第05話 公開

 ルノウは魔族の捕縛に成功した事と、三日後にそれが王都へと到着する事を玉座に座っているブライに報告していた。

 ブライの隣の椅子にはその妻であるハリアが座っており、二人の左右には二人の子供であるシュリアスとカリアが立っている。



「ルノウ、その話は誠なのか?」


「はい、間違いありません」



 その後、ブライからプレスチアと似たような質問をされたルノウは同じように答えた。



「そうか、それならば確かにルノウに任せるしかない、か……」


「何かご不満がおありで?」


「いいや、ルノウにそれを任せることに不満などない。ただ、本当に人間の中に裏切り者がいるのならば、魔族が捕らえられたという噂を聞いた途端に逃亡する可能性もある」



 魔族に手を貸すなど、これ以上ないほどの大罪だ。そんな人間が本当にいるのならば、逃がすわけにはいかない。

 少し考える素振りを見せてから、ルノウが口を開いた。



「それならば、直前まで魔族を捕縛したという事実を隠しておくというのはどうでしょうか? 城の一番広い玉座の間に多くの貴族と護衛の兵士を陛下の命令として呼びつけ、捕縛した魔族が到着次第彼ら全員の前で私が拷問を開始します。ライリス王国では貴族が多くの指揮権を持っています。仮に王都内の裏切り者が発覚した場合は、素早い行動が出来るかと」



 それを聞いて左右を見ながら唸るブライを見て、すかさずルノウは言葉を付け足した。



「勿論、陛下を含めた王族の方々がそれを見ることを拒否なさるのなら、これに参加する必要はありません。素早い行動をするためにも、指揮権の頂点である陛下には別室で入手した情報を逐次確認してもらう事にはなりますが……」



 その言葉に、シュリアスはすぐに反応した。



「僕は参加したいです。僕は国を守っている兵士と違って、魔族との戦場の悲惨さを見ていない。それに、拷問何て今まで何度もやってきているはずです。僕はこの国の王子として、その現実をこの目で見ておきたい。それぐらい知っておかなければ、兵士たちに指示を出すなんておこがましくて出来ません」



 それならば私も、と切り出したカリアにハリアが心配げな表情で制した。



「カリア、無理をする必要はありませんよ? あなたは魔物との戦闘すらしたことがありません。いきなりそんな場面を選ばなくとも――」


「私はあの時――ソラの故郷が消えてしまった日に誓ったのです。絶対に後悔しないように、自分に出来ることは出来る限りやる、と。私はもう、自分が無力で何もできない悲しさを味わいたくないのです。この経験がいつの日か役に立つのかもしれないのなら、私は逃げるようなことはしたくない――いえ、絶対にしません」



 真っすぐな瞳を向けてそう言う娘に、ハリアは諦め顔を浮かべた。



「あなた、私は参加してカリアに付き添います」


「あぁ、それが良さそうだな。カリアが厳しそうだったら別室に連れて行ってくれ。カリアもそれでいいな?」


「はい、構いません」



 こうして、魔族に対する拷問は王族と多くの貴族の面前で行われることが決定された。

 ルノウは魔族が捕縛されている事実を知っている者に口止めをしてから部下の監視を付け、プレスチアに事の次第を報告し、そして兵士長であるルバルドと副兵士長であるスフレアを呼び出した。



「――という訳だ。三日後、二人には王族の護衛を頼みたい」



 ルバルドとスフレアは伝えられた事実に呆気にとられながらも、どうにか持ちこたえた。



「分かりました」


「元より、国民と王族を守るのが私たちの仕事ですから。断る理由なんてありません」



 そう答えた後、ルバルドは「それと――」と言葉を付け加える。



「先程の話からすると、その魔族は呪術で縛り付けている訳ではないのですよね?」


「あぁ、残念なことにな。連絡によれば、魔族は飛行可能な翼を持った、華奢な体躯らしい。攻撃は鉤爪の様に伸ばすことが可能な両手の爪だ。ただし、翼は捕縛する際に片翼を切り落としていることから飛行は出来ないと考えていい。爪の方もさほど強度は無く、捕縛する際に一撃を加えただけで簡単に切り落とせているそうだ」



 その言葉に、今度はスフレアが口を開く。



「爪ですか……。それで拘束を解かれるような可能性は無いのでしょうか?」


「簡単な縄だけなら無くはないだろうな。しかし、両手には鉄製の手錠、両足には鉄製の足枷と鉄球を付け、その上で胴体を翼ごと鋼のロープで縛り付けている。そこらの兵士が身に付けているような武器で切り落とせたことを加味すると、例え凶器となり得る爪を使ったところで拘束を解くことは出来ないだろう」



 それに加え、捕縛のために行われた戦闘で既に満身創痍。ユーミアがだけで逃げ出すことなど、絶対を付けていいほどに無理だ。



「それと二人には、護衛の兵士を選別して欲しい。予想外の事態に柔軟に対応できる者が望ましいな。当日は王族に加えて王都中の貴族に招集をかける。ないとは思うが、もしもの場合に備えて出来得る限り守りは固めておきたい。私かプレスチア大臣の手が必要なら声を掛けてくれ。プレスチア大臣も事情は知っているから手を貸してくれるはずだ」



 ルバルドとスフレアはその言葉に頷くと、少しの間二人で話し合ってからすぐに行動を開始した。

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