、ソラは聞かなかったことにした。

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