第02話 予定
ソラと別れた翌日、ライム、パリス、レシアの3人は訓練場へと集まっていた。それ以外にも、兵士を志願した者が列を作っている。前からはスフレアの張り上げた声が聞こえる。
「今日からあなた達を兵士として迎え入れます。それにあたっていくつか説明しておかなければならないことがあるので屋内に移動します。付いて来てください」
それからスフレアに続いてぞろぞろと兵士たちが移動する。その先にあったのは椅子と長机が全員がずらりと並べられた部屋だった。
スフレアが前に立ち、説明を始める。
「まず始めに、兵士の仕事の種類についてです。大きく分けて二つあります。一つはもしもの時に備えて、王都や各地の街や村の守りを固める事。もう一つは魔族と小競り合いが続いている前線に出て戦う事です。あなたたち新人には最初の一年は後者に徹してもらいます。とはいっても後方支援を軸に安全地帯での仕事になると思います」
新兵を前線に出すのは、前線の事を知っておいて欲しいから。王都や街、村の衛兵としての仕事は魔物と戦うことはあっても、余程の事が無ければ兵士の中に死人が出る様な規模の戦闘にはならない。そのため、そんな規模の戦闘を知らなければ、もしもの時に対処できない可能性が出てくる。その可能性を少しでも下げるための方法として、新兵を最初の一年、最も規模が大きいであろう魔族との交戦地へと送り込むのだ。
「次に指揮権についてです。あなたたちの指揮権の全てはブライ陛下にあります。ですが、ブライ陛下お一人で各地の状況を考慮して指示を出すのは不可能ですし、場所が離れていれば指示を送るまでに時間がかかります。そのため、あなたたちの指揮権は、各地域を治める貴族に割り振られることになると思います」
これが『王族』、ルノウ率いるの『ゴディブル家』、プレスチア率いる『ディルバール家』に所属が分かれる所以である。王族のいる王都を守る兵士は王族直下。そして、それ以外の兵士の指揮権は各貴族に割り振られる。その貴族がゴディブル一派とディルバール一派に分かれるのだから、必然的にそういった勢力図が完成する。
また、貴族の中には地域を治めることなく王都で政治的な仕事をする貴族もいる。ルノウやプレスチアはその一人だ。一般的に各地を治めている貴族よりも、彼らの方が地位が高いとされている。
「最初の一年を終えた後、あなたたちに希望を聞きます。人数の関係もあるので希望する場所へと行けない者もいるとは思いますが、その者たちは後々移動できるタイミングがありますのでその時にまた希望を出してください。また、魔族との交戦地については人数が足りなければこちらから催促する場合があるかもしれません」
そう言い切るとスフレアは一つ息を吐き、再び口を開いた。
「ここまでの話は一年後から先の話です。ここからはその一年後までの話をします。まず、あなたたちの役割ですが――」
そこからの説明は戦線へと移動してからの話。それに加えて、これからの予定が発表された。翌日には王都を出て、数週間は戦場の後方にある安全地帯での作業。数週間を過ぎ、王都へと戻ってきたら数日の休暇。それが終われば再び戦場へと向かう。最初の一年はそれの繰り返しだ。
それを聞き終えてその日は解散となった。少し緊張気味の面持ちで話を聞いていたライムが肩の力を抜き、一息つきながら呟く。
「明日からかぁ……」
「ライムさん、その後の配属にもよりますけど忙しいのは最初の一年だそうですよ」
「そう言えば父上がそんなことを言っていたな」
「2人は今のところ何処を希望するの?」
「私は王都でのお仕事を希望しようと思っています」
「僕も王都かな。父上の仕事の手伝いもしたいし……。ライムはどうするんだ?」
「2人と同じだよ。最初は魔族との交戦地を希望しようとしたんだけど、両親の猛反対を受けちゃって……」
交戦地となると、必然的に死傷者も増える。そんな場所をライムが希望しようとしたのは、そこで戦う事の重要性を理解していたからだ。スフレアの言ったように催促しなければならない状況になるほどに希望者は少ない。だが、逆に言えばそこまでしなければならないほど重要な場所なのだ。それが崩れることは魔族が人間側に踏み込める領域が増えることを示す。つまり、すべての人間が危機にさらされることを意味する。
「親の危ない所には行って欲しくない、という気持ちは納得できますね」
「僕が一人っ子ってのもあるのかもね。将来的にはパリスみたいに親の手伝いとか跡継ぎって可能性もあるし」
「多分そう言う理由は関係なしに心配しているんじゃないかな。子供が一人だろうが、そうじゃなかろうが親は心配するものだと思うよ。僕とレシアも母上にはかなり心配されてるからね。父上は心配してくれてはいるだろうけど、僕らのやりたいようにすればいいって言ってくれているんだ」
そんな話を聞いて、ライムはどこか納得気味に答える。
「プレスチアさんはそう言いそうだね。心配と言うよりも、信頼されてるんじゃない?」
「そうかもしれないね。父上は基本的に僕らがやりたいって言った事はやらせてくれるから、そう言われるとしっくりくるよ」
「それに、お父様も兵士として前線に立ったこともあるようなので、私たちにもそれを経験してもらいたかったのかもしれません。貴族として兵士に指示を出すのなら、そういったことを知っているのとそうでないのとでは違ってくるでしょうし……」
そんなレシアの言葉にパリスもライムも大きく頷いた。ここに居る全員が貴族であるため、誰にだってそう言った可能性はあるのだ。
「ライム。明日から王都を出る訳だけど、今日も来るんだろう?」
「そのつもりだよ。流石に早めに上がるつもりではいるけどね」
「それなら私もお兄様たちにお付き合いします」
そんな会話をしながら3人はディルバール家へと向かった。
☆
その日の夜、調査を終えたルバルド一行は王都へと戻ってきていた。
ルバルドは王都へ戻ると同時に城へと向かい、ブライへの報告を行った。そこは玉座の間で、玉座にはブライが座っている。ブライの左右にはルノウとプレスチア、そして彼らに付いている護衛の兵士。周りにはその報告を聞くべく複数の貴族が集まっていた。
「消えた……だと……」
報告を聞き終えたブライはそう呟いた。
「はい。焼き焦げた跡があったので、目撃通り雷系統の魔法で屋敷事消し飛ばしたのでしょう。調査をする対象が無かったため、それ以外の事は分かりません」
ルバルドの言葉通り、屋敷は焼き焦げた建物の土台の部分を残して消滅していた。それは例え複合魔法だとしても、一個人には絶対に出来ないレベルのものだった。もしそんなことが出来るのならば、明らかに別次元の存在だ。
ブライの隣でその報告を聞いていたルノウが口を開く。
「まさか魔族が……」
焦りの表情を浮かべながらそう言うルノウに、ルバルドは首を横に振った。
「僭越ながら意見を述べさせていただくと、私は神獣の力と言う可能性が高いと考えます」
その言葉に皆が目を見開き、ブライが全員の気持ちを代弁するように口を開いた。
「神獣だと?」
「はい。ソラがそれらしきものを目撃したと言っていました。陛下たちに言っていなかったのは、ソラ自身確信を持っていなかったからでしょう。日が落ちてから遠目に見ただけのようでしたので。ですが、廃墟の様子を見る限り信憑性は十二分にあるかと思われます」
神獣の力がどれほどのものなのかは誰も知らない。だが、その力が、存在が人知を超えていることは誰もが知っている。だから神獣が関係しているのであれば、そんな異常なほど強力な魔法が使われたのも納得は出来る。しかし、そう結論付けたところで話が終わる訳ではない。
「ルバルド、お前以外の者で神獣が現れた原因を探るのだ」
「ハッ」
神獣は本来ならば、人の目に触れるようなところには現れない。古来より現れた際には何かしらの原因があった。それは人為的なものであったり、自然的なものであったり、多種多様である。現時点で確定しているのは神獣が現れるほどの事象が、王都からさほど遠くない場所で発生したという事実だ。
そんな話を聞いていたプレスチアは、ルバルドに提案するように口を開く。
「それなら私も手伝おう。いいですよね、陛下」
「いいもなにもそうしてもらえると助かるのは助かるが……。子供への指導はもうよいのか?」
「はい。明日からは子供たちも王都を出るので、問題ありません。それに、王都の危機の可能性があると言う時にそんなことを言ってはいられません」
「そうか、なら頼む。ルノウも頼めるか?」
「お任せください」
それぞれが胸の中に不安感を抱きつつも、その場はそれで解散となった。
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